コラム
2023年01月06日

昨年のJリート市場は8%下落。世界的な金利上昇が市場の重しに~NAV倍率で割安も、不透明感が強まる外部環境~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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2022年のJリート(不動産投資信託)市場を振り返ると、市場全体の値動きを表わす東証REIT指数は▲8.3%下落し、国内株式の下落率(▲5.1%)を上回った(図表1)1。2022年は年明け以降、海外ではインフレ高進に伴う金融引き締めやウクライナ侵攻など悪材料が相次いで投資家心理が悪化。NAV倍率で1倍を下回る水準では押し目買いから反発する動きもみられたが、12月20日に日本銀行が想定外の金融緩和修正を発表したことを受けて急落するなど、年間を通じて弱含みで推移した。もっとも、金利上昇と株価下落に見舞われて投資環境が急変した米国マーケットと比べると、国内市場の値動きは相対的に穏やかな1年だったと言える2
図表1:東証REIT指数とTOPIXの推移(2021年12月末=100)
続いて、市場規模を確認すると、上場銘柄数は61社で変わらず、時価総額は15.8兆円(前年比▲7%)に減少、運用資産額(取得額ベース)は21.9兆円(前年比+3%)で伸び率が鈍化するなど規模の拡大は一服となった(図表2)。また、Jリートによる物件取得額は8,783億円(前年比▲45%)にとどまり、アベノミクス効果で市場が本格回復した2013年以降では最も少なく、年間取得額は10年ぶりに1兆円を下回った。アセットタイプ別では、全てのアセットがマイナスで、なかでもオフィスの取得額減少(7,298億円⇒2,581億円)が目立つ。取得額全体に占める割合も昨年の46%から29%に低下し、物流(3,323億円、39%)に次いで第2位に後退した。投資口価格低迷で資金調達コストが上昇したことに加えて不動産価格が高値圏にあるため、Jリート各社は総じて物件取得に慎重な姿勢を示している。

一方、市場ファンダメンタルズは、市場全体の予想1口当たり分配金が前年比+2%となり、コロナ禍で落ち込んだ水準から回復基調にあり、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も前年比+5%と高い伸び率を確保した。この結果、12月末時点のバリュエーションは、分配金利回りが3.9%、10年国債利回り(0.4%)に対するイールドスプレッドが3.5%、NAV倍率が0.96倍となった。このように、Jリート市場は分配金やNAVが底堅く推移するなか、利回りでは概ね適正水準に、NAV倍率では割安な水準にある。
図表2:2022年のJリート市場(まとめ)
今後については、米国のインフレ動向と金融政策の舵取りが最大の注目点となる。米FRBはインフレ率が緩やかに低下すれば今年前半にも追加利上げを停止する可能性が高い。しかしながら、インフレ抑制に失敗し併せて米国の景気後退が深刻化した場合、金融市場が混乱しJリート市場への影響も避けられないだろう。また、国内では日銀総裁が交代し引き続き政策の枠組み見直しが焦点となる。

さらに、東京オフィス市場ではいよいよ大量供給を迎える。空室率の高止まりと賃料の下落トレンドが継続し調整局面が長期化するなか、新築ビルのリーシング進捗や2次空室の動向に留意する必要がある。

Jリート市場は割安感な水準にあるものの、外部環境の不透明感が一段と強まっている。投資家としては地に足をつけて、忍耐強く、適宜適切な対応が問われる1年になりそうだ。
 
1 配当を含めた年間の総合収益率は、Jリート市場が▲4.8%、国内株式市場(TOPIX)が▲2.5%であった。
2 米国10年金利は1.51%から3.84%に上昇、米国株式(S&P500)は▲19.4%下落した。
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年01月06日「研究員の眼」)

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