2023年01月05日

世界各国の市場動向・金融政策(2022年12月)-株価は下落したが、為替は対ドルで上昇

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:株価は下落したが、為替は対ドルで上昇する国が多い

22年12月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・12月は欧米中銀がタカ派な姿勢を堅持したこともあり、株価が下落する国が多かった。一方で為替は上昇する国が多く、日本でも日銀が政策修正したことから大きく円高が進んだ(図表1)。

(図表1)株・為替の上昇率(22年11月末~12月末日時点)

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2

初めに、ロシアの金融市場を確認すると、12月は通貨ルーブルの下落が目立った(図表4)。
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
12月は5日からEUのロシア産原油の禁輸(一部パイプライン輸入を除く、また石油製品の禁輸は23年2月5日から)が開始された。同時にG7および豪州により、ロシア産石油に上限価格が設けられ、上限を超える価格で取引された原油には制裁国の海上輸送関連サービスが利用できなくなった。こうした状況を受けて、ロシア産石油の需要が抑制されるとの観測がルーブル安圧力となった。なお、株や金利については、株は安定した動きが継続している。金利は急激な変動は見られていないものの、上昇圧力が継続しており10%を超える水準でじわじわと上昇している(図表4・5)。

次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、金属(アルミ、ニッケル)価格のうちニッケルが11月末から12月初にかけて上昇、アルミニウムや農作物は概ね横ばい圏で推移している(図表6・7)。ニッケル価格は中国のゼロコロナ政策の緩和とそれに伴う需要増の思惑が反映された可能性がある。
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
(図表8)エネルギー価格の推移 エネルギー価格(石炭、原油、天然ガス)は、欧州の天然ガス価格の下落が目立った。穏やかで風の強い天候がガス需要の抑制に寄与しており、また今後も数週間は穏やかな気候が続くとの観測が価格の下落を促した。
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、22年3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比▲4.0%、先進国が前月比▲4.3%、新興国が前月比▲1.6%となり、先進国を中心に下落した(前掲図表2)。なお、年間の騰落率は全体で▲19.8%、先進国▲19.5%、新興国▲22.4%だった。

国別の株価の動きを見ると、12月は対象国の47か国中、35か国が下落した(図表9、なお前年比でも35か国が下落している)。
12月はFRBおよびECBがいずれも利上げを決定し、利上げ幅をこれまでの0.75%ポイントから0.50%ポイントに縮小した。ただし、いずれの中銀も、インフレ抑制のための引き締め姿勢を当面継続することを強調し、市場に対して早期の引締め終了、緩和への転換がないことを念押ししており、株価への重しとなった。

通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比1.6%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比0.8%となりややドル安が進行した3(前掲図表3)。前年比ではNarrowベースで▲7.8%、Broadベースで▲6.5%だった。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、12月は36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは28通貨、下落(ドル高)したのは8通貨となった(図表11)。12月20日には日本銀行が金融政策決定会合において長期金利の変動許容幅を従来の「±0.25%」から「±0.5%」に拡大した。この変更が市場で織り込まれていなかったこともあり、円金利が急上昇、日本円も大幅に上昇した(図表12)。
(図表12)各国の対ドル為替レート変動率
 
3 名目実効為替レートは12月20日時点の前月末比で算出。

4.金融政策:欧米中銀の利上げ幅は縮小、日本は長期金利の変動許容幅を拡大

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)主要地域の金融政策
12月はG7のすべてで金融政策を決定する会合が開かれた。

英国イングランド銀行は9会合連続、カナダ銀行と米国FRBは7会合連続、ユーロ圏のECBは4会合連続となる利上げを実施した。このうち、イングランド銀行、FRB、ECBは利上げ幅を前回の0.75%ポイントから0.50%ポイントに縮小している。また、日本では、債券市場の市場機能が低下していることを理由として、長期金利目標の長期金利の変動許容幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大した。

一方、G7以外の国では、新興国を中心に利上げ局面が一服した国も散見される。

利上げを継続している国としては、オーストラリア(8会合連続の利上げ)、インド(5会合連続)、メキシコ(13会合連続)、インドネシア(5会合連続)があり、政策金利を変更していない国としてはポーランド(3会合連続の据え置き)、ブラジル(3会合連続)、ロシア(2会合連続)、ハンガリー(3会合連続)、チェコ(4会合連続)、トルコがある。このうち、ロシアとトルコは利下げ局面終了後の政策金利据え置きであり、トルコは11月まで4会合連続で利下げを実施していたが、12月には政策金利がエルドアン大統領の要求してきた水準(1桁台)まで下げられたこともあり、金利が据え置かれたと見られる。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年01月05日「経済・金融フラッシュ」)

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