2022年12月28日

VTuberの魅力をわかりやすく解説してみた-VTuberを構成する2つの魅力

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――「VTuberってなんだろう」

「VTuber」という名称を最近よく耳にするようになったと感じるのは筆者だけだろうか。「VTuber(バーチャルYouTuber)」とは2Dまたは3Dのアバター(キャラクター姿)を使って動画を投稿したり、ライブ配信活動しているYouTuberを指す。VTuberは2016年に活動を開始した「キズナアイ」の人気をきっかけに1続々と誕生し、「VTuber元年」と呼ばれた2017年当時の市場規模は、前年比約2.2倍の219億円で、2022年には2017年比約2.6倍の579億円規模に拡大すると予測されていた2。しかし、その予想を大きく上回り、VTuber市場は大きく拡大していき、中でもVTuber市場を牽引するバーチャルライバー3グループ「にじさんじ」を運営する大手事務所・ANYCOLORは、 2022年6月に東証グロース市場に上場するや否や、時価総額は2,000億円超を記録し、9月15日の決算発表後には約2,822億円に到達した4。現在の市場への注目度や後述する企業とのタイアップ数などを考慮すると、来年以降もVTuberの存在感は益々増していくと思われるが、「正直VTuberってよくわからない」「VTuberとYouTuberは名前は似ているけど何が違うの?」とイマイチ理解していない読者もいるのではないだろうか。本レポートではそのようなVTuber初心者でもわかりやすく、VTuberの魅力を解説していきたいと思う。もちろんVTuberの魅力を語りつくすことは困難である。そのため、本レポートで解説する内容に対して不十分であると思うVTuberファンがいることも承知しているが、あくまでも魅力の入門編であるという事を念頭に置いて読んでいただきたい。
 
1「VTuber/バーチャルYouTuber」という言葉が生まれたのは2016年にデビューしたキズナアイが初出だが、2011年から「Ami Yamato」というYouTuberがバーチャルキャラクターを使用して活動している
2 https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=21279  CA Young Lab、2017年国内YouTuber市場調査を実施 2018/0130
3 VTuberというフォーマットを使用し動画配信活動をする人の事
4 https://dime.jp/genre/1477561/  @DIME「国内市場は500億円超、海外市場は1兆円!?VTuberがエンタメ界を席巻する3つの理由」2022/10/11

2――2つの魅力‐(1)見た目

2――2つの魅力-(1) 見た目

VTuberの魅力の構造を簡略化すると、「見た目」と「提供されるコンテンツ」の2つに分けられ、それぞれがVTuberの魅力であると筆者は考える。まず「見た目」であるが、VTuberの見た目のベースは2次元のイラストであり、デザインはVTuberとして動画を投稿している動画投稿主自らがデザインしたり、専門のイラストレーターに外注したり、またはプロジェクトとして事務所がプロデュースしてデザインを作り上げていくなど様々である。髪の色がカラフルだったり、顔のパーツの特徴的だったり、服装にこだわったりと、デザインは三者三様である。筆者は、VTuberの容姿による差別化はデータベース消費的であると考えている。データベース消費5とは、物語そのもの6ではなくその構成要素が消費の対象となるようなコンテンツの受容のされ方を指す。ここで言う構成要素とはキャラクターを構成する目、耳、髪型、声、服などの様々な断片(パーツ)の事を指し、それらの視覚的なパーツ(記号)を複合的に組み合わせ「かわいい」「かっこいい」という感情を引き出しているのである7。そのため、構成パーツや属性(学生、巫女、ナースなど)の組み合わせ次第では千差万別の見た目となり、自分の理想的な姿に近づけたり、市場のトレンドに歩み寄ったりといくらでもアレンジは可能なのである。そこで数ある見た目から自分のお気に入りの見た目のVTuberを見つけることがVTuberコンテンツの楽しみの一つと言えるだろう。
 
5 東浩紀(2001) 『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』 講談社
6 漫画やアニメには大きな世界観(ストーリー)があり、その世界観を基に生まれたキャラクターの性格、境遇、人となり、容姿、ストーリーとの関りなど、物語消費におけるキャラクターは、そのキャラクターの持つコンテクストが消費されている。
7 これはVTuberに限ったことではなく、個々の作品ではなくキャラクターでデザインの魅力が選考されるようになった90年代以後、このような2次元イラストのデータベース消費は必然となっていった。特に2005年に流行語に選出された「萌え」という感情を引き出す2次元のイラストは、「黒髪ロング」「ネコミミ」「メイド服」など個人の萌えという感情を誘発する記号のブリコラージュによって成立してきた。

3――2つの魅力-(2) 提供されるコンテンツ

3――2つの魅力-(2) 提供されるコンテンツ

次に「提供されるコンテンツ」であるが、歌が得意なVTuberは「歌ってみた動画」、ゲームが得意なVTuberは「ゲーム配信」といったように、VTuber各々が自身の持ち味を生かした動画を日々配信している。また、生身の人間ではなく、アバターとなるバーチャルキャラクターが表立っているが故に、ラジオ感覚でVTuberコンテンツを消費する視聴者にとっては、そのキャラクターに付与される「声」もコンテンツを構成する重要な要素である。

また多くの場合、イラストのデザインからVTuberにはアイデンティティやキャラクター(性格)が付与される。例えば「にじさんじ」に所属する人気VTuber「壱百満天原サロメ」の服装は、黒と赤のドレスで、髪型は肩口から腰にかけて縦ロールのロングヘアーと、昔の少女漫画にでてくるようなお嬢様を想起するような記号で構成されており、その見た目から、お嬢様に憧れる一般人というアイデンティティが設定として付与され、そのアイデンティティを守るかのように「ですわ」と語尾につけて話している。彼女の動画は「ゲーム実況」や「ラジオ配信」が中心だが、そのすべての動画で「ですわ」口調が徹底され中毒性があることから、「ですわ」は視聴者の間ではコメントやSNSを盛り上げるネットミーム8として消費されている。

もちろん人気があるVTuberがいる一方で、なかなか軌道に乗れないVTuberもいる。数あるVTuberの中から視聴対象になるためには、キャラクターデザインの差や話題性ももちろんあるが、投稿される動画のクォリティも重要な構成要素である。ここで言うクォリティとはバーチャルデザインの質や動画の見やすさ、編集の上手さももちろん上げられるが、何よりもそのVTuberのトーク力や知識量など、VTuberを演じる動画投稿主の技量であり、見た目がいいだけではファンがつかないのが実情である。

また動画配信視聴の楽しみ方として、視聴者は動画投稿者(ここではVTuber)にコメントを送ることができる。通常、このコメントを動画投稿者が読んで質問に答えたり、歌のリクエストを受けたりする。ゲーム配信では、VTuberのゲームプレイ内容に対して、視聴者が「あーでもない、こーでもない」と他愛のないヤジを飛ばしたり、ゲームプレイに助言などをし、それにVTuberが反応することで笑いが生まれたりする。VTuberの視聴者との「掛け合い」もコンテンツを成立させる要素と言えるだろう。このように、「かわいい」や「かっこいい」といった感情を誘発させる記号を組み合わせた「外見の部分」と「動画のカテゴリー」「声質」「アイデンティティ」「クォリティ」「視聴者との掛け合い」が組み合わさることで価値が創造され、「提供するコンテンツ」との掛け合わせからお気に入りのVTuberを見つける事がVTuber市場そのものの魅力といえるだろう。
図1 VTuberを構成する2つの魅力
 
8 インターネット上で、人が人の真似をして「特定のモノやコト」が広がっていく様子や「それ自体の事」を(インター)ネットミームと呼ぶ。ネット上で生まれた言葉やコンテンツの流行と考えたらわかりやすいかもしれない。

4――匿名性と覆面性

4――匿名性と覆面性

VTuberというアバターを使用する事で生まれる動画投稿主の「匿名性」や「覆面性」もVTuberの魅力を際立たせる要素と言えるだろう。素顔を出さず、素性も謎であるが故に、視聴者に提示されているのは作り上げたキャラクターの設定と、2次元のイラスト、それとそのキャラクターにあてられた声だけである。その中で、演者(動画投稿主)の人間味のあるトークや感情が溢れて出てしまった素のリアクションなど、時折見せるキャラクターイメージとのギャップもVTuberというフォーマット故の特有の魅力なのである。VTuberによってはそのギャップ自体をコンテンツとして捉え、例えば前述した「壱百満天原サロメ」は、デビュー配信で自身の‟内面“を知ってほしいと「住民票」や「胃カメラ写真」を公開し、お嬢様に憧れる一般人と公開された投稿主のプライベートすぎる内面とのギャップが大きな話題を生んだ。

併せて、覆面性が故にネットに素性を明かすことができない人がコンテンツを発信できる点も魅力だ。諸般の事情で容姿を晒すことができない人でも表現者になれるため、YouTuberより入り口が広いといえるだろう。また、顔を出さないからこそ専門家やプロも参入しやすく、配信者にとってもメリットは大きい訳だ。
図2 匿名性・覆面性がもたらすメリット

5――企業とVTuberの関わり方の変化

5――企業とVTuberの関わり方の変化

昨今では、VTuberと企業との関わり方も大きく変化している。冒頭で紹介した「キズナアイ」は、VTuberの草分けとして注目され、民放のテレビ番組に出演するなど知名度を拡大していった。それ故に企業とタイアップすることも多く、ローソンやブルボン、資生堂などがプロモーションの一環で彼女を起用していた9。現在でもVTuberを活用した企業のプロモーション事例は増加傾向にある。株式会社エビリーが行った「VTuberのトレンド推移」によれば、VTuberとの親和性が高いゲームやWebアプリジャンルのタイアップ案件数はもちろんのことだが、それ以外の食品、化粧品、アパレル、観光業といったジャンルにおいても年々案件数は右肩上がりとなっている10
図3 VTuber関連タイアップ動画数の推移(ゲーム・Webアプリジャンル)
図4 VTuber関連タイアップ動画数の推移(ゲーム・Webアプリジャンルを除く)
一方で、「にじさんじ」に所属する「周央サンゴ」は2021年末に三重県にあるテーマパーク「志摩スペイン村」の魅力について配信したところ、その様子をまとめた切り抜き動画11が拡散されたことで、志摩スペイン村にも注目が集まり、志摩スペイン村の公式Twitterのフォロワーは1.5万人から約5万人まで増加した。実際に周央サンゴをきっかけに訪れる来園者も多く、志摩スペイン村も彼女の影響力を認識しており、2022年8月には志摩スペイン村と周央サンゴのコラボYouTube動画も投稿された。VTuberはいわゆるアニメのキャラクターのように、声によってキャラクターに命が吹き込まれていると思われがちだが、実際は見た目が2次元のインフルエンサーのような側面も持っており、彼ら、彼女たちの口コミ(トーク)は消費者を動かす影響力も擁しているのである12

また、昨今では企業が独自でVTuberをプロデュースする「企業系VTuber」の例も増えてきている。例えばサントリーホールディングスの「燦鳥(さんとり)ノム」は、チャンネル登録者16万9,000人(2022年12月現在)の人気企業系VTuberの一人で、商品紹介だけでなく、歌やトークなどの動画を配信することで、新たな消費者との接点を生み出している。実際に『動画で紹介した商品を飲みました』『ノムちゃんを応援したいからサントリー製品飲んでいる』といった声もあり、推し活の一側面として考察するのならば、彼女が紹介している商品を購入して彼女を応援したいという応援消費は、間接的にサントリーそのものに対する親近感やロイヤリティを生んでいるといえる。他にもロート製薬株式会社の「根羽清ココロ」や株式会社サンリオの「なつめれんげ」など企業系Vチューバー業界に進出している企業も増えている。2022年3月19日には「根羽清ココロ」が主催する「企業系V人狼 2022」と称した企業系Vチューバーだけが参加するゲームライブ配信もされ、企業系Vチューバー独自のコミュニティも形成されている13,14
表1 企業系VTuberの一例
ここまで記したように、「企業とのタイアップ」「VTuberがインフルエンサーとしての影響力をもつ」「企業自体がVTuberを運営する」といったように、企業とVTuberの関わり方は変化している。
図5 企業とVTuberの関わり方
このように企業によるVTuber起用が続く背景には、VTuberならではのリスク回避ができるからであると筆者は考える。現実世界のアイドルやアーティスト、YouTuberやインフルエンサーは認知度も高く広告効果も大きいかもしれないが、プライベートでの不祥事やスキャンダルによって起用した企業のブランドイメージや商品イメージが損なわれるリスクもある。一方でVTuberは前述した通り匿名性・覆面性があり、動画投稿者のプライベートでのスキャンダルにより企業イメージを損なう事はなく、あくまでも架空の存在であるVTuber自体の評価が影響を及ぼすのである。配信中の多少の失言のリスクはあるかもしれないが、配信をしていないときに生まれるリスクは皆無でもあり、インフルエンサーとして企業もタイアップに使いやすいわけである。更にタイアップ動画だけではなく企業系VTuberのようにVTuberプロジェクトそのものを企業が管理するならば、益々リスクを軽減(コントロール)することができる。
 
9 2022年2月26日に活動休止しており、現在は表立った活動はしていない。
10 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000181.000021986.html 株式会社エビリー「2022年版!VTuberのバズるポイントは?最新トレンド調査」2022/10/26
11 ハイライト動画
12 https://www.kankomie.or.jp/report/detail_1248.html三重県観光連盟公式サイト 観光三重「周央サンゴさんが絶賛する「志摩スペイン村」を全力紹介!」2022/11/30
13 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000180.000044879.html「業界初!企業系VTuberだけのゲーム大会「企業V人狼2022」3月19日開催決定!」2022/03/14
14 特にTwitterでは、企業が運営する企業アカウントが商品紹介だけではなく、ネットミームを用いて、他のユーザー(消費者)と交流したり、他の企業アカウントとSNS上で交流し、その交流を他のユーザーに見せることで、面白い企業という感想をもってもらい消費者との新しい接点を創造している企業も多い。2019年6月21日にはタカラトミーのTwitterアカウントが主催となって、花王やサントリー、井村屋など16社のTwitterアカウント運営者が参加する「#中の人令和版人生ゲーム大会」が開催されている。企業系VTuberのように新しい接点を創造したり、他の企業アカウントとコミュニティを形成するなど従来から企業のSNSがインフルエンサーのような機能を持つことはあった。しかし、企業SNSは企業の名前を背負っていることもあり、過剰な消費者とのなれ合いや、ネットミームを使用することで失言を生んだり、企業アカウントとしてふさわしくない投稿が炎上することも多々あった。一方企業系VTuberは商品宣伝よりも歌やトークなどエンターテインメント性が求められており、SNSの企業アカウントと比較してそもそも期待されていることが異なるため、エンターテインメント性の提供という側面から見れば、SNSよりも適したプラットフォームであると考えられる。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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【VTuberの魅力をわかりやすく解説してみた-VTuberを構成する2つの魅力】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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