2022年12月23日

2020年に公表されていた厚労省の試算が年金ツイートの契機に-「年金」を含むツイートの投稿契機 (2022年9月下旬~10月)

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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3 ―― 総括:年金改革案を紹介する3記事が投稿の契機になったが、内容は2020年の厚労省試算

1|投稿の傾向:年金改革案を紹介する記事が投稿の契機に
これまでの観察から、分析対象となった年金ツイートには次のような傾向が推察される。
 
  • 9月28日と10月11日と10月15~16日に年金改革案を紹介する記事を参照するツイートが多く、記事を見て記事の脇にあるアイコンからツイートが発信されていた可能性がうかがわれた。
     
  • これらの記事を紹介するツイートへの返信や引用も多く、Twitterの中で流通していた情報も投稿の契機になったことがうかがわれた6
     
  • 返信ツイートは、引用リツイートや新聞やニュースのサイトへのリンクを含むツイートよりもツイート数や投稿者数が多かったが、返信の対象は引用やリンクの対象より分散していた7
     
  • 返信ツイートや引用リツイートではなくリンクも含んでいない単独で発信されたツイート(e: 単独発信)も、引用リツイートや新聞やニュースのサイトへのリンクを含むツイートと概ね連動して投稿が多くなっていた。話題になっているツイートとして表示されたものを見て、自身の意見などを投稿した可能性が考えられる。
     
  • リツイートや いいねは、投稿契機によって多い日が異なる傾向が見られた。リツイートについて詳細を確認すると、年金改革案に関する記事やツイートのほか、参照や返信や引用が少ない記事やツイートを参照・返信・引用したツイートにも多く集まっていた。その中には、返信や引用の対象となったツイートに「年金」が含まれていないものもあり、リツイートや いいねの多さだけでは年金改革案が話題になっているかを判断できないことが示唆された。
 
6 記事を紹介するツイートに含まれるリンクからWebページに掲載された記事を閲覧し、その脇にあるアイコンから投稿した、というパターンも考えられる。
7 返信対象のツイートを確認したところ、返信ツイートの18%は自身の投稿に対する返信(おそらく返信対象のツイートの続きや補足など)であり、また25%は自身への返信ツイートやリツイートに対する返信(すなわち往復のやり取り)であった。このような状況が、返信対象が分散していた理由の1つだと考えられる。
2|考察:注目された記事の内容は2020年の厚労省試算。今回の注目で周知が進展
今回の期間では、年金改革案を紹介する3つの記事(図表7)や、これらの記事を紹介するツイートに注目が集まった。ツイートの投稿契機(返信、引用、参照、単独)を問わず、また通常のツイートかリツイートかも問わずに注目を集めたのは、注目すべき状況であろう8。Twitterでは注目を集めているツイートが画面に表示され、そのツイートがさらに多くの注目を集めがちである。今回の状況は、この仕組みの影響と言えよう。
図表7 注目された記事
ただし、今回の期間に注目を集めた3つ記事の内容は、2020年12月に厚生労働省が公表した「追加試算」と題した資料に載っていた改革案であり、今回の期間に新たに判明した事実ではなかった。例えば、9月28日に掲載された日本経済新聞の記事や9、同記事を参照している10月11日のマネーポストWEBの記事の内容は、2021年9月に当時の田村厚生労働大臣が記者会見で述べてTwitterで注目を集めた改革案(「追加試算」のうちマクロ経済スライドの調整期間を一致させる案10)でもあった11。また、10月15日に掲載された共同通信の記事の内容(「追加試算」のうち国民年金の納付期間を45年へ延長する案12)は、2014年や2019年に厚生労働省が公表した改革素案(オプション試算)に同様の案が含まれていた。しかし、いずれの記事にも2020年12月に公表されていた内容であることの記載はなかった13

このように以前に公表されたり話題になった改革案が再び記事で取り上げられたのは、次期年金改革に向けた有識者会議(社会保障審議会 年金部会)が間もなく招集されて議論の対象になる、という推測があったためだと思われる。しかし、これらの案が公表されてから再び記事で取り上げられるまでに議論の進展は特段なく、2022年10月25日に招集された次期年金改革に向けた有識者会議(社会保障審議会 年金部会)でも論点として示されなかった。図表5で2番目に引用数(ツイート数)が多かったツイートでは「結局、以前批判が出ていた案がそのまま採用される形。」と発言されていたが、実際には採用が決まったわけではない。

とは言え、次期年金改革に関する議論は始まったばかりであり、これらの改革案が今後議論される可能性も十分に考えられる。図表7の記事や関連するツイートが注目を集めたことで、これらの改革案の内容や前提となる現行制度の仕組み(例えば、厚生年金受給者も基礎年金を受給することなど)などが知られるようになったのは、今後の国民的な議論に向けた準備になったと評価できよう。
 
8 投稿契機が「e: 単独発信」のツイートについては、他の区分と連動して投稿が増えていたことからの推察であり、投稿内容を確認した訳ではない。投稿内容の分析は今後の課題としたい。
9 リンク先の記事は有料会員限定の記事であり、会員登録していない場合はリード部分だけを閲覧できる。なお、図表6や図表7の記事のうちこの日の記事だけがYahoo!ニュース以外のサイトに掲載されていたのは、日本経済新聞の記事がYahoo!ニュースへ転載されていないことに加えて、記事の内容が新しい出来事ではなく他紙が同じ時期に同様の内容を報道しなかったため、と考えられる。
10 この案の概要は、拙稿「現行制度を放置すると低所得会社員ほど大幅な年金カットに」を参照。
11 この時のTwitterでの注目は、拙稿「大臣会見でツイート数と投稿者数が急増もリツイート数はごく少数のツイートが左右-「年金」を含むツイートの基礎的な動向分析(2021年9月中下旬)」を参照。
12 この案については、例えば拙稿「国民年金納付5年延長でも、無収入なら免除の可能性」を参照。
13 共同通信の記事には、「関係者への取材で15日、分かった」と記載されていた。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2022年12月23日「基礎研レポート」)

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