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保険会社の再建と破綻処理の制度構築の動き(欧州)(1)-EIOPAが「よくある質問」に答える。まずは破綻処理機関の必要性などの基本的事項。

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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質問とそれに対する回答は15項目あるが、まずは、基本的な再建と破綻処理の考え方や予防計画の作成などの部分についてである。なお、2回めではその続きに加えて、主に銀行の再建と破綻処理との類似点・相違点に関する内容を紹介する。
1 Proposal for an insurance recovery and resolution directive : Frequently asked question
https://www.eiopa.europa.eu/sites/default/files/publications/other_documents/eiopa_staff_paper_-_frequently_asked_questions_about_irrd_-_2022.pdf
1――保険会社の再建と破綻処理に関する15項目のQ&A
なぜ保険会社は経営に失敗するのか?なぜIRRD(Insurance Recovery and Resolution Directive)が必要になるのか? (なお、あとででてくるが、銀行版のものはBRRD(Bank Recovery and Resolution Directive)と呼ぶ。)
ソルベンシーIIと常日ごろの監督により、保険会社の破綻の可能性は小さくなっている。とはいうものの、依然として可能性はゼロではないので、適切な予防措置や万一の危機時の管理手法が必要である。特にEUにおいては、多くの保険会社が複数の国にまたがって事業を行っており、国毎の企業倒産に関する法律が異なることから、事前に調整しておくことの必要性は明らかである。また破綻を予防するアプローチもIRRDには含まれており、どのような選択肢があるかを、保険会社が事前に知っておくことができるため、このことも破綻を防ぐ一つの要素であろう。保険会社の破綻、とはソルベンシーIIにおけるSCR(標準的なソルベンシー資本要件)やMCR(最低資本要件)が低下することのみを指すのか?逆にそれが100%を下回ってなければ、危機管理的なアクションは発動されないのか?
SCR比率やMCR比率が低下することだけが条件ではないが、結果としてはそうなるだろう。また破綻処理の開始については、破綻処理がやむを得ない状況とされる条件(10番目の項目参照)が満たされた時のみである。なぜ、破綻処理専門の機関が必要なのか
保険会社が破綻した場合、保険監督上の利益と破綻処理による利益の間には対立が生じる可能性がある。例えば監督上の利益と合致しない障害を取り除く措置を実施する猶予や、再建の場面で言えば再建のために集中的な監督措置を行うことと、その甲斐なく破綻処理となることの準備などである。また再建の段階では集中的な監督が必要であり、多くの準備が必要な中で、適切な対話も必要であるため、破綻処理機関は監督機関から分離されるほうがよいと考える。この際、保険の専門知識や解決能力が必要であるが、専門の機関ではそれを構築できる。そもそも監督者と破綻処理機関の情報共有と協力は必要である。
ただし現在の案では、新たに設立された機関である必要はなく、既存の機関を指定してもよいとしている。ただし破綻処理の措置が、保険監督者にとって単なる追加業務となってはならないし、監督者と専門機関の間に、報告ラインや予算の分離なども含めて、明確な役割分担が必要である。
再建と破綻処理に関する指令の提案は、銀行のものと酷似しているのではないか?(保険事業の特徴を反映していないのではないか。)
もちろん、似てはいるが明確に異なる点もある。類似した部分については銀行向けの枠組みを利用しつつ、当然のことながら、保険事業の特徴を考慮した独自の枠組みとしていく。(類似点と相違点については後述)
BRRDとIRRDの相互の関連はどうなっているか
例えば「金融コングロマリット指令」では、分野横断的な監督を実施するために共通の法的根拠を用意したが、再建と破綻処理については、少なくとも最初のステップとしては、銀行と保険とで別々の法律を作ることにした。両方の指令がうまく連携できるよう、整合的であることが必要であるが、それは金融コングロマリット指令の今後のレビューも活用しながら、検討していく。特に平常時の予防的再建計画の作成に関して過度の負担がかからないようにすることと、危機時において適切な情報共有を行なえる必要がある。どの範囲の会社が、再建と破綻処理計画の対象となるのか
監督者があらかじめ再建計画を作成しておくべき保険会社を決めておく必要がある。それは市場の80%を網羅する必要がある。一方で、破綻処理計画は当局が作成するものであり、市場の70%をカバーする必要がある。これも過度な負担を避けるために、一定の市場シェアをカバーしつつ、EU全体で一貫性があり、会社の規模や複雑さに応じて柔軟性のあるものにする方向である。
相互会社と再保険会社は、特殊な法律下にあり、事業の性質が異なるので計画を策定する要求から除外されるべきではないのか。
少なくとも自動的に除外されるようなことはない。確かに相互会社は法律の枠組みが異なるために株式関係の取り扱いがからむ点では、適切でない方法になってしまう可能性はある。あるいは株式会社よりも複雑な取り扱いとなるかもしれない。しかし例えばコストの削減、ポートフォリオの一部売却、リスク回避、特定の保険商品の提供停止などは、状況によっては保険株式会社に対するのと同様に適切であろう。再保険会社については、元受保険会社のカバーができなくなることにより、元受保険会社から金融システム全体、ひいては消費者にまで大きな影響がある可能性があることを考慮し、なおさら整然とした処置が必要になるだろう。
予防的な再建計画がうまく機能するためには、保険会社が破綻処理計画にも事前にアクセスできるようにすべきではないのか
再建計画が実施されて、それがうまくいかないような場合に、破綻処理が実施されるので、破綻処理はその状況に適応できるものにしておく必要がある。しかし逆に、破綻処理のあり方が再建のあり方に影響することは、(再建が成功した場合には)ありえない2ので、特に知っておく必要はない、と考えている。
(以下、次回に続く)
2 (筆者注)どちらの方策の方が、より損失を少なく済ませられるか等、利害関係者が知りたいケースもあるとも考えられそうだが。
(2022年12月15日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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