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「投げ銭」の依存性-“推し疲れ”の一側面を解明する

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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1――10代、20代の間で熱心に行われる「投げ銭」
1 「投げ銭サービスの国内潜在市場規模は約3,106億円と推計~Fintertech、「投げ銭市場調査」を実施~」2021/12/10 https://www.fintertech.jp/news/20211210_press_marketresearch/
2 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ライブ配信サービス(投げ銭等)の動向整理」2018/12/14 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/policy_coordination/internet_committee/pdf/internet_committee_190117_0002.pdf
2――アイドルの握手権における消費文化
ここまでをまとめると、従来の推し活では自身が課金したことや、課金額を推しているアーティストや他のファンに認知してもらう事が消費の構造的に難しかった。また、本来推し活は自身の精神的充足を満たすものであり、他人と比較するものではないが、いきすぎると他人と比較してマウントを取り合う事も普通であり、‘推し’への消費を競い合うことが捨てることが前提となっているCDを購入するモチベーションにもなっていたのである。
3 「2021年JC・JK流行語大賞を総括する-「第4次韓流ブーム」と「推し活」という2つのキーワード」基礎研レポート2021/12/15 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69662?pno=3&site=nli
4 推しに関する有形物を購入することで資金的に支援する
5 握手券は販促品なのでCDや写真集などを大量購入し、その結果販促品である握手券を大量に入手できる
6 自分の方が優位と思いたいが故に、自分の方が立場が上であるとアピールすることを意味する。オタク同士のコミュニケーションにおいては、コンテンツに対する知見の深さやイベント参加経験等コンテンツ自体との結びつきの強固さをアピールする「経験力」、グッズの購買力や投資力をアピールする「経済力」、いつからファンかをアピールする「オタク暦」がマウンティングの主な対象となっている。
3――投げ銭の消費者心理
なおCDに付属する投票券で歌唱メンバーを決めていたAKB48の選抜総選挙は良く知られた推し活方法であるが、2022年7月18日~8月3日の期間AKB48はライブ配信サービス「SHOWROOM」と連動し、視聴者からのギフティング(購入した有料ギフト7(課金アイテム)を配信者に送ること)やコメント数に応じた総ポイント数のランキングで楽曲の歌唱メンバーや番組出演メンバーを決定する「AKB48「SHOWROOM選抜」決定オーディション」と呼ばれる企画を行った。この企画のポイントは、オーディションに参加しているAKB48メンバー内において競われ、ファンたちは自分の推しが他のメンバーよりいい順位につけるように、熱心にポイントを送れるわけだ8。投げ銭をすることによって具体的にアイドルやアーティストの活動範囲を広げる応援に繋がることにもなり、投げ銭は応援、活躍を望むファンが直接アーティストを金銭的にも広告的にも手助けできる手段でもあるのである。
投げ銭というシステムは、推しを直接応援でき、且つこのシステムを通して自身のコメントを読んでもらえたり、名前を認知してもらえるなど、推しと直接コミュニケーションがとれるという良い側面がある一方9で、若者を中心に金銭的な社会問題が起きていることも事実である。そもそもインターネットと若者の課金行為を巡る問題は年々大きくなっている。消費者庁の「令和4年版消費者白書」10によれば「インターネットゲーム(オンラインゲーム)」に関する消費生活相談件数は増加傾向が続いており、2017年は4,203件であったのが2021年には7,276件と、5年間で1.7倍に増加している。特に20歳未満の相談件数が増えており、2021年の相談件数7,276件の内、4,443件が20歳未満であった。
7 無料のギフトも存在する
8 この時、推しからの認知や他のファンから得られる優越感の他に、他のメンバーのファンには負けたくないという団結心から生まれる競争心も投げ銭(ギフティング)のモチベーションとなる。(○○のファンはすごい、○○のファンは経済的に力があるという評判が自信や糧となる)
9 もちろんコメント読みや質問への返答は配信者の任意なのだが、投げ銭金額によってはリアクションをもらえなかったり、配信者によっては「この程度の金額なら質問には答えない」など視聴者を煽る者もおり、そのような背景から高額な投げ銭を行う視聴者もいることを留意したい。
10 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/assets/2022_whitepaper_all.pdf
11 一度保護者がクレジットカードを貸すことで情報が登録されており、その都度親からカードを借りなくともクレジットカードが使用できてしまうケースも多いようだ。親のクレジットカードで勝手に有形物を購入した場合それが手元にあることで罪悪感を感じることもあり、それが抑止力になることもあるが、投げ銭(課金)という無形物は、消費したという意識を持ちにくく、罪悪感を感じにくいのかもしれない。
4――オタクをしている上で避けられないこと
12 リアルに恋してしまっていることから「リアコ」という言い方をすることもある。
13 従来の疑似恋愛ビジネスの様相を持つホスト遊びの様に自身の担当(指名しているホスト)をNo.1にしたいが故に大金を支出する顧客とその支えを受けるホストとの共依存の関係に似ているのかもしれない。推し活の対象であるアーティストやアイドルの場合収入源の主が投げ銭ではないが、ファン視点で言えば他のオタ活手段よりも最も自身の消費が直接推しに認識してもらえる手段であり、感謝をされる、反応してもらえるというアクションが疑似恋愛のごとく頼られているという感覚を生むのかもしれない。
5――まとめ
14 詳しくは「若者のオタク化に対する警鐘-若者の考える「オタ活」とオタクコミュニティの現実」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65681?pno=2&site=nli#anka5 を参照されたい。
15 龐 惠潔(2010)「ファン・コミュニティにおけるヒエラルキーの考察─台湾におけるジャニーズファンを例に─」
『情報学研究 : 学環 : 東京大学大学院情報学環紀要』 78, 165-179
(2022年12月09日「基礎研レポート」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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