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- 2022年4~11月の自社株買い動向~当期利益増減と株価の関係~
2022年12月02日
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■企業の積極的な自社株買い
■自己株式の取得を行う理由は
自社株買いの設定時期には季節性があり、決算発表が集中する5月、11月、2月に設定が増える傾向がある。今回は主に中間決算の発表が集中した2022年10~11月の自社株買い設定企業について、設定理由と株価の反応を確認した。なお、2022年10~11月に限ると自社株買い設定金額は1.9兆円、件数は153件だった。
図表2は、自社株買いを設定した企業について、自己株式の取得を行う理由毎に企業数を集計した結果である。『株主還元』、『機動的な資本政策』、『資本効率の向上』を理由にあげている企業が多く、ほぼ同数であったことが分かる。上場企業の株主還元や資本効率の向上を意識した自社株買いの設定が継続している。
図表2は、自社株買いを設定した企業について、自己株式の取得を行う理由毎に企業数を集計した結果である。『株主還元』、『機動的な資本政策』、『資本効率の向上』を理由にあげている企業が多く、ほぼ同数であったことが分かる。上場企業の株主還元や資本効率の向上を意識した自社株買いの設定が継続している。
■自社株買いは常に投資家から好感されるのか?
自社株買いの設定の発表は株価には一般的にプラスに働くと考えられている。実際に2019~2021年度は自社株買い設定直後の株価は対TOPIXで上昇した1。2022年10~11月に決算発表に合わせて自社株買いの設定を発表したTOPIX構成銘柄企業118社(図表3①全体)についても、概ね株式市場で好感されている。特に発表翌営業日は平均で約2%も対TOPIXで上昇した。
ただ、自社株買いを設定した企業の中には足元の業績が振るわない企業もあった。そのような企業でも上昇したのであろうか。そこで、さらに当期利益が前年同期比で増加した企業と減少した企業に分け、それぞれの発表直後の株価を確認した。当期利益が対前年同期比で増加した企業は68社、減少した企業は50社だった。
ただ、自社株買いを設定した企業の中には足元の業績が振るわない企業もあった。そのような企業でも上昇したのであろうか。そこで、さらに当期利益が前年同期比で増加した企業と減少した企業に分け、それぞれの発表直後の株価を確認した。当期利益が対前年同期比で増加した企業は68社、減少した企業は50社だった。
当期利益が前年同期比で増加した企業(②自社株買い×当期利益増加)の株価は、設定日の翌営業日に平均して約3%上昇し、その後も累計3~5%台で推移した。その一方で当期利益が前年同期比で減少した企業(③自社株買い×当期利益減少)の株価は、設定日の翌営業日に平均して約0.8%上昇し、その後は累計0~2%台で推移した。
②自社株買い×当期利益増加の企業の株価は、③自社株買い×当期利益減少の企業の株価に対して平均して2~4%上回っており、足元の業績の好不調によって株価の上昇具合に差があることが確認できた。ただ、③自社株買い×当期利益減少の企業の株価でも設定日以降プラス圏を維持しており、底堅く推移していたことが確認できた。
1 森下千鶴(2022年1月26日)基礎研レター『2021年4~12月の自社株買い動向~設定額はコロナ禍前の2019年の水準まで回復、アナウンスメント効果も引き続き有効』
②自社株買い×当期利益増加の企業の株価は、③自社株買い×当期利益減少の企業の株価に対して平均して2~4%上回っており、足元の業績の好不調によって株価の上昇具合に差があることが確認できた。ただ、③自社株買い×当期利益減少の企業の株価でも設定日以降プラス圏を維持しており、底堅く推移していたことが確認できた。
1 森下千鶴(2022年1月26日)基礎研レター『2021年4~12月の自社株買い動向~設定額はコロナ禍前の2019年の水準まで回復、アナウンスメント効果も引き続き有効』
■自社株買い×当期利益減少企業の株価が底堅かった理由は?
このように足元の業績が振るわなくても自社株買いが設定された企業の株価が底堅かった要因は、主に以下の2つが考えられる。
一つ目は、決算発表前の9月に株価が大幅に下落した点である。9月は米国の金融引締め姿勢、英国を中心とした金融市場の不安定感の高まりや世界的な景気減速懸念が広まったことから、日本株も大幅に下落し、TOPIXは1カ月で▲6.5%下落した。そのため10月以降に株価が反発する中で自社株買いを設定した企業は「アナウンスメント効果」によって割安感が株式市場で特に意識された可能性がある。
二つ目は、日本株市場における需給面での自社株買いの設定の影響の大きさである。図表4は投資部門別売買動向(現物と先物の合計)を2015年1月から月次で累積した結果である。
一つ目は、決算発表前の9月に株価が大幅に下落した点である。9月は米国の金融引締め姿勢、英国を中心とした金融市場の不安定感の高まりや世界的な景気減速懸念が広まったことから、日本株も大幅に下落し、TOPIXは1カ月で▲6.5%下落した。そのため10月以降に株価が反発する中で自社株買いを設定した企業は「アナウンスメント効果」によって割安感が株式市場で特に意識された可能性がある。
二つ目は、日本株市場における需給面での自社株買いの設定の影響の大きさである。図表4は投資部門別売買動向(現物と先物の合計)を2015年1月から月次で累積した結果である。
赤色の線が事業法人の売買動向であり、自社株買いの実施が反映されている。他の主体別の累積売買動向がほぼ横ばいもしくは売り越しに対して、事業法人は基本的に買い越しが続いている。特に2021年6月以降は17カ月連続で買い越しており、日本株の主要な買い手として日本株市場で存在感を増している。そのため、今後の自社株買い実施に伴う需給面のプラスが安心材料となって売られにくかったと思われる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年12月02日「基礎研レター」)

03-3512-1855
経歴
- 【職歴】
2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
2015年 ニッセイ基礎研究所入社
2020年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)
森下 千鶴のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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【2022年4~11月の自社株買い動向~当期利益増減と株価の関係~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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