2022年11月09日

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、コロナ禍において需要の高まったファミリータイプの上昇が目立つほか、シングルタイプについても底打ち感がみられる。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2022年第2四半期は前年比でシングルタイプが+0.5%、コンパクトタイプが▲1.5%、ファミリータイプが+7.0%となった(図表-12)。また、LMC社によると、都心5区のマンション募集賃料(9月末時点、前年比)を区別にみると、千代田区(+9.9%)、中央区(+2.1%)、新宿区(+1.7%)、港区(+1.2%)、渋谷区(▲2.1%)となり、総じて回復傾向にある(図表-13)。
図表-12 東京23区のマンション賃料(タイプ別)
図表-13 都心5区のマンション賃料(区別)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、都市部の人流回復を受けて百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2022年7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+17.2%と前期に続いて2ケタの増加となり、コンビニエンスストアが+3.0%、スーパーが▲0.5%となった(図表-14)。9月単月では、百貨店が+19.9%(7カ月連続プラス)、コンビニエンスストアが+1.5%(7カ月連続プラス)、スーパーが▲0.5%(2カ月連続マイナス)となっている。
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテルセクターは、日本人の観光需要を中心に回復に向かっている。宿泊旅行統計調査によると、2022年7-9月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲22.8%減少し、このうち日本人が▲8.2%、外国人が▲92.1%となった(図表-15)。コロナ禍にあっても自粛制限のない日本人観光客数が順調に増加する一方、インバウンド需要の低迷が続いている。しかし、10月に外国人観光客の入国制限が緩和されたことで今後の回復が期待される。また、STR社によると、9月のホテルRevPARは2019年対比で全国が▲28.2%、東京が▲43.1%、大阪が▲39.4%となり、大都市ほど収益回復に遅れがみられる。
図表-15 延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2022年9月)
物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の増加に伴い空室率が上昇した一方、近畿圏ではタイトな需給環境を受けて空室率が低下した。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2022年9月末)は前期比+0.8%の5.2%となった(図表-16)。今期は、新規供給19.9万坪に対して新規需要が14.5万坪と下回ったため空室率が上昇した。EC事業者を中心にテナント需要は底堅いものの、新規供給の増加により物件の選択肢が多く、また物価高等の影響でテナント側の事業環境の不透明感が高まるなか、リーシングの進捗ペースが鈍化している。来年の第1四半期に四半期としては過去最高の新規供給が予定されており、今後しばらくは需給の緩和基調が継続する見通しとのことである。近畿圏の空室率は1.7%(前期比▲0.4%)と低い水準を維持しており、大阪府の中心部など需給が逼迫したエリアでは賃料も上昇基調にある。

また、一五不動産情報サービスによると、2022年7月時点の東京圏の募集賃料は4,680 円/月坪(前期比+0.6%)となった。
図表-16 大型マルチテナント型物流施設の空室率

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2022年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比▲1.1%下落した。セクター別では、オフィスが▲1.9%、住宅が▲1.9%、商業・物流等が▲0.1%となった(図表-17)。経済正常化への期待からホテルセクターが堅調に推移した一方、海外金利上昇への警戒感などから時価総額上位銘柄を中心に売り圧力が高まり、期末にかけて下落に転じた。9月末時点のバリュエーションは、純資産11.3兆円に保有物件の含み益4.8兆円を加えた16.1兆円に対して時価総額は16.1兆円でNAV倍率は1.0倍、分配金利回りは3.7%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.5%となっている。
図表-17 東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は1,042億円(前年同期比▲79%)、1-9月累計では5,760億円(▲50%)となり前期に続いて大幅に減少した(図表-18)。アセットタイプ別の取得割合は、オフィス(36%)、物流(27%)、住宅(26%)、商業施設(5%)、ホテル(3%)、底地ほか(3%)の順となり、例年との比較では住宅の比率が高まった。エクイティ資金の調達コスト上昇などを受けて資産規模の拡大に積極的なREITは少なく、今後の進捗ペースによっては年間取得額が2012年以来10年ぶりに1兆円を下回る可能性がある。
図表-18 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
今年に入り、J-REIT保有物件の評価額は売買市場での高値取引を反映し回復基調が強まっている。J-REIT各社が開示する鑑定評価額を集計しその変動率を確認すると、2022年上期は市場全体で前期比+1.3%となり、コロナ禍以前の水準(+1.4%)と並んだ(図表-19)。アセットタイプ別では、「物流」と「住宅」が2%を超える伸び率を維持したほか、これまで横ばい傾向にあった「オフィス」の上昇率が高まり、「ホテル」についてもプラスに転換した。J-REITによる今年の売却事例をみても取引価格が鑑定評価を平均10%程度上回っており、引き続きの上昇が期待される。

J-REIT市場は不透明な外部環境を受けて弱含みの動きとなっているが、不動産評価額の拡大がバリュエーション面で下値を支える要因となりそうだ。
図表-19 Jリート保有物件の価格騰落率(前期比、アセットタイプ別)
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2022年11月09日「不動産投資レポート」)

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