2022年11月09日

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1. 経済動向と住宅市場

国内経済は、内需を中心に回復基調を辿っている。11/15に公表予定の2022年7-9月期の実質GDPは前期比+0.4%(前期比年率+1.5%)と4四半期連続のプラス成長になったと推計される1。好調な企業業績を背景に設備投資が高い伸びとなったことに加えて、物価高などの逆風を受けながらも民間消費が増加したこともプラスに寄与した。

経済産業省によると、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比+5.9%と2四半期ぶりの増産となった(図表-1)。中国のロックダウン解除を受けて自動車が大幅増産(+12.7%)となったほか、内外の設備投資需要の強さを背景に生産用機械も高い伸びとなった。ただし、先行きについては供給制約が完全に解消されるまでには時間を要することなどから、今後は停滞色が強まる可能性が高い2

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2022年度+1.8%、2023年度+1.6%を予想する(図表-2)3。実質GDPが直近のピーク(2019年4-6月期)を回復するのは、2024年1-3月期になると予想するが、金融引き締めに伴う米国経済の急減速、ゼロコロナ政策継続による中国経済の下振れ、冬場の電力不足による経済活動の制限など下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) / 図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、価格上昇が続くなか、販売状況はやや弱含んでいる。

2022年9月の新設住宅着工戸数は73,920 戸(前年同月比+1.0%)、7-9月累計では約22.5万戸(前年同期比横ばい)となった(図表-3)。着工戸数は、8月以降持ち直しの動きがみられるものの、引き続き建築コスト上昇の影響などを注視する必要がある。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2022年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,036 戸(前月同月比▲11.9%)、7-9月累計では5,466 戸(前年同期比▲11.9%)となった(図表-4)。9月の平均価格は6,653万円(前年同月比+1.0%)、m2単価は101.2万円(同+2.3%)、初月契約率は61.6%(前年同月比▲6.1%)で、価格が上昇基調で推移するなか、販売は低迷し、販売戸数は減少している。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2022年9月の首都圏の中古マンション成約件数は2,990件(前年同月比▲5.9%)、7-9月累計では8,440件(前年同期比▲4.0%)となった(図表-5)。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
9月の中古マンション平均価格は4,421万円(前年同月比+10.9%)と28ヶ月連続で上昇し、m2単価も69.1万円(同+11.2%)と29カ月連続で上昇した。中古マンション市場では成約件数が伸び悩むなか在庫戸数が増加しつつあり、価格の上昇に実需が追い付いていない状況である。

日本不動産研究所によると、2022年8月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は26カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+9.0%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価の上昇は、住宅地に加えて商業地にも広がっている。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第2四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「58」(前回46)、横ばいが「17」(21)、下落が「5」(13)となり、住宅地は23地区全てが上昇となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地はマンション市場の堅調さが際立ったことから引き続き上昇を維持。商業地は経済活動正常化への期待感や低金利環境の継続等に伴う好調な投資需要等から多くの地区で上昇又は横ばいに移行した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移(比率)
野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(10月1日時点)は前期比+ 1.0%(年間+5.7%上昇)となり9四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は33.7%(前回36.1%)、「値下がり」地点の割合は3.6%(前回0.0%)となった。引き続き住宅取得ニーズは底堅く、住宅地価格は上昇傾向にある(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2022年9月の東京都心5区の空室率は6.49%(前月比0.0%)と、16カ月連続で6%台での推移となっている。平均募集賃料は26ヶ月連続下落の20,156円(前月比▲0.5%)となった。他の主要都市については、新規供給の少ない札幌と仙台の空室率が低下する一方、横浜や名古屋、大阪、福岡の空室率は上昇基調で推移している(図表-9)。一方で、募集賃料は仙台を除いて前年比プラスを確保している4
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2022年第3四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は27,379円(前期比▲5.8%)に下落し、空室率は4.0%(前期比+0.2%)に上昇した(図表-10)。三幸エステートは、「複数の新築ビルが空室を抱えて竣工したほか、オフィス戦略の見直しによる集約移転や部分解約に伴い空室が増加している」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心部A クラスビルの賃料見通しを9 月に改定した5。オフィス需要は「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた働き方が定着し力強さを欠くなか、空室率は上昇基調で推移すると予測する。また、成約賃料は2021 年の賃料を100 とした場合、2022 年は「93」、2023 年は「91」、2026 年は「88」となり、2013年の水準まで下落する見通しである(図表-11)。
図表-11 東京都心部A クラスビルの成約賃料見通し
 
4 2022年9月時点の募集賃料は、前年比で、札幌(+2.0%)、仙台(▲0.6%)、東京(▲3.4%)、横浜(+0.6%)、名古屋(+1.2%)、大阪(+0.5%)、福岡(+2.3%)となっている。
5 吉田資『「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2022年9月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年09月14日)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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