2022年11月04日

定年後の働き方とこころの健康の関係

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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5――こころの健康の分析と幸福度の分析から一貫して示唆されること

本稿で紹介した定年前後の働き方別に見たこころの健康状態についての分析結果は、定年前後の働き方別に見た幸福度についての分析結果14とおおむね一貫した結果であることが確認できる。まず、定年後の回答者が、定年前に現在の定年後の働き方を予定しており、定年前の回答者と同様のこころの健康/幸福度の状態であったと仮定した場合、会社員は定年前後で幸福度が高まった可能性が示唆されていたのと一貫して、こころの健康状態についても改善した可能性が示唆された。そして、同様の仮定の上で、公務員で定年後に働くことを辞めた人は、時間の余裕を通して幸福度が高まった可能性が示唆されていたが、こころの健康状態についても時間の余裕を通して改善した可能性が示された。

さらに、定年前のフルタイム転職勤務予定会社員のこころの健康状態は、フルタイム勤続予定会社員に比べて悪い傾向が見られるが、幸福度についても低めの傾向が見られる15。一方で、定年後のフルタイム転職勤務会社員のこころの健康状態は、フルタイム勤続勤務会社員と比べて悪いとは言えず、幸福度についても同様である16。この結果からは、フルタイム転職勤務予定会社員にとって、定年を機にした転職はこころの健康改善及び幸福度向上の機会になっている可能性が示唆される。

また、定年前のフルタイム転職勤務予定公務員のこころの健康状態は、フルタイム勤続勤務予定公務員に比べて良い傾向があり、幸福度も高い傾向が見られる17。そして、定年後のフルタイム転職勤務公務員のこころの健康状態は、フルタイム勤続勤務公務員に比べてこころの健康状態は良い傾向が見られ、幸福度も高い傾向が見られた18。この結果からは、もともと定年前から別の企業/団体で働く予定の人のこころの健康状態は良く幸福度も高いために、定年後のフルタイム勤務公務員のこころの健康状態はよく、こころの健康状態も良い傾向が見られる可能性が示唆される。

これらの定年前後の働き方とこころの健康及び幸福度の関係の分析で示唆された4つのポイントのまとめは、表1に記載の通りである。
表1. こころの健康の分析と幸福度の分析から一貫して示唆されることのまとめ
 
14 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli
15 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli)の、表2の列(3)の推定参照。
16 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli)の、表1の列(3)の推定参照。
17 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli)の、表2の列(2)の推定参照。
18 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli)の、表1の列(2)の推定参照。

6――おわりに

6――おわりに

本稿では、定年直前と定年直後の人を対象とした独自のアンケート調査を用いて、定年後の働き方の違いのこころの健康への影響を捉えることを試みた分析結果を紹介した。これらの分析結果は、定年後の働き方と幸福度の関係についての分析19とおおむね一貫した結果であり、主に表1に示された4点が示唆された。公務員と会社員で傾向に違いが見られた要因の検証については、今後の課題としたい。

最後に、今回分析に利用したデータはクロスセクションデータであり、本稿での仮定は当てはまらない可能性がある点に、留意が必要である。定年を迎えた直後の人が数年前に考えていた定年後の働き方の予定は、現在の働き方と同じであったとは限らない。現在定年を迎えた直後の人はコロナ禍で本来の予定とは異なる働き方を選ぶ決断をした可能性も考えられる。さらに、定年を迎えた人の定年前のK6の分布が、現在定年前の回答者の分布と同様であったとは限らない。加えて、本調査は調査会社のモニター会員に協力頂いたもので、定年を迎えた回答者は定年を迎える前の回答者に比べて特に働くことへの意識が強いなど、一般的な日本全体の分布とは異なる可能性がある。他にも、定年後の働き方のこころの健康への長期的な影響については、本稿の分析では捉えることができない。こうした状況から、定年後の働き方のこころの健康への影響をより厳密に捉えるには、今後の継続的な調査を通した分析が必要とされるだろう。
 
19 岩﨑敬子(2022/10/27)基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72800?site=nli

参考資料

表2.線形回帰モデルの推定結果(定年後の回答者)
表3.線形回帰モデルの推定結果(定年前の回答者)
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2022年11月04日「基礎研レポート」)

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