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- 中国経済の現状と2023年の注目点-新指導部はどんな財政・金融・コロナ政策を打ち出すのか
1. 中国経済の概況
ここでCOVID-19の状況を確認しておくと(図表-2)、7-9月期の新規感染者は107,105名(有症状24,947名、無症状が82,158名)で、4-6月期より57万人ほど減少した。無症状率(有症状の新規感染者÷新規感染者計)は77%と前四半期の89%から低下したものの、引き続き高水準を維持した。また4-6月期には588名の死亡者がでたが7-9月期はゼロだった。
2. 需要面
最終消費は4-6月期(▲0.84ポイント)からブラス寄与に転じた。消費の代表指標である小売売上高の推移を見ても(図表-6)、7-9月期は前年同期比3.5%増と4-6月期の同4.9%減からはだいぶ持ち直した。内容を見ると自動車販売は減税による背景に前年同期を3割も上回る好調ぶりだったものの、娯楽、飲食、衣類などは厳格なゼロコロナ政策が維持されたことを背景にはかばかしい回復とまではいかなかった。
純輸出は4-6月期(+0.98ポイント)からプラス寄与が若干増えた。貿易(ドルベース)の推移を見ると(図表-7)、輸出が4-6月期の前年同期比12.5%増から7-9月期には同10.1%増へやや鈍化したものの、輸入はそれ以上に低迷していたため、貿易黒字が増え純輸出のプラス寄与が増える結果となった。純輸出も内容が良くない。
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
3. 供給面
第2次産業は前年同期比5.2%増と全体の実質成長率を1.3ポイント上回った。内訳では製造業が同4.0%増と前四半期(同1.4%減)からプラスに転じたものの、コロナ前3年平均(5.7%)には及ばず回復は道半ばと言えるだろう。鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移を見ると(図表-9)、9月には前年同月比6.3%増と前述の5.7%を上回っており、今後も上回り続けることができるのか正念場を迎えている。建築業は前年同期比7.8%増と前四半期(同3.6%増)から伸びが加速したのに加えて、全体の実質成長率を大幅に上回り、経済成長を押し上げる要因となった。
4. 2023年の注目点
第一の注目点は、ここもとの共産党大会で決定した新指導部が来春の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、どんな財政方針を打ち出すのかである。ここ数年を振り返ると、コロナ危機に見舞われた2020年には「積極的な財政政策はさらに積極的かつ効果的なものにする」として、財政赤字(対GDP比)を「3.6%以上」としたのに加えて、地方特別債を3.75兆元、感染症対策特別国債を1兆元発行するなどコロナ対策を明確に打ち出した。コロナ危機が峠を越えた2021年には「積極的な財政政策は質・効率の向上を図り、さらに持続可能なものにする」として、財政赤字(対GDP比)を「3.2%前後」に引き下げたのに加えて、地方特別債を3.65兆元に引き下げ、感染症対策特別国債の発行を止めるなどコロナ対策で緩んだ財政規律を引き締めて、持続可能性を高めた。
したがって、2023年春に開催される全人代では、景気水準を適正レベルに引き上げるべく財政赤字(対GDP比)を「3.0%前後」まで高め、地方特別債も年内に前倒し発行した分を上乗せするのではないかと筆者は見ている。但し、2021年のように持続可能性を重視した財政方針とする可能性も残るため、新首相がどうするか注目したい。
第二に金融政策の方針である。2022年3月に開催された全人代では、「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致」と前年と同じ基本方針を掲げた上で、「流動性を合理的かつ十分に維持する」と付け加え、景気を支える姿勢で臨んだ。そして、預金準備率を引き下げるなど量的な金融緩和を実施し、2022年1-9月期の通貨供給量・社会融資総量は名目GDP成長率(前年同期比6.2%増)を大幅に上回る伸びを示した。
一方、金利の引き下げに関しては慎重姿勢を堅持した。景気を回復させるためには大幅な利下げで不動産市場を刺激するのが最も有効だと、中国政府は誰よりも良く知っているものの、バブル抑制を優先してきた。そして「住宅は住むためのもので投機するためのものではない」を旗印に、「不動産を短期的経済刺激の手段としない」という位置づけを堅持し、事実上の政策金利とされるLPR(ローンプライムレート)の引き下げを小幅にとどめてきた。また米国で利上げが加速する国際環境下、米中金利差が広がって人民元が売り込まれる恐れがあったことも、中国政府にとっては利下げを躊躇させる要因となってきた。
筆者は2023年もバブル抑制第一のスタンスを堅持すると見ている。チャイナショック(2015年)のときのように、景気を回復させるために「不動産を短期的経済刺激の手段」として使えば、バブル崩壊の可能性が高まり、習近平国家主席が何より重視する「安定」が脅かされるからだ。但し、米国経済が過度な利上げで失速し長短金利が逆イールドとなれば、人民元が売り込まれる恐れもなくなるため、中国にとっては大幅利下げに踏み切る環境が整う。新首相がどうするか注目したい。
但し、いまウィズコロナ政策に移行すれば、インフルエンザ並みに抑えられたとしても9万人近い死亡者を出すことになりかねない。欧米先進国では数々の大波(日本では第7波)を経験し、死亡者急増という修羅場を乗り越えて、防疫と経済活動のバランスが大切との世論が形成されて、ようやくウィズコロナ政策に移行する心構えができた。しかし、まだ第2波の中国ではそうした修羅場を乗り越えた経験が少なく、そうした世論も形成されていない。またゼロコロナ政策を堅持したことで、欧米先進国よりも遥かに少ない死亡者数に抑制できたという誇りや、中国経済を世界に先駆けてV字回復させたという自信が邪魔する面もあった。さらに5年に1度の重要会議「共産党大会」を控える重要な時期だったことも、大きな方針転換を躊躇させることとなった。
したがって、共産党大会を終えて新指導部が発足した今、このままゼロコロナ政策を堅持するのか、それともウィズコロナ政策へ軌道修正するのか注目される。少なくとも検討が本格化することだけは間違いないだろう。その検討に際しては、2022年7月に香港の新たな行政長官に就任した李家超氏が9月下旬に取り組み始めたコロナ規制の段階的緩和が試金石となりそうだ(図表-13)。また、世界保健機関(WHO)がパンミックの収束宣言に踏み込めば、それが中国にとってはウィズコロナ政策へ軌道修正するキッカケとなるかもしれない(図表-14)。経済成長率を大きく左右するだけに、その動向を注視したい。
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三尾 幸吉郎
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(2022年10月28日「Weekly エコノミスト・レター」)
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