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中国経済の現状と今後の注目点-成長率目標の達成が絶望的となった今、財政・金融・ゼロコロナの3つの政策運営に注目!
基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.307]

三尾 幸吉郎
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1―中国経済の現状
2―今後の注目点
第一に財政政策である。今年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で中国政府は、「積極的な財政政策は、パフォーマンスを向上させるため、さらに精確(精准)に焦点を当て、持続可能なものにする」という基本方針を決め、財政赤字(対GDP比)を「2.8%前後」に引き下げ、地方特別債は3.65兆元を維持し、感染症対策特別国債はゼロのままとした。
しかし、全人代後に起きたCOVID-19の感染拡大とそれに伴う景気失速で、このままだと成長率目標「5.5%前後」の達成が絶望的となってしまった。李克強首相は「高すぎる成長目標のために、大型の景気刺激策や過剰に通貨を供給する政策を実施することはない」と述べた一方で、第14次5ヵ年計画(2021~25年)などの計画に適合し、経済効果が期待できる有効投資の拡大には意欲を示した。そして、地方特別債の発行を急ぎインフラ投資促進に乗り出した。上半期の純増額は既に前年通期並みに達している[図表4]。
第二に金融政策である。今年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で中国政府は、「通貨供給量・社会融資総量(企業や個人の資金調達総額)の伸び率が名目GDP成長率とほぼ一致」と前年と同じ基本方針を掲げた上で、「流動性を合理的かつ十分に維持する」と付け加え、景気を支えるスタンスを打ち出した。そして、預金準備率を引き下げるなど量的な金融緩和を実施、1-6月期の通貨供給量・社会融資総量は名目GDP成長率(前年同期比.3%増)を上回る伸びを示した。
一方、利下げに関しては今のところ慎重な姿勢を守っている。「不動産を短期的経済刺激の手段としない」という位置づけを堅持し、事実上の政策金利とされるLPR(ローンプライムレート)の引き下げは小幅にとどめている。景気をテコ入れするだけなら、大幅利下げで不動産を短期的経済刺激の手段として使うのが有効と十分に心得ている中国政府だけに、今後の金融運営が注目される[図表6]。
但し、いまウィズコロナ政策に移行すれば、インフルエンザ並みに抑えられたとしても9万人近い死亡者を出すことになるため、重要会議「共産党大会」の前に舵を切るのは難しいだろう。欧米先進国では数々の大波(日本では第7波)を経験し、死亡者急増という修羅場を乗り越えて、防疫と経済活動のバランスが大切との世論が形成され、ようやくウィズコロナ政策に移行する心構えができてきた。しかし、まだ第2波の中国ではそうした修羅場を乗り越えた経験が少なく、そうした世論も形成されていない。さらに、ゼロコロナ政策を堅持したことで、欧米先進国よりも遥かに少ない死亡者数に抑制できたという誇りや[図表8]、中国経済を世界に先駆けてV字回復させたという自信が邪魔する面もある。
したがって、ウィズコロナ政策への移行は早くても来春以降だろうが、“ダイナミック・ゼロ”の旗印の下、それよりも早く黙って(宣言せずに)軌道修正する可能性もあるだけに注視は怠れない。
(2022年10月06日「基礎研マンスリー」)
三尾 幸吉郎
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