コラム
2022年10月13日

良い運用状況だったが、今後が心配~2022年3月末時点の投資信託の運用状況~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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投信の運用状況は概ね良好だが、1年前からやや悪化

金融庁から公表された投資信託(以後、投信)の運用状況の調査結果によると、2022年3月末時点(全金融事業者の単純平均)で79%の顧客が保有している投信から利益を得ていることが分かった【図表1:左】。概ね良い運用状況であったといえるが、2021年3月末の84%と比べると、その比率はやや低下した。金融事業者別でみても、すべての業態で1年前と比べて低下した【図表1:右】。
【図表1】 投資信託の運用損益率が0%以上の顧客比率

運用状況が悪化した二つの要因

このように1年前と比べて投信の運用状況がやや悪化した、もしくはすべてはないにしろ悪化した金融機関が多かったわけであるが、その要因は2つある。まず、2021年度は国内株式や過去に人気を集めたバランス型など一部の投信のパフォーマンスが振るわなかったことがあげられる。
 
国内株式投信については一部のアクティブ型に加えて、日経平均株価に連動するインデックス型のもの(赤太字)も年度収益がマイナスであった【図表2】。バランス型については、国内株式などの国内資産の組入の多いもの(赤太字)や一部の組入を機動的に変更するもの(青太字)の年度収益がマイナスであった【図表3】。これらの投信を保有していた顧客は運用状況が悪化したと考えられる。
 
それに加えて、2021年度は外国株式投信に1年間に7.5兆円資金流入あるなど、外国株式投信が大変よく売れたが、それが結果的に高値掴みになってしまったことも要因としてあげられる。外国株式や外国REITの投信自体は、2021年度1年通してだと基準価額が大きく上昇したものばかりであったが、2022年に入ってから3月末にかけて下落したものも多かった。
 
ここで2021年度に資金流入が多かった投信をみると10本すべてが外国株式投信であり、それらの年度収益は全てプラスであった【図表4】。しかし、アクティブ型の6本(赤太字)については2022年1月から3月の収益が全てマイナスであった。そのため2021年度中、特に2022年に入るまでに購入した投信の一部が3月末時点で含み損となり、運用状況が悪化した顧客もいたと考えられる。
【図表2】 2022年3月末時点で純資産が大きかった国内株式投信
【図表3】 2022年3月末時点で純資産が大きかったバランス型投信
【図表4】 2021年度に資金流入が大きかった追加型株式投信

堅調だった金融機関でも今後、含み損の顧客が増える可能性

その一方で、売れ筋のインデックス型の外国株式投信(青太字)は2021年度だけでなく、2022年1月から3月の収益もプラスであった【図表4】。これらの投信については、2022年3月末時点で購入した時期に関係なく保有しているほぼすべての顧客で含み益が出ていたものと推察される。実際にインデックス型の外国株式投信の買付が多いネット証券の大手2社の楽天証券とSBI証券では、投信から利益を得ている顧客の比率が1年前と同じであった。2社とも2022年3月末時点で95%と2021年3月末時点から横ばいで、ほとんどの顧客が投信から利益を得ていた。
 
ただ、一見すると堅調そのものに見える楽天証券、SBI証券についても、今後については必ずしも盤石とはいえなさそうである。この2社については新規顧客や追加投資、積立投資が多く、ある意味で仕方ないことではあるが、運用損益が小幅のプラスの顧客の比率が増えているためである。運用損益別顧客比率をみると、2社とも2022年3月末時点は2021年3月末時点と比べて「+10%以上、+30%未満」の比率が低下する一方で「0%以上、+10%未満」の比率が上昇した【図表5】。
【図表5】 楽天証券(上)とSBI証券(下)の投資信託の運用損益別顧客比率
2021年度に売れた外国株式投信は、2022年度に入ってからアクティブ型、インデックス型問わず基準価額が下落している。そのため、2022年3月末時点で運用損益が「0%以上、+10%未満」と小幅のプラスだった顧客の中には、足元の運用損益がマイナスに転じている方もいると推測される。今後の市場環境次第ではあるが、これまで堅調だった楽天証券やSBI証券でさえも2023年3月末時点に含み損を抱えている顧客が急増するなど、顧客の運用状況が大きく悪化する可能性があるだろう。

最後に

2022年3月末時点では運用状況が良好な方が多かったが、世界的な株安等で2022年4月以降は悪化したと考えられ、今後さらに悪化するかもしれない。運用状況が悪化すること自体は市場環境を踏まえると仕方がないことではあるが、どうしても運用損益がマイナスに転落すると気落ちし精神的な余裕がなくなりやすい。できるだけ短期的な運用損益には一喜一憂せず、気長に保有することを努めたい。なにより日ごろから気長に保有できる程度、余裕を持ってできる範囲内での運用を心がけたい。
 
また、販売側にはこのような時こそ顧客の不安に寄り添い、いつも以上にアフターフォローに力を入れることを期待されているのではないだろうか。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2022年10月13日「研究員の眼」)

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