2022年10月03日

激変した「ニッポンの理想の家族」-第16回出生動向基本調査「独身者調査」分析/ニッポンの世代間格差を正確に知る

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3-2. 回答者全員、雇用機会均等法施行後の両親の子供へ
図表3では、第16回調査で初めて、18歳から34歳の若い未婚(婚歴なし)男女の回答者全員が男女雇用機会均等法施行後の出生となっていることを確認した。そこで、同調査において彼ら34歳未満の若者たちが、どのようなライフコースを理想としているのかを確認したい。
 
まずは、18歳から34歳未満の未婚男性(以下、若年男性)がパートナーに望むライフコースについて尋ねた質問の回答分析結果において、1987年の第9回調査から次のような顕著な変化が発生していることが見て取れる(図表4-1)。
 
(1) 「専業主婦コース」を望む若年男性が第9回調査の38%から第16回調査の7%へと毎年着実に減少しており、妻に経済的に頼られることを希望しない若年男性が顕著に増加している。また、子育て期に妻がいったん仕事を辞める「再就職コース」希望男性も第14回調査以降、一貫して減少しており、とりわけ前回調査(2015年)からの減少割合は大きく、3割未満となった。

(2) 一方、子供が生まれても妻も働き続ける「両立コース」希望者は一貫して増加しており、約4割に到達。また前回調査からの増加割合も大きい。
 
初婚同士男女の婚姻統計を分析すると、婚姻届を提出した男性の7割が32歳まで、8割が34歳までとなっている。従って、18歳から34歳の未婚男女の回答結果である第16回調査での回答分析結果は、まさに日本の若年男性における結婚の理想像であるといえるだろう。

つまり、結婚適齢期にある男性が希望している結婚は、「親世代のように妻が夫の経済力に頼ろうとしない、また夫も妻に頼られようとしない結婚」であるといえるだろう。
 
この結婚価値観に対する世代間ギャップは明確で、現在50歳代、60歳代の男性が結婚適齢期であった35年前の第9回調査(1987年)では、当時の適齢期男性が最もパートナーに望んでいたのは「専業主婦コース」と「再就職コース」でともに4割であり、「両立コース」はわずか約1割であった。

このように、35年が経過するなかで、今の若者男性と35年前の若者男性では、全く異なる価値観でパートナーを求めていることがわかる。
【図表4-1】18歳から34歳の未婚(婚歴なし)男性がパートナーに望むライフコース(パートナーにどうあってほしいか、男性・%)
次に18歳から34歳の未婚女性(以下、若年女性)の理想のライフコースに関する変化を見てみたい(図表4-2)。
 
(1) 「専業主婦コース」希望女性は、第9回調査の34%から大きく減少傾向にあり、第16回調査では遂に13.8%(約1割)となる。
 
(2) 一方、子供が生まれても働き続ける「両立コース」希望女性は第9回調査以降、一貫して増えており、第15回調査で3割を超え、引き続き増加傾向にある。また、子育て期にいったん仕事を辞める「再就職コース」希望も若年男性の希望と同様に第14回調査(2010年)以降、一貫して減少しており、特に今回調査での減少幅は大きく、遂に3割未満(26.1%、約4人に1人程度)となっている。
 
(3) 結婚せずに働き続ける「非婚就業コース」が初めて1割を超過。
【図表4-2】18歳から34歳の未婚(婚歴なし)女性が理想とするライフコース(自分はどうありたいか、女性・%)
現在の50代・60代女性が35年前に考えていた理想とするライフコースが、「専業主婦コース」と「(子育て後に)再就職コース」がともに約3人に1人で、「両立コース」は約5人に1人であったことを考えると、こちらも男性と同様に価値観が大きく変容したことが確認できる。
 
以上、第16回調査の結果からは、人口マジョリティを占める中高年の価値観とは大きく異なり、若い男女はともに、お互いに極端に経済的に依存するような結婚生活を望んでいないことが示されている。

今の若者と35年前のかつての若者では、真逆のような価値観をもっていることが社会によって広く理解されないと、却って未婚化を進めるような的外れな提案をすることになりかねない状況に今の日本はあるといえるだろう。

4――中高年化社会によるシルバー民主主義が生み出す問題とは

4――中高年化社会によるシルバー民主主義が生み出す問題とは

シルバー民主主義は、少子高齢化が加速化する社会において、中高年世代が人口マジョリティ化し、中高年世代にとって都合の良い(すなわちマイノリティである若い世代の価値観を軽視した)政策が優先される社会をいう。

今の日本の報道や行政の政策において、この中高年化社会によるシルバー民主主義が蔓延しているように筆者は感じている。
 
民主主義、すなわち多数決の下で何かを決める場合、超高齢社会においては世代間人口格差を反映しなければ、必ず中高年の価値観が最優先されて物事が決定されていくことになる。図表1でも示した通り、2020年の人口構造から計算すると、40歳代の1票は20歳代の1票の100/66=1.5倍の力をもっている(逆に言えば、20歳代の1票は40歳代の0.66の価値しか持たない)。
 
20歳代人口と40歳代人口がともに同じ人口割合で投票に出向いたり、ツイッターなどのSNSでの記事に「いいね」を押したりリツイート機能で拡散したとしても、人口数の勝る40歳代の価値観が社会的に「普通」「みんなが思っている」「より支持されている」との評価を受けてしまう状況に今の日本はある。このように「20歳代人口が40歳代人口の1.5倍以上の投票をしなければ多数決の下では採択されない」状況下では、若い世代が意見を主張するには、あまりに不利な社会となりかねない、いわば数の暴力になりかねない状況にあるともいえるだろう。
 
中高年の価値観が優先されることの弊害は、日本において「国難」とされる少子化がとまらないという実態に顕著に反映されている。

統計的に見れば婚姻は男女ともに20歳代後半(男性27歳、女性26歳)で初婚のピーク年齢を迎え、また子供の授かりのピークは第5子以降であっても30歳半ばまでである。つまり、日本の未来人口のカギは今や人口マイノリティとなっている20歳代、30歳代が握っているのである。

30歳代までの若年世代(4割弱)と40歳代以降の中高年世代(6割強)において、人口動態的な観点から最も大きな違いは、家族形成の起点となる「新規のカップル形成力」にある。40歳代以上の人口が新たにカップリング(婚姻)することは、統計的に見れば1割に満たない状況となる。

従って、少子化対策を行うにあたって、先ずは人口マイノリティである30歳代以下の希望に沿った円滑なカップル形成を支援することを重要視するべきであることは間違いない。理想のライフコース調査結果の激変ぶりが示す通り、時間が経過するにつれて、その時代を生きている人々のライフスタイルも価値観も大きく変化する。

今や人口マジョリティ世代となった中高年世代が先ずはその変化に気づき、そしてその事実を踏まえて今以上にマイノリティ世代に寄り添った提言を行う必要があるだろう。
 
筆者も講演等を通じて度々指摘してきたことではあるが、日本の少子化は夫婦当たりの子供の数の減少よりも、夫婦がそもそも形成されないこと(つまり、未婚化)が主因である。1970年からの半世紀で出生数が43%水準に下落するとともに、初婚同士の婚姻数も42%水準に減少しており、両者の50年のデータ時系列間の相関係数は0.9を超えている。まさに、カップル形成不全から出生不全に陥る「カップルなくして出生なし」という事態が生じている。
 
それにもかかわらず、「結婚していることが当たり前」だった中高年世代が、いまだに少子化対策として最優先に考えることは、「夫婦で子どもができないことが少子化の原因だろうから、子育て支援の優先・不妊治療の拡充をすべき」といった既婚者支援ばかりに思われる。
 
更に、「結婚するのは本人の自由だし、結婚できるのが普通なのだから、結婚支援なんてハラスメントでしょう?」といった若年世代の実態に寄り添わない無責任な発言も聞かれる。これこそがシルバー民主主義を代表するアンコンシャス・バイアスのかかった価値観そのものであろう3
 
若い人口マイノリティ世代の価値観に寄り添えない中高年価値観至上主義社会は、必然的に次世代の家族基盤の形成不全を引き起こす。中高年の家族価値観をベースにした既婚者支援のみでは日本の家族形成の危機には十分に対応できないことを今一度、理想のライフコース調査結果を見てかみしめたい。中高年世代が当然と考えてきた「理想の結婚」価値観は今、若い世代に全否定されようとしている、という言い方をしても大げさではないだろう。
 
若年世代の価値観への無理解が、結果的には自らの老後の社会保障財源(若い世代が支払う税金)を枯渇させ、想定外の老後を送らざるを得ない社会にもつながりかねないことを、我々中高年こそが深刻に受け止めなければならない。
 
3 20歳代、30歳代の若い男女が結婚についてどう思っているのかを筆者が埼玉県と共同で調査した結果は、今後のレポートに譲るが、我々中高年世代にとっては驚きに満ちた、若い世代の男女ほど、また男性の方が女性よりも社会における結婚応援の機運醸成を強く求める結果であった。

【参考文献一覧】
 
国立社会保障・人口問題研究所.「第16回出生動向基本調査」
 
総務省. 「国勢調査」
 
厚生労働省.「人口動態統計」
 
天野 馨南子.“統計データに基づいた有意性の高い少子化政策策定のために―少子化の真因必携データと立ち上がる地方の自治体結婚支援” 202021年8月2020日「第2回少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」提出資料
 
東北活性化研究センター.「人口の社会減と女性の定着に関する意識調査」企画委員会資料(20202020年度)
 
天野 馨南子.“日本の国難ともいわれる、人口減少社会の問題は何か” 東レ経営研究所「経営センサー」202022年9月号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2022年10月03日「基礎研レポート」)

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