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コラム
2022年09月30日
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報道によると、「日本で事業を行う「外国会社」をめぐり、会社法で定められた登記の申請を行う意思を示さないIT事業者7社について、法務省は義務違反だとして、東京地方裁判所に通知」したとのことである1。そもそも外国会社とは何か、なぜ登記が求められるのかについて解説を行いたい。
外国会社とは「外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するもの」をいう(会社法2条2号)。要するに日本の法律以外、たとえば米国のデラウェア州の法律によって設立された日本の株式会社に類似した法人などを指す2。
ところで法人(あるいは会社)である意味とは、第一に、法人として権利義務の主体になることができることである。言い換えるとその代表者や代理人(部課長など)が取引を行ったときに、その取引の効果が代表者等ではなく、法人に帰属する。この点については民法が定めを置いていて、外国会社は当然に認許(にんきょ=法人格が認められるということ)され、日本における同種の法人と同一の私権を有する(民法35条)とされている。つまりデラウェア州にある外国会社である通販会社が、たまたま日本の居住者から手紙なりメールなりで発注を受け、販売を行ったときに、法的な効力はこの通販会社に生ずる(=売主は通販会社であり、販売に携わった個人ではない)ことになる。何かトラブルがあれば日本の居住者は通販会社に対して訴えを起こすことになる。
次に、この外国会社である通販会社が継続して日本国内の消費者向けに販売を行おうとする場合、たとえばネット上で日本向けサイトを設けて販売を行うような場合において、法は(1)日本における代表者を定めなければならない(会社法817条1項)としている。また、代表者のうち一人以上は日本に住所を持たなければならない(同項)とする。そして代表者を定めたときは、(2)三週間以内に代表者の氏名・住所を含む、外国会社の登記を行わなければならない(会社法933条)。この登記を行うまでは取引を継続してすることができない(会社法818条1項)とされている3ともに、登記を怠ったときに過料の罰則がある(会社法976条1項、979条2項)。
もともと旧商法(=会社法の改正前の法律)での外国会社の規律としては、日本において継続して取引を行う場合には日本国内に営業所を設けることが求められていた(旧商法479条)。しかしデジタル取引の活発化等を踏まえ、平成17年の会社法制定時にこの規定は削除され、代表者の選任と登記の義務だけになったという経緯がある。
さて、登記をする意味であるが、その目的は登記が一般に目的とする、法人であることの公示ということに加え、日本国内での普通裁判籍を設けさせる(民事訴訟法4条5項)ことにあるとされる4。普通裁判籍があるとは、ある者の所在地を管轄する裁判所において、その者を相手取った訴訟を、その種類にかかわらず提起できることをいう。民事訴訟法4条5項によると、外国法人の普通裁判籍は「日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる」とされている。
つまり、前述のように、日本の居住者と外国法人である通販業者との間でトラブルが発生したときには、消費者は日本の裁判所に訴訟を提起することができる。日本における代表者は裁判上の行為を行う権限を有する(会社法817条2項)ため、代表者が東京に住所を有するのであれば東京地裁においてその通販会社を相手取って訴訟を提起できる。これが法務省の登記を督促した主な理由であるといえる5。
1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220701/k10013698391000.html 参照。また2022年9月3日日経新聞朝刊ではツイッター社が外国会社登記を行ったの記事が掲載されている。
2 日本の法律上、株式会社というのは日本の会社法によって設立されたものだけを指す。逆に、外国の法人には株主総会や取締役会などについての日本会社法の適用はない(通説)。
3 818条2項に違反して、継続して取引を行った者は外国法人と連帯して債務を弁済する責任を負う(法818条2項)とされる。
4 江頭憲治郎「論説 外国会社とは何か」(早法83巻4号)P6参照。
5 ちなみに大手IT会社のうちでも日本で取引を行うため日本の子会社(合同会社の形態が多い)を設立しているケースがある。この場合でも取引の種類によって、取引主体は日本の子会社ではなく、外国会社がなっている場合があるとのことである。
外国会社とは「外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するもの」をいう(会社法2条2号)。要するに日本の法律以外、たとえば米国のデラウェア州の法律によって設立された日本の株式会社に類似した法人などを指す2。
ところで法人(あるいは会社)である意味とは、第一に、法人として権利義務の主体になることができることである。言い換えるとその代表者や代理人(部課長など)が取引を行ったときに、その取引の効果が代表者等ではなく、法人に帰属する。この点については民法が定めを置いていて、外国会社は当然に認許(にんきょ=法人格が認められるということ)され、日本における同種の法人と同一の私権を有する(民法35条)とされている。つまりデラウェア州にある外国会社である通販会社が、たまたま日本の居住者から手紙なりメールなりで発注を受け、販売を行ったときに、法的な効力はこの通販会社に生ずる(=売主は通販会社であり、販売に携わった個人ではない)ことになる。何かトラブルがあれば日本の居住者は通販会社に対して訴えを起こすことになる。
次に、この外国会社である通販会社が継続して日本国内の消費者向けに販売を行おうとする場合、たとえばネット上で日本向けサイトを設けて販売を行うような場合において、法は(1)日本における代表者を定めなければならない(会社法817条1項)としている。また、代表者のうち一人以上は日本に住所を持たなければならない(同項)とする。そして代表者を定めたときは、(2)三週間以内に代表者の氏名・住所を含む、外国会社の登記を行わなければならない(会社法933条)。この登記を行うまでは取引を継続してすることができない(会社法818条1項)とされている3ともに、登記を怠ったときに過料の罰則がある(会社法976条1項、979条2項)。
もともと旧商法(=会社法の改正前の法律)での外国会社の規律としては、日本において継続して取引を行う場合には日本国内に営業所を設けることが求められていた(旧商法479条)。しかしデジタル取引の活発化等を踏まえ、平成17年の会社法制定時にこの規定は削除され、代表者の選任と登記の義務だけになったという経緯がある。
さて、登記をする意味であるが、その目的は登記が一般に目的とする、法人であることの公示ということに加え、日本国内での普通裁判籍を設けさせる(民事訴訟法4条5項)ことにあるとされる4。普通裁判籍があるとは、ある者の所在地を管轄する裁判所において、その者を相手取った訴訟を、その種類にかかわらず提起できることをいう。民事訴訟法4条5項によると、外国法人の普通裁判籍は「日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる」とされている。
つまり、前述のように、日本の居住者と外国法人である通販業者との間でトラブルが発生したときには、消費者は日本の裁判所に訴訟を提起することができる。日本における代表者は裁判上の行為を行う権限を有する(会社法817条2項)ため、代表者が東京に住所を有するのであれば東京地裁においてその通販会社を相手取って訴訟を提起できる。これが法務省の登記を督促した主な理由であるといえる5。
1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220701/k10013698391000.html 参照。また2022年9月3日日経新聞朝刊ではツイッター社が外国会社登記を行ったの記事が掲載されている。
2 日本の法律上、株式会社というのは日本の会社法によって設立されたものだけを指す。逆に、外国の法人には株主総会や取締役会などについての日本会社法の適用はない(通説)。
3 818条2項に違反して、継続して取引を行った者は外国法人と連帯して債務を弁済する責任を負う(法818条2項)とされる。
4 江頭憲治郎「論説 外国会社とは何か」(早法83巻4号)P6参照。
5 ちなみに大手IT会社のうちでも日本で取引を行うため日本の子会社(合同会社の形態が多い)を設立しているケースがある。この場合でも取引の種類によって、取引主体は日本の子会社ではなく、外国会社がなっている場合があるとのことである。
(2022年09月30日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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