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有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の法定化
保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任 松澤 登
ところで以前の研究員の眼で、開示には(1)会社法による開示、(2)金商法による開示、(3)取引所による開示、(4)任意開示があると説明した。そして、多くの企業がサステナビリティへの考え方や取組を示す情報について統合報告書やサステナビリティ報告書などと題した(4)任意開示の書類で開示を行ってきたと説明した。また、一部の先端的企業では(2)金商法による開示である有価証券報告書の「第2 事業の情報」に記載することによって、取引市場に対して投資情報としてサステナビリティのリスクと収益機会について開示を行ってきたことを述べた。
今回のWG報告書では、多くの企業で④任意開示で行ってきたものを、(2)金商法による開示の書類である有価証券報告書の法定の記載事項とするというものである。これは、主に顧客や取引先を含むステークホルダーに対する一般的な開示であったものを、主に投資家に対する投資判断情報としての利用を目的とする開示としての側面を強く打ち出したものと言える2(図表2)。
この点、ESG投資は社会的責任を投資収益に優先させるものではなく、少なくとも投資収益(リスク・リターン)追求確保を前提として、ESGを考慮することは可能3というのが常識的な理解と言える。ただ、ESG重視の経営を行っている企業においては、たとえばその工場が大気汚染や土壌汚染の原因になる可能性は低く、リスクをそれだけ低く見積もる(=リターンの可能性が高くなる)ということは可能と思われる。
そして難しいのは、今後策定される予定の具体的な開示項目の範囲や程度が投資家のニーズに過不足なく対応しているものになるかどうかである。投資家の欲しい情報がないのも困りものだが、開示を義務化したはいいが、利用されずに空振りに終わってしまうのは開示する企業の負担でしかない。
いずれにせよ投資信託や年金基金が活用して初めてサステナビリティ情報開示が有用であったと言えるのであって、開示主体である企業の責任とともに投資家サイドの責任も重く問われるものである。
次回は、四半期報告書の廃止について解説を行う。
1 経産省中間報告 https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211112003/20211112003-2.pdf参照
2 ただし、任意開示をなくしてしまうわけではなく、企業独自の取組は引き続き任意開示を行うものとされている。
3 日本証券所グループ東京証券取引所「ESG情報開示実線ハンドブック」https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esg-investment/handbook/index.html p10。

03-3512-1866
(2022年06月17日「研究員の眼」)
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