2022年09月13日

欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(全体的な状況) -

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4|自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類1され、 それぞれについて算入制限が設定されている。

各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が8割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度(従って、全体の7割から8割程度)を占めている。

例えば、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用しているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。

Aegonのように2022年上半期においても自己資本の内訳を開示している会社もあるが、多くの会社は年末のみの開示となっているため、以下では2020年末と2021年末における自己資本の内訳を示している。
自己資本の内訳(2021年末)
積極的な事業の売却を進めたAvivaは全体の実額が減少しているが、Avivaを除けば各社とも合計の自己資本及びTier1(無制限)の残高が増加している。特にAXAとGeneraliにおいては、大幅に増加しており、AXAは、自社株買いと配当金の支払いによって部分的に相殺されたが、好調な業績と有利な経済的変動の結果によるとし、Generaliは、(同様な理由に基づいているが)主として調整準備金2に含まれる生命保険保有価値の増加によると説明している。

その他、各社の資本戦略等を反映する形で、内訳は変動している。

なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。
 
1 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。
2 調整準備金は、ソルベンシーII貸借対照表の負債を超える資産の超過分から、財務諸表の資本項目(株式資本、劣後債務を除く名目価値を超える資本)と予想支払配当を差し引いたものを表している。
5|SCRのリスク別及び地域別内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、以下の図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスクの分類の方式等が異なっている。

リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。

生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、ほぼ各社とも数%から1割程度の構成比となっている。

また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。

以下は各社の数値が揃う2021年末の数値を比較したものである。
SCRのリスク別・地域別内訳(2021年末)
なお、2022年上半期末の数値を開示している会社の当該数値は、以下の通りとなっている。
SCRのリスク別・地域別内訳(2022年上期末)
6|ソルベンシーの状況に影響を与えるトピック
ソルベンシーの状況にも影響を与える「COVID-19の影響」と「ロシアのウクライナ侵攻の影響」については、以下の通りとなっている。
(1)COVID-19の影響
多くの会社において、2022年上半期におけるCOVID-19の財務面への影響は、グループ全体としては限定的な形になっている。各社の2022年上半期レポート等におけるCOVID-19の影響に関する記述は、例えば以下の通りとなっている。

1) AXA
日本におけるCOVID-19の請求を反映して、他の要因による相殺があったものの、医療保険のコンバインドレシオが0.5%悪化して94.9%になった。

2) Aegon
2022年の最初の6か月間、COVID-19のパンデミックはビジネス、市場、業界に混乱を引き起こし続けた。予防接種の進歩により、COVID-19の蔓延は減少しており、経済に対する公衆衛生危機の影響は引き続き減少する可能性がある。しかし、予防接種のペースは鈍化しており、ウイルスの新しい株と医療の利用可能性の低下は依然としてリスクである。2022年の最初の6か月間に、Aegonの南北アメリカでの営業利益は生命保険事業において、不利な死亡率の影響が1億ユーロ(そのうち 8,100万ユーロ(2021年の最初の6か月は1億300万ユーロ)の保険金請求がCOVID-19を直接の死因としている)だった。これは主として、死亡率の上昇と介護施設からの退院により請求の終了が増加した長期介護保険に関連して、障害・疾病における良好な罹患率の経験によって相殺された。2022年の最初の6か月間、Aegon は引き続き長期介護保険でポジティブな罹患率を観察したが、前年度と比較するとあまり好ましい結果ではなかった。その結果として、2022年の最初の6か月間で、Aegonは、パンデミックのピーク時に設定された残りの既発生未報告の長期介護 (IBNR) 準備金をリリースした。

3) Zurich
COVID-19の営業利益への影響は引き続き減少している。生命保険事業における COVID-19関連の損失は1億3,700万米ドルから2,600万米ドルに減少し、農業者生命保険事業では4,200万米ドルから主に第 1 四半期において3,200万米ドルに減少した。 一方で、損害保険事業における請求頻度の減少による利益は、前年同期の1億900万米ドルと比較して重要ではなかった。

グループは、COVID-19 パンデミックの進展を注意深く監視し、対処し続けているが、グループのビジネスへの影響の殆どは既知であり、経営陣の最善の見積もりに反映されている。ただし、(i)特定の法域での保険適用範囲に関する請求訴訟、及び死亡率と罹患率に影響を与える可能性のある健康への潜在的な二次的影響、(ii)パンデミックに関するその他の広範なマクロ経済的影響、の結果に関する不確実性は残っている。 わずかであると予想されるが、これらの極端な結果は、グループの事業、財政状態及び経営成績又は成長に悪影響を及ぼす可能性がある。
(2)ロシアのウクライナ侵攻の影響
欧州大手(再)保険グループにおけるロシアのウクライナ侵攻の影響については、保険年金フォーカス「欧州大手(再)保険グループが2022年第1四半期業績発表でロシアのウクライナ侵攻による影響を開示」(2022.6.7)においても報告したが、ここでは今回の上半期のレポートにおける記述について報告する。

1) AXA
損害保険事業において、税引前再保険控除後で3億ユーロの影響があった。

2) Allianz
ウクライナ侵攻は、経済的及び財政的な意味合いを有する事業者、雇用主、国際社会の一員としてのAllianzグループにとって、懸念事項である。ウクライナ侵攻の影響と地政学的紛争の激化は予測不可能であり、例えば、エネルギー価格、株価の下落、信用スプレッドの拡大、信用デフォルトの増加によるインフレの上昇、又はスタグフレーションにより、国際金融市場や経済に大きな影響を与える可能性がある。

Allianzグループは、規制上のソルベンシー資本要件に準拠して、引き続き十分な資本を維持する予定である。

Allianzグループは、ロシアやベラルーシでの自社の投資ポートフォリオのために、新しい契約を引き受けたり、新しい投資を行ったりしていない。事業体はもはやロシアでの新しい保険事業の引き受けを行っておらず、整然とした方法でエクスポジャーを決定的に削減した。

2022年6月30日付で、Allianzグループのロシア事業は、売却目的保有の処分グループに分類されている。全体として、Allianzグループの要約中間連結財務諸表に対する財務上の影響は、これまでのところ限定的である。2022年上半期、ロシアとベラルーシの債券の11億ユーロの減損は、保険契約者配当及び税金を控除した後、生命/健康事業セグメントにおいて、総額で2億ユーロの純影響をもたらした。

3) Generali
Generaliはロシアとウクライナへのエクスポジャーについて、プレゼンテーション資料で以下の図表等による説明を行っている。

一般勘定の投資エクスポジャーは、241百万ユーロで2021年末の683百万ユーロに比して、大幅に減少した。非上場会社のIngosstrakhへの38.5%の出資が175百万ユーロ、ロシアの債券への直接投資が41百万ユーロ(殆どユーロ建又は米ドル建)、ユーロ建の債券ファンドへの間接投資が24百万ユーロ。

全てを償却する最悪シナリオのケースでは、ネットの影響はIngosstrakhで約126百万ユーロ、直接投資で27百万ユーロ。
Generaliのロシア・ウクライナへの一般勘定の投資エクスポジャー
ユニットリンク資産のエクスポジャーは20百万ユーロ(2021年末は117百万ユーロ)、資産管理における第三者AUM(運用資産残高)のエクスポジャーは59百万ユーロ(2021年末は530百万ユーロ)。

4) Aegon
2022 年の最初の 6 か月間、ロシアのウクライナ侵攻は人道危機を引き起こし、世界の金融市場にも影響を与え、重大な経済的混乱を引き起こした。 高インフレにより、中央銀行は大幅な利上げを開始した。 その結果、Aegonの主要市場における金利は、2021年12月31日と比較して大幅に上昇した。Aegonの 3 つの主要市場の株式市場は、2021 年の株式市場の上昇と比較して、2022 年の最初の 6 か月で低下した。さらに、信用スプレッドは 2021年12月31日と比較して拡大し、Aegonの結果に影響を与えた。

5) Zurich
2022 年の前半、殆どの国では、ウクライナでの戦争によってさらに激化するインフレの継続的な上昇が見られた。中央銀行は金融政策を引き締めることで対応し、株式市場と債券市場で大幅な下落を引き起こした。 投資評価と金利には、2022年6月30日現在のこれらの市況が組み込まれており、無形資産の回収可能性は、のれんを含むこれらの無形資産の価値が一般的な市況に敏感な場合にテストされている。損害保険事業及び投資ポートフォリオを通じたロシアとウクライナに対する当グループのエクスポジャーは重要ではない。

4―まとめ

4―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2022年上期末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告してきた。

次回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年09月13日「保険・年金フォーカス」)

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