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2022年09月13日
欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(全体的な状況) -
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1―はじめに
欧州大手保険グループの2022年上半期決算の発表が8月に行われており、それに伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。
まずは、今回のレポートでは、欧州大手保険グループの2022年上期末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告する。
まずは、今回のレポートでは、欧州大手保険グループの2022年上期末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告する。
2―欧州大手保険グループのSCR比率の推移
欧州大手保険グループのSCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))の制度導入時の2016年末から2022年上期末の推移については、次ページの図表の通りとなっている。
なお、Avivaは開示資料の説明で主として会社ベースの数値を使用しているので、監督ベースと会社ベースの2つの数値を掲載している。また、ZurichはソルベンシーII制度の対象ではないが、参考のためスイスの制度であるSST(スイスソルベンシーテスト)に基づく数値等を掲載している。
この図表によれば、過去からの推移の概要は以下の通りとなっていた。
・2016年末から2017年末にかけては、市場環境が良好(金利の上昇、クレジットスプレッドの縮小、株価の上昇等)であったこともあり、各社ともSCR比率を大きく上昇させていた。特に、内部モデル適用範囲の拡大等のSCR比率の算出方法の変更等もあり、Generaliは29%ポイント、Aegonは44%ポイントと大幅に水準を上げていた。
・2017年末から2018年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下、株価の下落等)もあり、AXAのSCR比率とZurichのZ-ECM比率が低下していた。
・2018年末から2019年末にかけても、市場環境の悪化(金利の低下等)により、AllianzとAegonのSCR比率が大きく低下したが、AXA(米国のIPOによるプラスの影響)やGenerali(規制上のモデル変更によるプラスの影響)等のSCR比率は上昇した。
・2019年末から2020年末にかけては、COVID-19による市場環境の大きな変動があったものの、Zurichを除いては、ソルベンシー比率自体に大きな変化は見られなかった。一方で、ZurichのSST比率は市場リスクのウェイトがより高くなっているで、金利の低下と市場の変動の影響を大きく受けて、2019年末から2020年末にかけて、222%から182%へと40%ポイントと大きく低下した。
・2020年末から2021年末にかけては、市場環境の好転の影響等により、各社ともソルベンシー比率が上昇している。特に、AXA、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は2桁台の大幅な増加となっている。
これに対して、2021年末から2022年上期末にかけては、各社それぞれの要因に基づいて、AllianzのSCR比率が9%ポイント低下したものの、その他の会社の監督ベースのSCR比率は上昇している。
なお、各社のソルベンシー比率の変動の詳しい要因については、次回のレポートで報告する。
なお、Avivaは開示資料の説明で主として会社ベースの数値を使用しているので、監督ベースと会社ベースの2つの数値を掲載している。また、ZurichはソルベンシーII制度の対象ではないが、参考のためスイスの制度であるSST(スイスソルベンシーテスト)に基づく数値等を掲載している。
この図表によれば、過去からの推移の概要は以下の通りとなっていた。
・2016年末から2017年末にかけては、市場環境が良好(金利の上昇、クレジットスプレッドの縮小、株価の上昇等)であったこともあり、各社ともSCR比率を大きく上昇させていた。特に、内部モデル適用範囲の拡大等のSCR比率の算出方法の変更等もあり、Generaliは29%ポイント、Aegonは44%ポイントと大幅に水準を上げていた。
・2017年末から2018年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下、株価の下落等)もあり、AXAのSCR比率とZurichのZ-ECM比率が低下していた。
・2018年末から2019年末にかけても、市場環境の悪化(金利の低下等)により、AllianzとAegonのSCR比率が大きく低下したが、AXA(米国のIPOによるプラスの影響)やGenerali(規制上のモデル変更によるプラスの影響)等のSCR比率は上昇した。
・2019年末から2020年末にかけては、COVID-19による市場環境の大きな変動があったものの、Zurichを除いては、ソルベンシー比率自体に大きな変化は見られなかった。一方で、ZurichのSST比率は市場リスクのウェイトがより高くなっているで、金利の低下と市場の変動の影響を大きく受けて、2019年末から2020年末にかけて、222%から182%へと40%ポイントと大きく低下した。
・2020年末から2021年末にかけては、市場環境の好転の影響等により、各社ともソルベンシー比率が上昇している。特に、AXA、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は2桁台の大幅な増加となっている。
これに対して、2021年末から2022年上期末にかけては、各社それぞれの要因に基づいて、AllianzのSCR比率が9%ポイント低下したものの、その他の会社の監督ベースのSCR比率は上昇している。
なお、各社のソルベンシー比率の変動の詳しい要因については、次回のレポートで報告する。
このように、SCR比率の推移については、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、その動向は一律ではなく、また必ずしも市場環境に応じて類似のトレンドを示しているわけではない。
さらには、以下の理由等から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができないことには注意が必要になる。
(1) 各社の生命保険と損害保険等の事業や地域別の構成比の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている(例えば、Aegonは生命保険事業が中心だが、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Zurichは生命保険事業も損害保険事業も大きな位置付けを占めており、さらにはAllianz等では資産管理事業も営業利益のうちの大きなウェイトを占めている)。
(2) 事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている(例えば、Avivaは英ポンド、Zurichは米ドルと主要通貨や新興国通貨との為替レートが公表数値に大きな影響を与える)。
(3) ソルベンシーII制度導入当初から数年間は、規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの適用範囲の拡大等による算出方法の変更を実施している会社もあり、一時的な要因による影響も大きなものとなっているケースがあったが、その後も適宜見直しが行われてきており、引き続き一時的な要因による影響も無視できないものとなっている。
さらには、以下の理由等から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができないことには注意が必要になる。
(1) 各社の生命保険と損害保険等の事業や地域別の構成比の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている(例えば、Aegonは生命保険事業が中心だが、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Zurichは生命保険事業も損害保険事業も大きな位置付けを占めており、さらにはAllianz等では資産管理事業も営業利益のうちの大きなウェイトを占めている)。
(2) 事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている(例えば、Avivaは英ポンド、Zurichは米ドルと主要通貨や新興国通貨との為替レートが公表数値に大きな影響を与える)。
(3) ソルベンシーII制度導入当初から数年間は、規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの適用範囲の拡大等による算出方法の変更を実施している会社もあり、一時的な要因による影響も大きなものとなっているケースがあったが、その後も適宜見直しが行われてきており、引き続き一時的な要因による影響も無視できないものとなっている。
3―SCR比率算定等に関係する事項
この章では、SCR比率算出等に関係する事項について報告する。
ここで述べる項目については、基本的には、以前の保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-全体的な状況-」(2022.4.1)及び2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関して報告した、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2022.7.1)で、各社の長期保証措置や移行措置の適用状況について、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-」(2022.7.5)、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-」(2022.7.12)等のレポートにおいて、報告した内容を繰り返しているが、一部データの最新化等を行っている。
ここで述べる項目については、基本的には、以前の保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-全体的な状況-」(2022.4.1)及び2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関して報告した、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2022.7.1)で、各社の長期保証措置や移行措置の適用状況について、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-」(2022.7.5)、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-」(2022.7.12)等のレポートにおいて、報告した内容を繰り返しているが、一部データの最新化等を行っている。
Zurichは、以前は社内指標のZ-ECMの目標範囲100%~120%を設定していたが、2020年からSSTベースの下限を160%と設定している。この際に、SSTの160%は、AAの格付けの資本水準に相当しており、SSTで180%から200%の範囲で事業を運営することを目指していると述べていた。
なお、ソルベンシー比率の水準毎の会社の対応方針をさらに明確にして開示している会社もある。
なお、ソルベンシー比率の水準毎の会社の対応方針をさらに明確にして開示している会社もある。
分散効果による控除率の水準は、Generaliを除けば、ほぼ30%から40%の範囲にある。各社の数値の水準の差異は、各社の生命保険事業と損害保険事業のウェイトやそれぞれの事業の商品構成の差異等を反映したものともなっている。
なお、5月から6月に開示されるSFCRにおいても、標準式によるSCRの数値は開示されてこなかったが、過去の影響度調査によれば、内部モデル適用によるSCRの引き下げ効果は2割程度と想定されている。
なお、5月から6月に開示されるSFCRにおいても、標準式によるSCRの数値は開示されてこなかったが、過去の影響度調査によれば、内部モデル適用によるSCRの引き下げ効果は2割程度と想定されている。
3|SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。
保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2022.7.1)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonの一部が、MAや技術的準備金に関する移行措置を適用している。これらの措置の適用による影響(2021年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度ごとの影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。
保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2022.7.1)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonの一部が、MAや技術的準備金に関する移行措置を適用している。これらの措置の適用による影響(2021年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度ごとの影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。
(2022年09月13日「保険・年金フォーカス」)
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