2022年09月09日

ASEANの貿易統計(9月号)~7月の輸出は域内向けが好調も、資源価格の頭打ちで増勢鈍化

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年7月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比15.4%増となり、前月の同21.4%増から増勢が鈍化した(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰を受けて増加傾向が続いているが、足元では資源価格が頭打ちして輸出の勢いに陰りが出始めている。先行きは世界的な高インフレと金融引き締め、欧米の景気減速懸念など外需の悪化懸念はあるが、当面は中国経済の正常化や域内経済の回復により輸出の増加傾向が続くものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、7月は都市封鎖の影響で落ち込んだ中国向けを中心に東アジア向け(中国を含む)が同6.3%増(前月:同9.3%増)と鈍化した。またEU向けが同13.8%増(前月:同17.0%増)、北米向けが同15.1%増(前月:同21.8%増)となり、それぞれ鈍化した(図表2)。一方、経済活動の回復が続く東南アジア向けは同40.1%増(前月:同37.5%増)と大幅な増加が続いた。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比9.9%増(前月:同20.7%増)の306億ドルと伸びが鈍化した(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いているが、7月は一桁台の伸びに止まり減速し始めた可能性がある。また輸入額も前年同月比4.2%増(前月:同15.8%増)の305億ドルとなり一桁台の伸びに止まった。結果として、貿易収支が+0.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から5.4億ドル縮小した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比7.6%減(前月:同33.3%増)と急減、電気製品・同部品が同7.0%増(前月:同24.8%増)と伸びが鈍化した(図表4)。アパレル関連では、履物が同63.6%増(前月:同19.1%増)、織物・衣類が同17.4%増(前月:同16.8%増)とそれぞれ好調だった。農林水産物を見ると、コメ(同23.1%増)やコーヒー(同11.4%増)、水産物(同11.4%増)が増加する一方、カシューナッツ(同24.0%減)や野菜(同5.7%減)、天然ゴム(同5.7%減)が減少など、品目毎にばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同11.8%増(前月:同23.9%増)、地場企業が同4.9%増(前月:同12.9%増)となり、それぞれ伸びが鈍化した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.3%(前月:同11.8%増)の236億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した2020年に急減した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いているが、7月は工業製品を中心に伸びが鈍化した。また輸入額は前年同月比23.9%増(前月:同24.5%増)の272億ドルとなり、高い伸びが続いた。結果として、貿易収支が▲36.6億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から21.3億ドルが拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同13.7%増(前月:同17.7%増)と伸びが鈍化した(図表6)。製造品の内訳を見ると、金属・鉄鋼(同7.4%増)や機械・装置(同22.6%増)、石油化学製品(同5.5%増)、家電製品(同13.0%増)、自動車・部品(同11.5%増)などは増加したが、主要製品である電子機器(同2.0%減)が減少した。また農産物・同加工品は同21.4%増(前月:同27.7%増)と好調を維持した。加工食品(同58.4%増)やコメ(同36.2%増)、天然ゴム(同27.4%増)が二桁増となるなど、総じて増加した品目が多かった。他方、鉱業・燃料が同63.5%増(前月:同86.9%増)となり、石油製品(同71.0%増)を中心に大幅な増加が続いた。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年7月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比30.7%増(前月:同30.3%増)の301億ドルとなり、大幅な伸びが続いた(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比34.3%増(前月:同40.2%増)の267億ドルとなり、輸出を上回る伸びが続いた。結果として、貿易収支が+34.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から14.8億ドル縮小した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同29.2%増(前月:同32.0%増)となり、主力の電気・電子製品(同28.0%増)を中心に10カ月連続の二桁増となった(図表8)。また鉱物性燃料は同73.6%増(前月:同96.0%増)と伸びが鈍化したものの、大幅な増加が続いた。石油製品(同73.8%増)と天然ガス(同72.3%増)、原油(同64.7%増)はそれぞれ好調だった。このほか、動植物性油脂(同20.2%増)と化学製品(同14.8%増)は二桁増となったが、ゴム手袋(同2.8%増)はコロナ禍で需要が急増した反動で伸び悩んだ。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比32.0%増(前月:同41.0%増)の255億ドルと大幅な増加が続いているが、伸び率は前月から鈍化した(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により大幅な増加傾向が続いているが、7月は資源価格が頭打ちした影響で増勢が鈍化した。一方、輸入額は前年同月比39.8%増(前月:同22.0%増)の213億ドルと、伸びが加速した。結果として、貿易収支が+42.2億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から9.3億ドル縮小した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同31.6%増(前月:同42.1%増)と伸びが鈍化した一方、石油ガス輸出が同40.5%増(前月:同25.0%増)と伸びが加速した(図表10)。品目別にみると、まず動植物性油脂(同18.8%増)はパーム油の価格下落により増勢が鈍化した一方、電気機械(同25.6%増)や化学製品(同19.9%増)、自動車・同部品(同58.8%増)、機械類(同18.8%増)、鉄・鉄鋼(同13.8%増)、鉱産物(同7.8%増)などは好調だった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年7月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比4.0%増(前月:同4.6%増)の127億ドルとなり、伸びが小幅に鈍化した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いているが、今年に入って増勢が弱まってきている。なお、総輸出額が同25.4%増(前月:同24.6%増)の461億ドル、総輸入額が同29.2%増(前月:同27.6%増)の439億ドルとなり、それぞれ大幅な増加が続いた。結果として、貿易収支が+21.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から10.9億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同7.2%増(前月:同0.3%増)となり、伸びが再び加速した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、ディスクメディア(同11.2%減)とPC(同3.1%減)が減少したものの、主力のIC(同15.1%増)が好調だった。一方、全体の約3割を占める化学品は同0.5%増(前月:同1.8%増)と伸び悩んだ。化学品の内訳を見ると、医薬品(同5.8%増)がプラスの伸びに転じたものの、石油化学製品(同6.9%減)が減少した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.2%減(前月:同1.0%増)の62億ドルとなり、減少した(図表13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いていたが、7月は電気製品の出荷が落ち込んだ影響により1年5カ月ぶりに減少した。一方、輸入額は前年同月比21.5%増(前月:同26.3%増)の121億ドルと大幅な伸びが続いた。結果として、貿易収支が▲59.3億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から0.6億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電気製品が同7.9%減(前月:同5.2%減)と2ヵ月連続で減少した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同2.0%減)と電子データ処理機(同28.4%減)が引き続き減少した。その他9品目については、製錬銅(同39.9%減)と金属部品(同11.3%減)、その他鉱業品(同9.7%減)がそれぞれ減少した一方、金(同56.8%増)とココナッツオイル(同56.7%増)、化学品(同22.6%増)、機械・輸送用機器(同13.0%増)、イグニッションワイヤーセット(同10.4%増)、その他製造品(同7.3%増)がそれぞれ増加した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年09月09日「経済・金融フラッシュ」)

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