2022年09月08日

2022・2023年度経済見通し-22年4-6月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2022年4-6月期の実質GDPは前期比年率3.5%へ上方修正

9/8に内閣府が公表した2022年4-6月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.9%(年率3.5%)となり、1次速報の前期比0.5%(年率2.2%)から上方修正された。

4-6月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比1.4%から同2.0%へ、民間在庫変動が前期比・寄与度▲0.4%から同▲0.3%へ上方修正されたことが成長率の上振れにつながった。また、6月のサービス産業動向調査などの結果が反映されたことから、民間消費が前期比1.1%から同1.2%へと上方修正された。
直近のピークと比べた経済活動の水準 2022年4-6月期の実質GDPは2019年10-12月を0.6%上回り、ようやくコロナ前の水準を回復した。しかし、日本は消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期に前期比年率▲11.3%の大幅マイナス成長となっており、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に経済活動の水準が大きく落ち込んでいた。

直近のピークである2019年4-6月期と比較すると、2022年4-6月期の実質GDPは▲2.4%、民間消費は▲1.8%低い。経済の正常化までにはかなりの距離があるといえるだろう。
(経常利益は過去最高水準を更新)
財務省が9月1日に公表した法人企業統計によると、2022年4-6月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比17.6%(1-3月期:同13.7%)と6四半期連続で増加し、前期から伸びを高めた。製造業は前年比11.7%(1-3月期:同18.4%)と伸びが鈍化したが、非製造業が前年比21.9%(1-3月期:同10.9%)と伸びが大きく加速した。

中国のロックダウンを受けた輸出の減速、原材料価格上昇に伴うコスト増などから、製造業の収益環境は厳しいものとなった。経常利益は増加したが、受取利息等の大幅増加により大きく押し上げられており、本業の利益を表す営業利益は前年比▲6.6%と7四半期ぶりの減少となった。一方、非製造業は、まん延防止等重点措置の終了を受けて個人消費を中心に国内需要が回復したことが、収益の改善につながった。

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比4.6%(1-3月期:同3.0%)と5四半期連続で増加し、前期から伸びを高めた。非製造業が前年比▲0.0%(1-3月期:同1.6%)と小幅ながら5四半期ぶりに減少したが、製造業が前年比13.7%(1-3月期:同5.9%)と伸びが加速した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比3.9%(1-3月期:同▲0.0%)と2四半期ぶりに増加した。製造業(1-3月期:前期比2.5%→4-6月期:同7.6%)が3四半期連続、非製造業(1-3月期:前期比▲1.4%→4-6月期:同1.9%)が2四半期ぶりに増加した。

設備投資は増加が続いているが、企業収益に比べると回復ペースは鈍い。企業の設備投資意欲を示す「設備投資/キャッシュフロー比率」は50%台前半と過去最低水準にある。コロナ禍が長期化する中で、原材料価格の高騰、中国のロックダウンなどの悪材料が重なったこともあり、企業は慎重姿勢を強めている。
経常利益(季節調整値)の推移/設備投資とキャッシュフローの関係

2. 実質成長率は2022年度1.8%、2023年度1.6%を予想

2. 実質成長率は2022年度1.8%、2023年度1.6%を予想

2022年4-6月期のGDP2次速報を受けて、8/16に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2022年度が1.8%、2023年度が1.6%と予想する。2022年4-6月期の実績値の上振れを受けて、2022年度の見通しを0.1%上方修正した。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度末)
2022年7月以降、新型コロナウイルスの感染が急拡大した。政府は、これまで感染拡大のたびに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を発令してきたが、今回は特別な行動制限を課していない。このため、小売・娯楽施設の人出はこれまでの感染拡大時のように落ち込んでおらず、2020年、2021年同時期の水準を上回っている。また、3年ぶりに開催される夏祭りや各種イベントが増えるなど、感染拡大下でも平常時に近づく動きがみられる。

総務省統計局の「家計調査」によれば、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、まん延防止等重点措置の適用を受けて、2022年1月が前月比▲15.4%、2月が同▲10.4%と大きく落ち込んだが、3月から7月まで5ヵ月連続で増加し、その間の増加率は68.6%となった。コロナ禍前(2019年平均)の水準を100とした指数は、7月には89.2とコロナ禍では最も高い水準にまで回復した。

先行きの個人消費は、その勢いは鈍化するものの、回復基調は維持される公算が大きい。
小売・娯楽施設の人出/対面型サービス消費の推移
海外経済の低迷が続く可能性が高いため、輸出による押し上げは当面期待できないが、緊急事態宣言などの行動制限がなければ、高水準の家計貯蓄や企業収益を背景とした民間消費、設備投資の増加を主因として、2022年7-9月期以降もプラス成長が続くことが予想される。ただし、金融引き締めに伴う米国経済の急減速、ゼロコロナ政策継続による中国経済の下振れ、ウクライナ情勢の深刻化、冬場の電力不足による経済活動の制限、新型コロナウイルス感染拡大時の政策対応の不確実性、など下振れリスクは大きい。

新型コロナウイルス感染症を完全に終息させることは困難であり、新規陽性者数は今後も増減を繰り返すことが見込まれる。感染拡大時にも経済社会活動を制限することがないように、新型コロナウイルスの感染症法上の見直しや医療提供体制の整備が求められる。
実質GDPが元の水準に戻る時期 2022年4-6月期の実質GDPはコロナ前(2019年10-12月期)の水準を0.6%上回ったが、前述した通り、日本はコロナ前の段階で消費税率引き上げの影響から経済活動の水準が大きく落ち込んでいたため、コロナ前の水準に戻っただけでは、経済の正常化とは言えない。

実質GDPが直近のピークである2019年4-6月期の水準を回復するのは、2024年1-3月期になると予想する。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2022年4月以降、前年比で2%台前半となっている。これまでコアCPIを大きく押し上げてきたのは、原油高に伴うエネルギー価格の大幅上昇だったが、ここにきて上昇ペース加速の主因は食料品(除く生鮮食品)へと移っている。

食料品(除く生鮮食品)の上昇率は直近2ヵ月で1.0ポイントの急拡大となり、7月には前年比3.7%となった。川上段階の物価は、輸入物価が前年比で30%程度、食料品の国内企業物価が前年比で5%台の高い伸びとなっている。川上段階の物価上昇を消費者向けの販売価格に転嫁する動きがさらに広がることにより、食料品(生鮮食品を除く)の伸びは8月以降、4%台となる可能性が高い。

一方、原油価格(ドバイ)は、世界経済の減速懸念の高まりなどから、1バレル=90ドル程度まで低下しているが、燃料油価格激変緩和措置(石油元売り会社への補助金)によってガソリン、灯油価格等が抑制されているため、市況の下落がエネルギー価格の低下に直結しない構造となっている。エネルギー価格は2022年3月の前年比20.8%をピークに伸びは鈍化しているが、2022年内は前年比で10%台の高い伸びが続くだろう。

コアCPIは、食料品の上昇ペースが一段と加速すること、円安に伴う輸入物価の上昇を受けて、日用品や衣料品など幅広い品目で価格転嫁の動きが広がることから、上昇率の拡大傾向が続き、携帯電話通信料の値下げの影響一巡、火災・地震保険料の引き上げが見込まれる2022年10月には3%台となることが予想される。

ただし、物価上昇のほとんどは、原材料価格の大幅上昇を販売価格に転嫁することによって生じたものであり、消費者物価指数の約5割を占め、賃金との連動性が高いサービス価格は低迷が続いている。春闘賃上げ率は2022、2023年と改善が続くものの、ベースアップでみればゼロ%台の低い伸びにとどまることが見込まれる。サービス価格の上昇を通じて物価の基調が大きく高まることは期待できない。原材料価格高騰による上昇圧力が一巡することが見込まれる2023年度後半には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで鈍化する可能性が高い。

コアCPI上昇率は、2022年度が前年比2.5%、2023年度が同1.1%と予想する。
財・サービス別の消費者物価(生鮮食品を除く)/消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測
日本経済の見通し(2022年4-6月期2次QE(9/8 発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年09月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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