2022年09月07日

2021年度 生命保険会社決算の概要

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.306]

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

2021年度の生命保険会社全42社の業績を概観する[図表1]。
[図表1]主要業績(2021年度)
42社合計では、年換算保険料ベースで新契約は15.5%増加しており、コロナ前の2019年度業績の規模にほぼ回復してきている。保有契約は▲0.6%減少となった。

基礎利益は、全体で10.9%と大幅に増加した。

新契約年換算保険料については、41社(かんぽ生命を除く。)合計で、個人保険は対前年12.8%増加した。また個人年金は、24.4%増加した。このように販売業績は全体として、2020年度から一転して回復傾向となった[図表2]。
[図表2]新契約年換算保険料(2021年度)

2―大手中堅9社の収支状況

以下、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみる。

1|資産運用環境と有価証券含み益
資産運用環境については、図表3の通りである。
[図表3]運用環境
こうした状況を反映して、有価証券含み益については、国内債券の含み益が▲3.5兆円減少、国内株式の含み益が▲0.5兆円減少、外国証券含み益は債券で減少、株式で増加し合計では▲1.7兆円減少した。その結果、有価証券合計では▲5.9兆円減少した[図表4]。
[図表4]9社 有価証券含み損益の状況
2|基礎利益は大きく増加
基礎利益は26,215億円、対前年度11.0%の増加となった[図表5]。
[図表5]基礎利益の状況(大手9社計)
うち利差益は、11,932億円、48.4%の増加となった。危険差益・費差益等の保険関係収支は14,283億円、▲8.3%の減少となった。

3利源とも公表している7社のみの合計金額を見たものが図表6である。危険差益は、8.3%減少となった。費差益については、ほぼ枯渇した状態にある。
[図表6]3利源の状況(開示7社計)
3|利差益は、逆ざや解消以降の最高水準を、引き続き更新
利差益についてさらに詳しく見ると、2013年度に逆ざやから利差益に回復し、2021年度は11,932億円と、2017年度から5年連続で最高水準を更新している[図表7-8]。
[図表7]利差益の状況(大手中堅9社計)
[図表8]利差益(逆ざや)状況の推移(大手中堅9社計)
多くの会社で利息配当金収入を中心とした「基礎利回り」は上昇した。国内債券に関しては、利回りは低下傾向にあると思われる一方、経済環境の回復などもあって、株式配当金や投資信託分配金などが増加した。一方、「平均予定利率」は、毎年緩やかな低下を続けている。

基礎利益の今後の動向については、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存している現状だが、今後の経済環境に大きく左右される。
4|当期利益は増加~内部留保重視、配当金額は減少
次に当期利益の動きをみる[図表9]。基礎利益(①)は大幅に増加、キャピタル損益(②+③)はあわせてほぼ横ばいとなり、その合計で28,571億円と対前年度2,671億円の増加となった。

不良債権処理や法人税負担を考慮し、また危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入、追加責任準備金を積み立てる前の状態に戻せば、23,974億円(A')と前年度と同程度であった。

この利益の使途であるが、資本の部、危険準備金、価格変動準備金、追加責任準備金繰入から成る実質的な内部留保の増加額(B’ )は18,224億円と、これは前年度よりも増加している。
[図表9]当期利益とその使途(大手中堅9社計)
一方、契約者配当は、5,750億円が還元されることとなった。9社中5社が、危険差益関係で配当率を引き上げる。

このような見方をすれば、2021年度は「実質的な利益」の76%が内部留保に、残り24%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれている。
5|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
ソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)については、資本や諸準備金が引き続き増加したが、その他有価証券の含み益が減少したため、マージン(=分子)は減少した。一方リスク(=分母)の方では、有価証券の時価下落により資産運用リスクが若干減少した。形式的に9社計で算出した同比率は前年度の998.4%から999.1%と横ばいであり、引き続き高水準にある[図表10]。
[図表10]ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)

3―トピックス

1|新型コロナウィルス感染拡大の影響
新型コロナウィルス感染症による、生命保険会社の支払金について、例えば一部の大手社の状況を見る[図表11]。

特に入院給付金は、みなし入院が急増したことにより、約10倍に増加している。

今後しばらく多額の給付金支払いが続き、特に危険差益に悪影響を及ぼす可能性がある。
[図表11]新型コロナによる保険金等の支払状況の一例
2|外貨建資産の動向
外貨建資産については、全社合計では110兆円を超え、5年前の約1.5倍。構成比は一般勘定資産の4分の1程度で5年前より6%(ポイント)近く増加している[図表12]。

外貨建保険に対応した資金については、外国債券などで運用すれば、為替変動リスクがないので、外貨建資産が増加するのは自然である。一方、高い海外金利を得るため、円建保険に対してもあえて外貨建資産を増やす方針もありうるが、より高度なリスク管理が必要となる。
[図表12]外貨建資産の金額と構成
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年09月07日「基礎研マンスリー」)

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