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近年、にわかに人的資本に対する関心が高まっている。その背景には、以下の3つの潮流が影響していると考える。第1に、企業価値の決定因子として人的資本のプレゼンスが増大している点である。グローバル競争が進展し、製品・サービスのライフサイクルが短縮化する中、市場の変化などに柔軟に対応するための有力な選択肢として人的資本への関心が高まっている。第2に、第1点とも関係するが、金融コミュニティーにおける人的資本への関心がにわかに高まるなか、人的資本の開示をめぐる取り組みが進展しているのである。第3に岸田政権のもとで新たな資本主義の一環として人的資本に対する投資やその生産性向上に向けた取り組みが進展している点である。
とはいえ、人的資本への投資を企業価値創造に結び付けることは容易ではない。投資対象となった人財がその能力や知識・スキルを発揮する適切な機会を付与されるとは限らず、どのような人財の組み合わせで業務を進めるかによって、その成果が異なってくる可能性もあるためである。また能力や知識・スキルを修得した人財が他社に移ってしまうリスクもある。
ではそうした販管費や研究開発費への投資は将来の粗利増加に貢献しているのか。こうした点を検討するため、各社ごとに1年後、2年後、3年後、5年後、10年後の粗利増加額を測定し、90パーセンタイルに属する企業の粗利増加額が10パーセンタイルに属する企業の粗利増加額に比べてどれほど大きいかを検討した(規模不均一の効果を緩和するため、投下資本で控除)。結果を図表2に示している。
ではなぜそもそも日本企業の販管費や研究開発費の投資水準が低いものにとどまっているのだろうか。その一つの有力な仮説はNon-GAAP利益など知財・無形資産や人的資本への投資が企業業績に与える影響を緩和させるメカニズムが必ずしも十分に活用されていない点である。またそうしたいわゆるNon-GAAP利益を効果的に活用する前提として魅力的な価値創造ストーリーを十分に伝えることができていない点も影響している可能性が高い。
魅力的な価値創造ストーリーを投資家に十分理解してもらうためには、自社が現状(as is)でどのような競争優位の源泉を持ち、将来 (to be) の市場変化に対してどのようにそれを活用・転換していくかを「見える化」し、その進捗を管理・監督していく必要がある。競争優位の源泉としての知財・無形資産を「見える化」するためのIPランドスケープなどの手法も徐々に開発され、より活用される機会も増大している他、それらを示すためのサステナビリティ開示のフレームワークなどの国際的統合化も進展するなどその基盤は整備されつつある。これらの基盤を活用して、知財・無形資産や人的資本に対する投資を積極化させ、持続的な企業価値創造を行う日本企業が増大することを期待している。
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一橋大学大学院 経営管理研究科
加賀谷 哲之
研究・専門分野
(2022年09月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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