2022年08月25日

計量テキスト分析で振り返る住宅事業者の事業方針~「戸建て」はエコ住宅、「マンション」は用地価格等の上昇対応に注力。コロナ後はニューノーマルへの対応を模索

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1.はじめに

土地総合研究所「不動産業業況等調査」によれば、「住宅・宅地分譲業」の経営状況を示す「不動産業業況指数」は、新型コロナウィルス感染拡大に伴い2020年4月に「▲21.2」と大幅に悪化した1。また、「在宅勤務」が普及したことで、交通利便性を重視する傾向が弱まり、多様な価値基準による「住まい選び」が広がりをみせている2。さらに、コロナ禍を経て建築工事費及び土地価格が一段と上昇するなど経営環境が大きく変化するなか、新築住宅を供給する事業者(以下、「住宅事業者」)は、アフターコロナを見据えた事業方針の策定が一層求められている。

そこで、本稿では、今後の住宅事業を考えるうえで、「住宅事業者」の事業方針の特徴を把握すべく、定量分析を行った。具体的には、「住宅事業者」を対象とした、マンション事業および戸建て事業の事業方針に関するアンケートの回答結果について、計量テキスト分析の手法を用いて実施した。
 
1 2022年4月は「+17.4」まで上昇し、「住宅・宅地分譲業」の景況感は大きく改善している。
2 吉田資「コロナ禍で多様化する「住まい選び」の基準」 (2020.12.3)

2.住宅市場動向の確認

2.住宅市場動向の確認

まず、本章では住宅市場の動向を概観したい。具体的には、(1)新設住宅着工戸数、(2)建築工事費、(3)住宅価格に関して、「マンション」と「戸建て」に分けて確認する。
2-1. 新設住宅着工戸数の動向
国土交通省「建築着工統計調査」によれば、「マンション(分譲住宅)」の新設住宅着工戸数は、2006年まで年間20万戸を上回る水準で推移していた。しかし、2007年の建築基準法改正(2007年6月施行)に伴う建築審査の厳格化や2009年のリーマンショックの影響を受けて、2009年に7.7万戸まで大幅に減少した(図表―1)。2011年以降は、10万戸台を回復して推移しているものの、2000年前半と比べると、半分程度の水準にとどまっている。

一方、「一戸建(分譲住宅)」の新設住宅着工戸数は、2008年まで10万戸から15万戸の範囲で推移していた。2009年はリーマンショックを受けて10万戸を下回ったものの、その後は増加基調で推移し、2021年は14.1万戸(前年比+8%)まで回復した。2013年以降、「一戸建」の着工戸数は9年連続で「マンション」を上回り、その差は拡大傾向にある。
図表-1 新設住宅着工戸数の推移
2-2. 建築工事費の動向
国土交通省によれば、「建設工事費デフレーター3(2015年度=100)」は、不動産ファンドバブル期の2005年から2008年にかけて大幅に上昇した(図表―2)。その後は、リーマンショックや東日本大震災等の影響を受けて下落したものの、2013年以降、アベノミクスによる景気回復や東日本大震災の復興需要、2021年東京オリンピックに向けた建築需要、人件費や資材価格の高騰等に伴い、上昇傾向で推移している。2021年はコロナ禍における供給制約などの影響から「建設工事費デフレーター」は、「木造住宅」が「116」(前年比+7%)、「非木造住宅」が「114」(前年比+6%)と一段と上昇した。
図表-2 建築工事費の推移
 
3 建設工事に係る「名目工事費額」を基準年度の「実質額」に変換する指標。建設工事にかかる費用の相場を示す。
2-3. 住宅価格の動向
国土交通省「不動産価格指数(2010年=100)」によれば、「マンション価格」は、2013年以降、継続的な上昇が続いている。2021 年は172となり前年比+9%上昇した(図表―3)。

一方、「一戸建価格」はこれまで横這いで推移していたが、2020年以降、「マンション価格」につれて上昇し、2021 年は110となり前年比+6%上昇した。
図表-3 住宅価格の推移(2010年=100)

3.住宅購入に対する意向

3.住宅購入に対する意向

続いて、人々の住宅購入に対する意向について確認する。

国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」によれば、「今後望ましい住宅形態」との質問に対して、これまで一貫して「一戸建て」が最も多く、次いで「戸建て・マンションどちらでもよい」、「マンション」の順となっている(図表―4)。ただし、「一戸建て」が減少(07年79%⇒21年54%)しているのに対して、「戸建て・マンションどちらでもよい」(9%⇒21%)と「マンション」(9%⇒16%)はともに増加している。

これを、都市の規模別にみると、「10万人未満の市」では、「一戸建て」が70%、「マンション」が8%であるのに対して、「政令指定都市」では、「一戸建て」が45%、「マンション」が26%となっている(図表―5)。全体では依然として「一戸建て」を望む人が多いものの、政令指定都市など人口の多い地域を中心に、「マンション」を望む人が増加している。
図表-4 今後望ましい住宅形態(全国)/図表-5 今後望ましい住宅形態(都市規模別・2021年)
次に、「一戸建てが望ましい理由」について、「隣家との関係に気を使わなくてすむ」、「土地を含めてすべて自分自身のものになる」が全期間を通じて30%を上回り、上位となっている(図表―6)。近隣との関係や土地所有を重視し、「一戸建て」を志向する人が多いようだ。

また、「補修や建替えの際の手続きが簡易で、自由度が高い」は、2018年まで下位にあったが、2019年以降増加し、2021年は38%と上記の2項目を上回りトップとなった。一方、「周りの景観や住環境が良い」は、2018年まで上位にあったが、2019年以降減少し、2021年は15%となった。
図表-6 一戸建てが望ましい理由
続いて、「マンションが望ましい理由」について、「建物管理や補修に手間がかからない」が全期間を通じて最も多い(図表―7)。次いで、「一戸建てほどの広さは必要ではない」や「店・施設・駅などが周りに多く、日常生活の利便性が高い」が上位となっている。日常管理の容易さや生活利便性を重視し、「マンション」を志向する人が多いようだ。
図表-7マンションが望ましい理由
また、国土交通省「住宅市場動向調査」によれば、「住宅購入を決めた理由」について、「分譲戸建て」、「分譲マンション」ともに、「間取り・部屋数が適当だから」が最も多く、次いで、「住宅の広さが十分だから」が上位となっている(図表―8、9)。
図表-8 住宅購入を決めた理由(分譲戸建て)
図表-9 住宅購入を決めた理由(分譲マンション)
これに対して、「戸建て・注文住宅」では、全期間を通じて、「高気密・高断熱住宅だから」と「住宅のデザインが気に入ったから」が上位となっている(図表―10)。用地探しから自分で行う「注文住宅」では、住宅の断熱性能やデザインがより重視されているようだ。
図表-10 住宅購入を決めた理由(注文住宅)

4.住宅事業者の事業方針に関する計量テキスト分析

4.住宅事業者の事業方針に関する計量テキスト分析

4-1. 分析方法
本章では、「住宅事業者」の事業方針の特徴を把握すべく、以下の定量分析を行った。具体的には、市場経済研究所「全国住宅・マンション供給調査」(2007年~2021年)の「わが社の〇〇度戦略(住宅事業者を対象としたアンケート回答結果)」に掲載の、「マンション」と「戸建て」の事業方針について、計量テキスト分析4の手法を用いて実施した。分析ツール(ソフトウェア)にはKH Coder5を使い、単語の抽出に用い形態素解析エンジンと辞書に「ChaSen(茶筌)」を使用した。
 
4 (1)文章を単語(形態素)に分解し、(2)各単語の出現回数を分析単位(本稿では、各社アンケート回答結果)ごとに集計し、(3)その集計表(数値データ)を統計手法で分析する、という手法。
5 樋口耕一(2014)「社会調査のための計量テキスト分析」、ナカニシ出版
4-2. 分析結果
(1)単語の出現頻度
まず、単語の出現回数について、図表-11に頻出上位25語を示した。

最も多い単語は、「戸建て」が「住宅」(1165 回)、「マンション」が「商品」(247回)であった。「戸建て」と「マンション」に共通して多い単語は、「商品」、「価格」、「顧客」、「販売」、「開発」、「事業」、「土地」であった。「戸建て」・「マンション」ともに、商品価格や販売戦略、開発に関する事業方針を示す企業が多いことが分かる。

また、「戸建て」では、「省エネ」(7位・194回)、「エコ」(8位・178回)、「環境」(12位・134回)等、住宅の環境性能に関する単語が多い。一方、「マンション」では、「供給」(6位・168回)、「立地」(8位・118回)、「エリア」(10位・111回)等、供給エリアや立地に関する単語が多い。
図表-11 頻出単語(上位25語)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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