2022年08月15日

ふるさと納税の資金の流れ-ふるさと納税再考の余地はどこにあるのか?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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1――はじめに

先日、総務省が公表した「令和4年度ふるさと納税に関する現況調査について」(以下、資料)によると、2021年度のふるさと納税総額は、8,302億円で、引き続き増加傾向にある(図表1)。毎年、ふるさと納税総額には注目が集まるが、ふるさと納税制度にかかる資金の流れはあまり着目されていない。そこで、当レポートでは、初めにふるさと納税制度に関する資金の流れを俯瞰し、都道府県や市区町村(以下、地方団体)への寄付が他の団体への寄付よりも優遇されている背景や、その妥当性を確認してみたい。

ふるさと納税総額の次に注目が集まるのは、寄付受入額が上位の地方団体や、ふるさと納税による税金流出額が上位の地方団体である。しかし、規模の大きい地方団体と規模の小さい地方団体では、同じ1億円でもその重みは異なる。ふるさと納税制度による個別の地方団体への影響を理解するには、単に寄付受入額や税金流出額が上位の地方団体やその金額を知るだけでは、不十分だろう。そこで、地方団体の規模も勘案し、ふるさと納税制度による個別の地方団体への影響も確認する。
【図表1】 ふるさと納税寄付総額の推移

2――ふるさと納税にかかる資金の流れを俯瞰する

2――ふるさと納税にかかる資金の流れを俯瞰する

公開情報から読み取る資金の流れ
公開情報を用いて、ふるさと納税にかかる資金の流れを推計すると、図表2の通りである。資金の流れの始まりは、寄付者から地方団体への①寄付(図表2の濃紺矢印)であり、資料によると、2021年度の寄付総額は8,302億円である。寄付を受け取った地方団体は、このうち、3,851億円を②費用として支出(図表2の青矢印)しているので、寄付を受け取った地方団体の行政サービスに充当されるのは差額の4,451億円、寄付総額の54%(4,451億円÷8,302億円)にとどまる1。各種事業者に支払われた費用3,851億円のうち、2,267億円は寄付者への③返礼品となる(図表2の水色矢印)ので、各種事業者に残るのは1,584億円である。以上が、寄付から返礼品に至るまでの流れである。

ふるさと納税制度は、地方団体に寄付した場合に税金の控除が受けられる制度である。資料によると、2021年の寄付の結果、④住民税控除という形で寄付者が居住する地方団体から寄付者に5,672億円の資金が移動している(図表2の赤矢印)。ワンストップ特例制度を利用しない限り、住民税だけでなく⑤所得税も控除され、国から寄付者に資金が移動している(図表2の桃色矢印)。所得税からの控除額は公表されていないが、筆者が推計2したところ1,613億円に及ぶ。寄付者にしてみれば、①寄付により寄付者から8,302億円の資金が流出するが、③返礼品として2,267億円、④住民税控除として5,672億円、⑤所得税控除として1,613億円(概算)の資金が流入するので、差し引き1,250億円(概算)だけ流入超となっている。

また、ふるさと納税に伴い減少した税収分の一部は、原則として⑥地方交付税として補われる仕組みになっている。具体的なふるさと納税に起因する地方交付税額も公表されていないが、筆者が推計3したところ、国から寄付者が居住する地方団体に2,991億円の資金が移動している(図表2の橙色矢印)。寄付者が居住する地方団体にしてみれば、④住民税控除として5,672億円の資金が流出するが、⑥地方交付税として2,991億円流入するので、差し引き2,681億円だけ流出超となっている。国にしてみれば、⑤所得税控除として1,613億円、⑥地方交付税として2,991億円の資金が流出するので、合計4,604億円の資金が流出している計算である。
 
【図表2】 ふるさと納税の資金の流れ
 
1 ふるさと納税を通じてウクライナや日本赤十字社等への支援が行われたため、実際に地方団体の行政サービスに充当される金額は、その分だけ少ないはずである。
2 総務省「令和4年度ふるさと納税に関する現況調査について」によると、ふるさと納税による税控除の適用を受けた納税者は741万人の内、375万人はワンストップ特例制度利用しているため、所得税は控除されない。このため、ワンストップ特例制度を利用していない残りの366万人について、所得税控除額を推計した。
国税庁「統計年報書を(令和3年度版)」は未公表の為、国税庁「統計年報書を(令和2年度版)」と、総務省「令和3年度ふるさと納税に関する現況調査について」を参考に、ワンストップ特例制度を利用していない利用者1人当たりの所得控除額を推計し、それを366万倍した。
ワンストップ特例制度を利用していない利用者1人当たりの所得控除額は、確定申告によって所得税の全部もしくは一部を支払った人と、確定申告によって所得税の還付を受けた人に分けて推計している。
支払った人の所得控除額は、申告所得税標本調査結果の所得控除表を参考に推計し、還付を受けた人の所得控除額は、支払った人の所得控除額の推計結果を参考にした。具体的には、合計所得階級が1,500万円以下の人の1人当たり所得控除額を求め、還付を受けた人の人数を乗じた。
3 まず、総務省「令和4年度ふるさと納税に関する現況調査について」から、各地方団体の減収額(住民税控除額)を把握する。次に、原則として減収額の75%が交付税として補填されるものとして各地方団体の補填額を推計した合計額を地方交付税による資金移動額とした。但し、総務省「令和4年度普通交付税の算定結果等」を参考に、普通交付税が交付されていない地方団体の補填額は0円とする他、普通交付税が減収額の75%に満たない地方団体の補填額は、普通交付税額を補填額とした。
2地方団体への寄付が他の団体への寄付より優遇される理由
地方団体に対する寄付金以外にも、税金が控除される寄付金があり、共同募金会や日本赤十字社公益団体に対する寄付金が代表的である。地方団体に対する寄付金の場合、上述の適用下限額超過分の100%が減額されるのが原則であるのに対して、地方団体以外に対する寄付金の場合、100%減額されることはほぼない4。また、すべての寄付金が税控除の対象となるわけでもなく、税控除を受けられない寄付金もある。寄付とは経済的利益の無償の供与のことであり、いずれの寄付にも他者を応援したいといった「志」があるはずなのに、税額控除の対象となるか否か、税額控除の対象であっても扱いが異なるのはなぜだろうか。
 
所得税の控除が受けられる代表的な寄付金は、「国または地方団体に対する寄付金」、「公益社団法人、公益財団法人といった公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄付金で、財務大臣の指定を受けたもの」、「公共法人などのうち、公益の増進に著しく寄与すると認められた特定公益増進法人に対する寄付金」などである。これより、税控除の対象となる寄付か否かの判断は公益性の高さにあることは明らかであり、税額控除の対象となる寄付金の中でも、地方団体に対する寄付金のみ扱いが異なる根拠も公益性の高さにあると考えられる。実際に、ふるさと納税制度創設時の検討結果を取りまとめた「ふるさと納税研究会報告書」(以下、報告書)によると、以下の2つの理由から、地方団体に対する寄付金は「特に」公共性が高いと評価して問題ないと判断されている。
 
1つめの理由は、地方団体に対する寄付金は、行政サービスの財源に直接充てることが可能な一般財源となるからである。確かに、地方団体に対する寄付金は、行政サービスの財源に直接充てることが可能だが、図表2によると、ふるさと納税で行政サービスの財源に用いられるのは寄付額の54%にとどまる。2つ目の理由は、地方団体全体の歳入総額が減少しないからである。地方団体に対する寄付金の場合、寄付者が居有する地方団体の歳入は減少しても、その分だけ寄付を受け付けた地方団体の歳入が増えるので、地方団体全体の歳入総額は減らないという考えである。しかし、実際は寄付額の46%が、各種事業者や納税者に流出している。寄付者が居有する地方団体の資金流出額は2,681億円に対し、寄付を受け付けた地方団体の資金流入額は4,451億円なので、地方団体全体の歳入総額は1,770億円で増加している。しかし、地方団体全体の歳入総額が増加するのは地方交付税による国からの資金移動2,991億円があるからで、地方交付税の影響を除けば、地方団体全体での歳入総額は1,221億円減少している。また、国や地方団体(公的部門)の合計でみると、2,834億円の資金が流出している。
 
公的部門から資金が流出しているからと言って、地方団体に対する寄付金の「特に」高い公共性を単純に否定することは不適切だが、それに見合った公共性があるのか、「特に」高い公共性があると評価して問題ないのかといった観点で再評価や再考の余地はあるのではないだろうか。
 
4 ただし、災害救助法の適用を受けた災害について日本赤十字社や中央共同募金会などが義援金の募金活動を行っている場合にも、その義援金が最終的に被災地方団体又は義援金配分委員会等に拠出されるものであるときは、『ふるさと納税』として所得税と個人住民税で控除を受けられる。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/104421.html
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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