2022年07月28日

2021年度 生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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4当期利益は増加~内部留保重視、配当金額は減少
次に当期利益の動きをみる(図表-9)。基礎利益(①)は大幅に増加、キャピタル損益(②+③)はあわせてほぼ横ばいとなり、その合計で28,571億円と対前年度2,671億円の増加となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金の繰入額であり、9社中7社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっている。

これは逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額積み増し分である。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。
 
危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策的な積み増しの判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より2,536億円増加して14,476億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、23,974億円(A')と前年度と同程度である。

さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は増加してはいる(内部留保の増加(B))。これに、追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は18,224億円と、これは前年度よりも増加している。
【図表-9】当期利益とその使途(大手中堅9社計)
一方、配当であるが、5,750億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。

このような見方をすれば、2021年度は「実質的な利益」の76%が内部留保に、残り24%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれている。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方として区別する必要があろうが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、こうした表においては無視した。)

配当還元の金額は、対前年▲885億円減少している。9社中5社が、危険差益関係で配当率を引き上げる予定である。一方、近年増加し続けている利差益の還元は個人保険、個人年金保険については据置であり、2021年度だけみると資産運用が好調であっても、先行きには不安があることを反映している。
5ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
【図表-10】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の998.4%から999.1%と横ばいであり、引き続き高水準にある。

2021年度は、また当期利益の使途でもふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加したが、その他有価証券の含み益が減少したため、マージン(=分子)は減少した。

一方リスク(=分母)の方では、資産運用リスクが若干減少している(さらなる詳細は不明だが、有価証券の時価下落によるリスク対象資産額の減少によるものか)。こうしてマージンとリスクがともに減少して、ソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいで高水準を維持している。
 
なお、経済価値ベースのソルベンシーについては、引き続き検討が進められており、2025年の導入と言われている。そうした中では、現行方式による比率の水準自体の意味は薄れているが、保有リスクと、それに対する準備金等の対応状況は、上記の通り一定程度窺い知ることができる。

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

【図表-11】かんぽ生命の業績(2021年度)/【図表-12】かんぽ生命の基礎利益
かんぽ生命は他の国内大手の生命保険会社とは歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、別途概観しておく。

個人保険・個人年金保険の業績動向を見たものが図表-11である。新契約年換算保険料は、50.7%の増加となった。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲9.7%と、近年、国内大手中堅9社計より大きい傾向がある。
 
基礎利益の状況は次のとおりである(図表-12)。

利差益については、平均予定利率はわずかながら低下し、基礎利回りは上昇したので、利差益は1,407億円と大幅に増加している。危険差と費差の合計は減少しているが、これらを合計した基礎利益は4,371億円と増加した。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の70%となっている(前年度は68%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は近年40%程度)。

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2021年度は1,042.8%と若干低下しても高水準である(前年度は1,118.1%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め約1.7兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても5.3兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.6兆円と、引き続き厚い水準にある。

4――トピックス

4――トピックス

1新型コロナウィルス感染拡大の影響
【図表-13】新型コロナによる保険金等の支払状況の一例
新型コロナウィルス感染症による、生命保険会社の保険金・給付金の支払いは、例えば一部の大手社の状況は図表-13のようになっており、特に入院給付金のほうは、みなし入院が急増して約10倍になっている。これはここで挙げた大手社だけでなく、ざっと見たところ各社とも10倍近くに増加しているようだ。

国内大手社であれば、通常時でも数千億円の保険金と給付金の支払いがある中では、小さい割合を占めるに過ぎないが、これはダイレクトに危険差益の減少となって現れることを考えると、2021年度の単年度収支だけへの影響をみると、必ずしも軽微な影響だったとは言えない。今後の状況が気になるところだが、現在のところは第6波も沈静化しており、一時的な影響で済むのか?あるいは「第7波」がやってきたりすれば、特に入院給付金支払いは今後しばらく高い水準で続くかもしれない。
2外貨建資産の動向
今年も外貨建資産の動きについて見ておく。
【図表-14】外貨建資産の金額と構成
2021年度においても、外貨建資産は金額、構成比とも伸びた。全生命保険会社合計では110兆円を超え、5年前の約1.5倍。構成比は一般勘定資産の4分の1程度で5年前より6%(ポイント)近く増加している。

従来の国内の保険に対する資産運用が、円ベースで確定金利の得られる国内債券での運用が比較的安全確実であるのと同様に、外貨建保険に対しては外国債券などによる運用が、基本的には為替変動リスクはなく問題が少ない。そういった意味では外貨建は保険とともに資産も増えるのは自然である。しかし一方で、国内の低金利による利息収入の減少をカバーするために、高い海外金利を得る目的で、円貨建負債に対応する資産としてもあえて外貨建資産を増やす方針も当然ありうる。その場合にはより高度なリスク管理や、対応する資本の充実などが必要とされるだろう。
3基礎利益の算定方法の改定の予告(全社統一的な変更は2022年度より)
以前このレポートでも取り上げたことがあるが、基礎利益の算定方法が収支の実態を必ずしも正確に表現できていない(=「基礎」利益という名称に、一部ふさわしくない面がある)のではないかという問題意識が生命保険業界全体にあった。その内容について以降述べるが、そうした点が来年度(2022年度)決算から、全社統一して算定方法を変更することで、改善の方向に向かうことになる。
 
基礎利益は、保険会社の基礎的な期間損益の状況を現わす指標として2000年度決算から開示されたもので、保険そのものに関わる保険料等収入、保険金等の支払金、事業費、責任準備金繰入などとともに、資産運用収支としては利息配当金収入を中心とした収支(一言でいえば、有価証券の売却損益など一時的な損益を含まないもの)から成る。これは株価、為替のような経済環境の変動に一時的に左右されない比較的安定的な部分を示すものであることが、求められている。
 
そういった面から、具体的に修正されるのは以下のような項目である。それぞれについて、現在の算出方法が不具合である事情とその改正方向について、以下簡単に説明を試みる。
【図表-15】基礎利益計算方法の改正項目
〇為替ヘッジにかかわる損益の取り扱いの修正
外債への投資において、為替ヘッジを行う場合についてである。簡単な例としてモデル的に「国債に投資した場合、利息10が得られる」ものとしよう。同じ資金を見かけ利息の高いヘッジ外債に投資した場合、理論的には例えば「利息100、ヘッジコスト-90」で合わせて国債と同額の10が得られることになる。(もちろんそうでない場合も現実にはある。)この時、現行方式の基礎利益は、前者10、後者100とされることになっている。そしてヘッジコストはキャピタル損として「捨てられて」しまう(とはいえ、経常利益には反映されるので、損失を隠しているわけではない。)。

安定的な収支という観点からは、実質的に差がないのに、基礎利益としては大きな差異が生じ、保険会社の投資行動を歪ませる要因にもなってしまう。そこで「為替に係るヘッジコストは基礎利益の算定に含める」こととなった。

今挙げた例では、2022年度からは両者とも「基礎利益10」と計算されることになる。
 
〇投資信託の解約損益
投資信託は、その定期的な分配金については、利息配当金収入に含め、従って基礎利益に反映されるのが一般的である。しかし投資信託を解約したり、売却したりした時の差損益については、会計的に統一された扱いになっていないようだ。売却時には有価証券売却損益が発生するのは当然としても、「解約」時には(うまく表示する場所がないので?)分配金同様に基礎利益に含めている会社もあるとのことである(そもそも「解約」と「売却」はどう区別するのかも、契約形態により様々なのだろう)。投資信託の中身は内外株式であることも多く、その価格は、株式の時価変動により上下し、実質的には株式売却益のような性格を持つ、ということも多いと思われる。

そういった事情もあってか、改定後は「投資信託の解約損益は、基礎利益から除外される」ことになる。
 
〇有価証券償還損益のうち為替変動部分
有価証券償還損益自体は、基礎利益に含まれるのが自然な考え方であるが、外債についてはそこに為替変動部分があり、それを分離せずそのまま基礎利益とするか、分離してキャピタル損益として扱うか、という両方の取扱いがあるようだ。これについては統一して「分離して基礎利益から除外」となる。(細かくみれば、そもそもの定期的な利息収入にも為替変動があるのだが、それらまでも分離するわけではない。償還益は一時にまとまった金額となることが多いので、そうするのだろう。)
 
〇再保険に関する損益の取り扱い
生命保険会社の場合、損害保険会社とは異なり、従来再保険に関する損益は規模が小さく、収支上さほど重要になることはなかった。ところが近年、自社の保有契約のうち、かなり大きな規模を他の会社に再び保険に出す(出再する)会社も見かけられるようになった。

この場合、出再する時には、再保険料の支払いが生じる(損失)とともに、出再した契約の責任準備金は、積み立てておく必要がなくなる(責任準備金戻入れ、会計上は利益となる)。これらは一時期の発生であることが多く、基礎的な損益とはみなせないだろう。そのほかにも基礎利益以外の損益と対応する再保険に関する損益(再保険料、再保険金収入、責任準備金の増減などが考えられる)があり、それらは基礎利益の算定から除外する。
 
こうした変更を先取りして、今般の2021年度決算で、前倒しで新方式による基礎利益の開示を、現行方式に加えて行っている会社もあった。

今の状況では、上記の変更により、ヘッジコストの負担が増えるケースや、投資信託の解約益が抜け落ちるケースが多いため、(新)基礎利益の金額あるいは内訳として利差益が大きく下がるケースが見受けられる。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年07月28日「基礎研レポート」)

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