2022年06月28日

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3-2. オフィスビルの新規供給見通し
(1)仙台都心部で進む再開発
仙台市は、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」を2019年7月より始動した。具体的な施策として、「仙台市都心部建替え促進助成金制度の創設」や「高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和」、「仙台市市街地再開発事業補助金制度の拡充」等、が講じられている。

加えて、仙台市は、2020年10月に「せんだい都心再構築プロジェクト」に関する第2弾の施策を公表した。環境に最大限配慮した建築物(グリーンビルディング)の整備を誘導するほか、テナントの移転に支援制度を創設した5。こうした施策の拡充に伴い、仙台中心部での再開発が進展する可能性がある。

仙台市は、同プロジェクトの助成制度を活用した第一号案件として、「アーバンネット仙台中央ビル」の開発計画を指定した。2017年に閉鎖した「仙台中央ビル」を、19階建てのオフィスビル(延床面積約4.2万m2)に建替える計画で2023年に竣工予定である6

また、2022年6月に「仙台市都心部建替え促進助成金」、「仙台市中小企業者建替え移転促進助成金」、「高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和」を活用した高機能オフィスビル3棟の建築計画が発表された(図表-18)。「仙台国分町プロジェクト」は、10階建てのオフィスビル(延床面積1.0 万m2)を2023年11月に、「仙台駅前南町通プロジェクト」は、12階建てのオフィスビル(延床面積1.4 万m2)を2024年1月に、「仙台中央三丁目プロジェクト」は、2025年2月に竣工する予定である。
図表-18 「せんだい都心再構築プロジェクト」建築計画
また、ヨドバシホールディングスは、JR仙台駅東口で、12階建ての複合ビル「(仮称)ヨドバシ仙台第1ビル計画」(延床面積約7.7万m2)を開発し、2023年の開業予定を発表している。この計画は、国土交通省に優良な民間都市再生事業計画として認定され、金融支援や税制上の特例措置等の支援を受けている7

さらに、仙台市はJR仙台駅西口の青葉通の一部区間を、屋外広場に整備することを検討している。この屋外広場の整備は、青葉通沿道の「GSビル跡地」や「旧さくら野百貨店仙台店」の再開発と連動して行う計画である8

「GSビル跡地」では、隣接する商業施設「EDEN(エデン)」との一体的な再開発が検討されている。ただし、「EDEN」を運営するオリックスの関連会社は、入居テナントとの契約期限を2022年1月末から2年間延長したことから、本格的な再開発は2024年以降となる見通しである9。また、「旧さくら野百貨店仙台店」跡地では、「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが開発を検討している。オフィスビルとホテルの計2棟(総延床面積約11万m2)を建築し、それぞれの低層階を商業施設でつなげる計画で、着工は2024年度、竣工は2027年度を目指すとのことである10
 
5 日本経済新聞「老朽化ビル、建て替え急ぐ、仙台市、企業誘致へ助成拡充、雇用創出や地方移転促進」(2020年11月7日)
6 NTT都市開発 「仙台市青葉区中央における新築工事着工および計画建物名称「アーバンネット仙台中央ビル」決定について。」(2022年3月18日)
7 国土交通省 「仙台駅東口地区に魅力や賑わいを創出する都市空間を形成~(仮称)ヨドバシ仙台第1ビル計画 整備事業を国土交通大臣が認定~」(2021年11月26日)
8 河北新報「「青葉通広場化」検討着手/仙台・あす協議会発足」(2021年5月31日)
9 河北新報「仙台駅西口のエデン、再開発は2024年以降に テナント契約延長」(2022年2月1日)
10 日本経済新聞 「東北経済特集―東北、力強く前へ、仙台駅前、再開発進む。」(2021年12月24日)
(2)仙台市の新規供給予定面積
仙台市におけるオフィスの新規供給は、2013年から2020年にかけて、年間5千坪を上回ることはなく、低水準の供給が続いた。2021年は、「JR仙台イーストゲートビル」等が竣工し、新規供給面積は9年ぶりに5千坪を上回った(図表-19)。

今後、仙台市では「せんだい都心再構築プロジェクト」を背景に複数の大規模開発が進行中で、2023年は、「アーバンネット仙台中央ビル」や「(仮称)ヨドバシ仙台第1ビル計画」等、大規模ビルが竣工し、新規供給は14年ぶりに1.5万坪を超える見通しである。
図表-19 仙台オフィスビル新規供給見通し
3-3. 賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2026年までの仙台のオフィス賃料を予測した(図表-20)。

仙台市では、人口の流入超過が継続しているものの、その勢いは鈍化している。また、生産年齢人口は減少基調で推移している。コロナ禍で悪化した東北地方の「企業の経営環境」と「雇用環境」は本格回復に至っていない。さらに、「在宅勤務」を採り入れた新たな働き方が情報通信業等を中心に定着しつつあり、仙台市のオフィス需要は今後しばらく力強さに欠けることが予想される。

一方、「せんだい都心再構築プロジェクト」を背景に複数の大規模開発が進行中であり、2023年以降、新規供給量は増加する見通しである。以上を鑑みると、仙台の空室率は上昇傾向で推移すると予測する。

仙台のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2021 年を100 とした場合、2026 年の賃料は「96」への下落を予想する。ただし、ピーク(2019年)対比で▲7%下落するものの、2018 年の賃料水準「94」を上回る水準であり、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。
図表-20 仙台のオフィス賃料見通し
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2022年06月28日「不動産投資レポート」)

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【「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2022年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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