2022年06月21日

医療機器の需給動向-生産、国内向け出荷、輸出入全てが年200億円超の医療機器は?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

文字サイズ

4輸入 : 人工関節、カテーテル、ステント、心臓ペースメーカ、コンタクトレンズなどが多い
つぎに輸入を見ていく。2020年の輸入金額上位10類別を示すと、次の表のとおりとなる。この10類別で、輸入全体の7割以上を占めている。

1位には、固定器具や人工股関節、人工膝関節などからなる整形用品が入っている。2位には、カテーテルなどの医療用嘴管及び体液誘導管。3位は、ステント、心臓ペースメーカなどの内臓機能代用器となっている。

4位以下には、コンタクトレンズなどの視力補正用レンズ、超音波画像診断装置(エコー)などの理学診療用器具、MRIなどの内臓機能検査用器具が続いている。

総じて、体内に埋め込んで使用するタイプの整形用品や内臓機能代用器などが上位を占めていることが特徴的となっている。
図表7. 輸入上位10類別
2020年の主な輸入内容を輸入先ごとに見ると、上位は、次の表のようになる。1位のアメリカが突出している。アメリカからはさまざまな類別で多額の輸入が行われており、日本の輸入先としてアメリカは重要な存在であることがわかる。2位のアイルランドには、世界大手のコンタクトレンズメーカーが製造拠点を設立しており輸入が多い。同国からは、内臓機能代用器や、医療用嘴管及び体液誘導管の輸入も多い。3位の中国からは、医療用嘴管及び体液誘導管や整形用品。4位のドイツからは整形用品の輸入が多い。
図表8. 医療機器の主な輸入先 (2020年)

4――医療機器(一般的名称)別の需給分類

4――医療機器(一般的名称)別の需給分類

前章で国内向け出荷、輸出、生産、輸入別にランキングをみていった。ただ、これだけだと各医療機器の需要と供給の関係はつかみづらい。そこで、金額が大きい医療機器を需給関係別に分類して見ていくことにしよう。

2020年に、国内向け出荷、輸出、生産、輸入のうち2項目以上が200億円以上であった医療機器(一般的名称)は36個あった。これらを分類してみる。
1生産→国内向け出荷型 : 安定的な生産が不可欠
大規模に生産して、大規模に国内向け出荷するというシンプルなパターンの医療機器は4つあった。特に、歯科鋳造用金銀パラジウム合金は、生産額、国内向け出荷額とも900億円超の多額となっている。レアメタル(希少金属)の一種であるパラジウムの市価の高騰も背景にあるものと考えられる。これらは、大きな国内需要を満たすために安定的な生産が不可欠な医療機器といえる。
図表9. 生産→国内向け出荷型
2生産+輸入→国内向け出荷型 : 安定した生産と輸入により、国内需要を満たすことが求められる
大規模な国内向け出荷に向けて、多額の生産と輸入を行っている医療機器は5つあった。特に、コンタクトレンズは、海外メーカーからの輸入の割合が高い。安定した生産と輸入により、国内需要を満たすことが求められる。
図表10. 生産+輸入→国内向け出荷型
3輸入→国内向け出荷型 : 輸入先の複線化など安定的な輸入を目指すことが必要
主に輸入に依存して、大規模な国内向け出荷を行っている医療機器は17個あった。人工股関節、固定器具、カテーテル、心臓ペースメーカなど、体内に埋め込んで使用するタイプの医療機器が多い。これらの医療機器は、輸入先の複線化など、国際情勢に左右されない安定的な輸入を目指すことが必要と考えられる。
図表11. 輸入→国内向け出荷型
4生産→輸出型 : 高品質を維持して、他国への輸出拡大を図るべき
大規模に生産して、大規模に輸出する医療機器は6つあった。分析装置や内視鏡が主なものであった。これらは、日本の戦略的な輸出製品の一部をなしているとみられる。高品質を維持して、他国への輸出拡大を図るべき医療機器といえるだろう。
図表12. 生産→輸出型
5生産→国内向け出荷+輸出型 : 安定生産による確実な供給が求められる
国内外の幅広い需要に応えるべく、大規模に生産される医療機器は3つあった。国内向け出荷と輸出がそれぞれ300億円超となっている。安定生産による確実な供給が求められる医療機器といえる。
図表13. 生産→国内向け出荷+輸出型
6生産+輸入→国内向け出荷+輸出型 : 生産と輸出のバランスをとりつつ、需要を満たすことが必要
生産、国内向け出荷、輸出入全てが年200億円超の医療機器は1つだけ、超音波画像診断装置(エコー)であった。体内の画像診断を手軽に行うことのできる医療機器として、国内外で需要が高く、それに生産と輸出の供給が応えているものといえる。今後も、生産と輸出のバランスをとりつつ、国内外の幅広い需要を満たしていくことが必要と考えられる。
図表14. 生産+輸入→国内向け出荷+輸出型

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

日本は、長らく高い素材技術を活かして、低侵襲のチューブやカテーテルなど、高品質の医療機器を生産してきた。また、解像度の高い画像診断装置や、高性能の測定機器などでも、強みを発揮してきた。

今後、医療機器は、AI(人工知能)を活用した高度化、IoT(モノのインターネット)による機器統合などが進み、さらなる発展が見込まれている。オープンイノベーションによる、メーカーとアカデミアの共同研究など、研究・開発体制の強化を通じて、医療機器の開発・生産体制を強化していくことが求められよう。

引き続き、医療機器の需給の動向に注目していくこととしたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年06月21日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【医療機器の需給動向-生産、国内向け出荷、輸出入全てが年200億円超の医療機器は?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

医療機器の需給動向-生産、国内向け出荷、輸出入全てが年200億円超の医療機器は?のレポート Topへ