2022年06月09日

ASEANの貿易統計(6月号)~4月の輸出は中国都市封鎖の影響を受けるも、欧米や東南アジアの需要回復で好調を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年4月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比20.7%増となり、伸びは前月(同21.1%増)から横ばいだった(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰を受けて増加傾向が続いている。今年1~2月はオミクロン株の感染拡大や半導体不足、中華圏の旧正月の影響などにより輸出の勢いが幾分鈍化したが、その後は世界的な需要回復や域内各国の活動制限緩和による生産活動の活発化、ロシアのウクライナ侵攻を背景とする商品市況の上昇により輸出が回復した。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、4月は中国の一部都市で行われた都市封鎖の影響が表れて、東アジア向け(中国を含む)が同15.1%増(前月:同16.9%増)と小幅に鈍化したものの、東南アジア向けが同26.4%増、北米向けが同23.5%増、EU向けが同25.9%増となり、それぞれ大幅な増加が続いた(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比25.2%増(前月:同16.7%増)の333億ドルとなり、引き続き好調だった(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いている。また輸入額は前年同月比16.1%増(前月:同13.9%増)の325億ドルとなり二桁増で推移した。結果として、貿易収支が8.5億ドルの黒字となり、前月から12.0億ドル悪化した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比52.0%増(前月:同42.4%増)、電気製品・同部品が同14.6%増(前月:同11.9%増)とそれぞれ伸びが加速した(図表4)。アパレル関連では、履物が同17.2%増(前月:同17.0%増)、織物・衣類が同27.5%増(前月:同11.9%増)と二桁増が続いた。農林水産物を見ると、水産物(同50.6%増)やコーヒー(同47.0%増)、天然ゴム(同28.3%増)が大幅に増加する一方、コメ(同34.4%減)と野菜(同19.1%減)が落ち込み、カシューナッツ(同0.2%増)が停滞するなど、品目毎にばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同24.5%増(前月:同17.4%増)、地場企業が同27.0%増(前月:同14.%増)となり、それぞれ二桁増で推移した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比9.9%(前月:同19.5%増)の235億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した2020年に急減した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比21.5%増(前月:同18.0%増)の254億ドルと好調だった。結果として、貿易収支が19.1億ドルの赤字となり、前月から33.7億ドル悪化した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同16.7%増(前月:同18.5%増)と伸びが小幅に鈍化したものの、14カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、これまで輸出を押し上げていた電子機器(同0.5%減)と家電製品(同2.5%増)は鈍化したが、金属・鉄鋼(同37.7%増)や石油化学製品(同17.6%増)や機械・装置(同8.0%増)、自動車・部品(同3.3%増)などの主要輸出品は増加した。このほか、鉱業・燃料は同54.3%増(前月:同32.9%増)と好調を維持、石油製品(同65.7%増)を中心に大幅な増加が続いた。農産物・同加工品は同14.0%増(前月:同14.2%増)と好調を維持した。ゴム製品(同13.4%減)とドリアン(同11.2%減)は減少したものの、コメ(同56.3%増)や加工食品(同37.5%増)、園芸産物(同50.6%増)が二桁増となるなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年4月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比16.6%増(前月:同22.6%増)の298億ドルと堅調に推移した(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比17.7%増(前月:同27.1%増)の243億ドルと、二桁成長が続いた。結果として、貿易収支が+55.2億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から8.3億ドル縮小した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同21.5%増(前月:同26.8%増)となり、主力の電気・電子製品(同22.7%増)を中心に7カ月連続の二桁増となった(図表8)。また鉱物性燃料は同12.4%増(前月:同99.7%増)と伸びが鈍化した。石油製品(同9.5%減)が減少したものの、天然ガス(同55.4%増)と原油(同58.8%増)が大幅に増加した。このほか、化学製品(同38.2%増)、動植物性油脂(同29.7%増)も二桁増が続いているが、ゴム手袋(同68.5%減)は昨年好調だった反動で減少が続いている。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比47.8%増(前月:同44.4%増)の273億ドルとなり、大幅な増加が続いた(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いている。22年1月は石炭の輸出禁止措置が実施されたが、その後の輸出再開により輸出の落ち込みは一時的なものにとどまった。また輸入額も前年同月比22.0%増(前月:同30.8%増)の197億ドルとなり、二桁成長を保った。結果として、貿易収支が+75.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から30.2億ドル拡大した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同47.7%増(前月:同43.8%増)、石油ガス輸出が同48.9%増(前月:同54.8%増)とそれぞれ好調に推移した(図表10)。品目別にみると、まず国際商品市況の高騰により鉱産物(同123.1%増)が大幅な増加が続いている。また鉄・鉄鋼(同79.1%増)や化学製品(同53.4%増)、電気機械(同22.6%増)、動植物性油脂(同20.4%増)、機械類(同10.7%増)、自動車・同部品(同7.5%増)も好調だった。一方、ゴム製品(同9.4%減)は前年に大幅に増加した反動で減少した。なお、インドネシア政府は4月28日から5月23日までの約1カ月間、パーム油の輸出を禁止したため、同禁輸措置の影響は5月の輸出の押下げ要因となりそうだ。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年4月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比3.9%増(前月:同6.4%増)の124億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いているが、増勢は弱まってきている。なお、総輸出額が同16.7%増(前月:同12.5%増)の442億ドル、総輸入額が同21.5%増(前月:同20.4%増)の411億ドルとなり、それぞれ増加した。結果として、貿易収支が+31.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から6.1億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同10.2%増(前月:同10.1%増)となり、20年12月から二桁増が続いている(図表12)。電子製品の内訳を見ると、ディスクメディア(同8.9%増)がプラスに転じたほか、主力のIC(同10.8%増)とPC(同11.0%増)と通信機器(同22.5%増)が好調を維持した。一方、全体の約3割を占める化学品は同1.9%減(前月:同3.1%増)と減少した。化学品の内訳を見ると、前月に大きく増加した医薬品(同8.2%減)が減少したほか、石油化学製品(同0.2%減)が停滞した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比6.0%増(前月:同5.9%増)の61億ドルと、概ね横ばいの伸びとなった(図表13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いているが、足元の輸出の勢いは緩やかなものとなっている。また輸入額は前年同月比22.8%増(前月:同27.8%増)の109億ドルと大幅な伸びを保った。結果として、貿易収支が▲47.7億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から2.3億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同0.8%増(前月:同8.1%増)となり、伸びが大きく鈍化した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同2.0%増)が小幅の増加にとどまったほか、電子データ処理機(同10.9%減)が落ち込んだ。その他9品目については、ココナッツオイル(同156.6%増)、金(同53.0%増)、その他鉱業品(同51.0%増)、製錬銅(同17.1%増)、生鮮バナナ(同9.0%増)、化学品(同3.5%増)がそれぞれ増加した一方、イグニッションワイヤーセット(同24.4%減)とその他製造品(同19.8%減)、機械・輸送用機器(同11.6%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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