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イギリスの不妊治療の現状とは?-イギリスの生産性は日本と比べて高く、特に35歳未満では13%ポイントの差-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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1――はじめに
尚、本稿は基礎研レター「不妊治療の現状とは?」における全3回のうちの第3回目にあたり、日本の現状は第1回、アメリカの現状は第2回を参照されたい。
1 乾愛(2022)基礎研レター「日本の不妊治療の現状とは?」2022年3月1日
2 乾愛(2022)基礎研レター「米国の不妊治療の現状とは?」2022年5月20日
2――イギリスの不妊治療に対する経済的支援

さらに、図表1の通り、CCGsごとの不妊治療の適用回数をイングランド・ウェールズ内だけでみると、適用されない地域(薄橙)もある中で、最大3回まで適用される地域(深緑)も存在する。
つまり、イギリスでは全国民に対し包括的な医療サービスが提供されているにも関わらず、実際の不妊治療に関する適用には地域による偏りが大きいと言える。
これらイギリスの特徴と比較すると、日本では不妊治療に対する医療保険の適用要件は一律決まっているため、受けられる治療内容や回数、さらには自己負担額の差異も生じないことが特徴と言えよう。
3 NHS website(2022), https://www.nhs.uk/conditions/social-care-and-support-guide/
4 NHS website(2022), https://www.england.nhs.uk/commissioning/who-commissions-nhs-services/ccgs/
5 Abcivf(2022), Can you get IVF on the NHS if you already have a child?,page, 10行目参照
3――総治療実績件数の年次推移(日英比較)

6 Human Fertilisation &Embryology Authority(2022)「Fertility treatment 2019」Fertility treatment 2019: trends and figures, UK statistics for IVF and DI treatment, storage, and donation,Published: May 2021.)
7 本稿で記す不妊治療実績件数とは、総治療周期数のことを示し、治療周期数とは、「月経開始から次の月経開始までを1周期ととらえ治療する回数のことを示す。含まれるデータは、体外受精・人工授精・胚移植等である。
8 人口比(人口千対)の算出は、(1995年及び2019年度の不妊治療実績件数 / 人口実績値 *1000
尚、治療実績件数は人数ではなく回数であるため、ひとりが複数回実績値を計上している可能性があるので、飽くまでも人口規模を考慮した際の参考値として取り扱うことに留意。
また、イギリスの人口は、World Poppulation Review,United Kingdom Populationより、1991年及び,2019年の総人口を用いた。https://worldpopulationreview.com/countries/united-kingdom-population 日本の人口は、国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料「表1-1総人口および人口増加」より1991年及び2019年の総人口実績値を用いた。
9 HEAF, State of the fertility sector 2020/21,In2020/21,103 clinics were licensed by the HFEA to provide fertility treatment. https://www.hfea.gov.uk/about-us/publications/research-and-data/state-of-the-fertility-sector-2020-2021/#:~:text=In%202020%2F21%2C%20there%20were,licensed%20to%20provide%20storage%20only.
10 尚、2020年(公表最新値)のイギリス国内における不妊治療提供クリニックの数は103か所と減少している。
4――年齢別生産率(日英比較)

全年齢を通じて、イギリスの生産率が日本と比べて高い要因として、精子提供や卵子提供が認められ12、代理出産13や死後生殖14、独身女性や同性愛者などの不妊治療が禁止されていないこと15があげられる。日本のように配偶者間での不妊治療を続けても、不妊要因が卵子や精子因子の場合は妊娠確率をあげることはできないが、卵子や精子のドナー提供があれば妊娠確率の上昇がをあげることが期待できる。
これらの幅広い治療方法が、特に妊娠効果が期待しやすい35歳未満における生産率の13%ptもの乖離を生み出しているものと推察される。日本では生命倫理や医療倫理の観点からドナー提供については認められていないが、諸外国との生産率の差異を生み出す要因については検証する必要があろう。
11 本稿における生産率とは、「総治療周期数」から「分娩(出産)」に至った割合を算出したものである。
12 GOV.UK,Legal rights for egg and sperm donors. https://www.gov.uk/legal-rights-for-egg-and-sperm-donors
13 GOV.UK, Surrogacy;legal rights of parents and surrogates. https://www.gov.uk/legal-rights-when-using-surrogates-and-donors,
14 死後生殖とは、生前に凍結保存された卵子や精子を用いて、生殖補助医療を施すことを示す。以下、イギリスの「Family & Low」参照、https://www.familyandlaw.eu/tijdschrift/fenr/2020/04/FENR-D-19-00008
15 NHS, Having a baby if you are LGBT+, https://www.nhs.uk/pregnancy/trying-for-a-baby/having-a-baby-if-you-are-lgbt-plus/
5――まとめ
これまでに、基礎研レター「不妊治療の現状とは?」全3回を通じて、米国やイギリスの不妊治療の現状を整理しながら、日本と比較してきたが、日本は不妊治療に対する経済的支援体制は充実しているものの、治療者の年齢構造が高いことにより治療の生産性が諸外国と比べ低くなっていることが浮き彫りになった。日本では、2022年4月に不妊治療に対する保険適用が開始されたばかりであるが、望む者が妊娠できるような不妊治療体制を整えるには、経済的支援体制のほかに、早期受療行動へのアプローチや企業の両立支援体制などの視点についても検討していく必要があろう。
(2022年06月06日「基礎研レター」)

03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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