2022年05月30日

文字サイズ

1. はじめに

福岡のオフィス市場では、景気悪化やテレワーク普及などを背景にオフィス需要が低迷するなか、昨年は過去最高水準の3万坪を超えるオフィスビルの新規供給があり、空室率は上昇基調で推移している。また、成約賃料は需給緩和で横ばいとなっている。本稿では、福岡のオフィス市況を概観した上で、2026年までの賃料予測を行う。

2. 福岡オフィス市場の現況

2. 福岡オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市のオフィスの空室率は、2020 年4 月の緊急事態宣言の発令以降、いずれの都市も上昇傾向で推移している。(図表-1)。

三幸エステートによると、福岡市の空室率(2022年4月時点)は3.8%(前年比+0.6%)となった。福岡市の空室率を規模1別にみると、「大規模2.6%(前年比+0.6%)」、「大型3.1%(同+0.7%)」、「中型6.9%(同∔1.5%)」、「小型7.0%(同▲1.3%)」となり「小型」を除く全ての規模で前年から上昇した(図表-2)。景気悪化やテレワーク普及などを受けてオフィス需要が弱含むなか、大規模ビルの竣工が相次ぎ、空室が増加している。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 福岡オフィスの規模別空室率
全国主要都市の成約賃料は、オフィスの解約や事業拠点の一部閉鎖などにより空室面積が増加し、賃料にも頭打ち感がみられる。福岡市の2021 年下期の成約賃料は、前期比+0.0%、前年同期比+0.7%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2021 年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、札幌市を除く全ての都市で空室率が上昇した。これに対して、成約賃料は概ね横ばいとなっている。福岡市についても、空室率が前年から上昇した一方で、賃料は前年と同水準となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクル2は、2012 年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020 年下期は「空室率上昇・賃料上昇」の局面へ移行し、「空室率上昇・賃料下落」局面に向かいつつある(図表-5)。
図表-4 2021年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 福岡オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、福岡ビジネス地区では、「天神ビジネスセンター」等、大型ビルが竣工したことに伴い、2021 年末の賃貸可能面積(総供給面積)は、71.0万坪(前年比+2.2万坪)に増加した。

2021 年末のテナントによる賃貸面積(総需要面積)は、67.8万坪(前年比+1.6万坪)となり、結果として、空室面積は3.2万坪(前年比+0.6万坪)となり、前年から+24%増加した(図表-6、図表-7)。
図表-6 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によると、2021年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは、「博多駅前地区(24.1%)」で、次いで「天神地区(22.3%)」、「博多駅東・駅南地区(16.1%)」、「祇園・呉服町地区(15.2%)」、「薬院・渡辺通地区(12.2%)」、「赤坂・大名地区(10.1%)」の順となっている(図表-8)。

2021年は、賃貸可能面積が全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体で+22.4千坪増加した。特に、新規供給のあった「博多駅前地区」(前年比+7.8千坪)と「天神地区」(同+7.5千坪)では大幅に増加した。

賃貸面積は、福岡ビジネス地区全体で+16.3千坪の増加に留まり、結果として、空室面積は+6.1千坪増加した。特に、「祇園・呉服町地区」(同+2.4千坪)等で空室の増加が目立つ(図表-9)。
図表-8 福岡ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2021年)/図表-9 福岡ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2021年)
エリア別の空室率(2022年4月時点)は、「祇園・呉服町地区」が6.3%(前年比+1.4%)、「天神地区」が5.6%(同+2.0%)、「博多駅前地区」が5.2%(同+0.2%)、「赤坂・大名地区」が4.9%(同+0.7%)と上昇したのに対して、「博多駅東・駅南地区」が4.5%(前年比▲1.2%)、「薬院・渡辺通地区」が2.5%(同▲0.7%)と前年から低下した(図表-10左図)。

一方、募集賃料は、「薬院・渡辺通地区」を除く全てのエリアにおいて上昇基調で推移しており、特に、「天神地区」(前年比+3.8%)の賃料が大きく上昇した(図表-10右図)。
図表-10 福岡ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 福岡オフィス市場の見通し

3. 福岡オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1) オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2021 年の福岡市の転入超過数は+7,158人となり、転入超過を維持したものの、前年から▲9%減少した(図表-11)。

また、2021 年の福岡県の就業者数は258.7万人(前年比▲0.3 万人)となり、10 年ぶりに減少に転じた(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 福岡県の就業者数
以下では、福岡のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「福岡財務支局」の管轄下3県(福岡県・佐賀県・長崎県)」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(福岡財務支局)は、2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら2021 年第4 四半期に「+17.9」まで回復したが、2022 年第1 四半期は「▲12.5」と再び悪化した(図表-13)。景況感の悪化幅は、全国平均と比べて、やや大きい傾向がみられる。

また、「従業員数判断BSI4」(福岡財務支局)は、人手不足を表わす「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。足もとでは「+21.0」まで回復したが、コロナ禍以前の水準には至っていない(図表-14)。

また、帝国データバンク「新型コロナウィルス感染症に対する九州企業の意識調査」(2021年12月)によれば、コロナウィルス感染症による業績への影響について、福岡県では「マイナスの影響がある」との回答が68.9%を占め、全国平均(66.6%)を上回った。福岡においても、コロナ禍が企業経営に与えたダメージは大きいと言える。

福岡市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、福岡県の就業者は、10 年ぶりに減少に転じた。また、コロナ禍が「企業の経営環境」に与えたダメージは、全国平均と比べて大きく、「雇用環境」は本格的な回復には至っていない。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数の拡大は力強さに欠けることが予想される。
図表-13 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-14 従業員数判断BSI(全産業)
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2022年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2022年)のレポート Topへ