2022年05月27日

2022年4~5月の自社株買い動向~発行済株式総数に対する割合と株価の関係~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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■自社株買いへの意欲は高い

2022年4~5月のTOPIX構成銘柄企業の自社株買い設定金額は4.2兆円(5月26日時点)だった。4~5月ではコロナ禍前の2019年度の約3.6兆円を超えた。
図表1 自社株買い設定額の推移
ちなみに、2022年4~5月の自社株買い設定件数は約220件だった。件数についても2019年度を超えた。

このように2022年度に入って自社株買いが増えている背景には、企業の業績に対する自信と自社の株価が割安との判断があると考えられる。
図表2 設定件数ベースも高い

■企業が自己株式の取得を行う理由は

■企業が自己株式の取得を行う理由は

図表3は、2022年4月1日から5月20日までの間に自社株買いを設定した企業について、自己株式の取得を行う理由を確認するため、各ワードに該当する企業数を集計した結果である。
図表3 自己株式の取得を行う理由
企業が公表している自己株式の取得を行う理由は、『株主還元』、『機動的な資本政策』、『資本効率の向上』が多かった。それ以外では、『譲渡制限付株式報酬制度の導入』もあった。そもそも譲渡制限付株式1とは、一定期間の譲渡(売却)が制限された株式を指し、2016年度税制改正以降、日本でも株式報酬の主流として導入が増加している。2022年4~5月に1994年以降で初めて自社株買いを設定した企業9社のうち5社は『譲渡制限付株式報酬制度の導入』が自己株式取得の理由であった。
 
1 SMBC日興証券「譲渡制限付株式(RS)」
https://www.smbcnikko.co.jp/corporate/welfare/restricted_stock/index.html

■発行済株式総数に対する割合と株価の関係は

■発行済株式総数に対する割合と株価の関係は

次に自社株買い設定企業の発表後翌日の株価を確認した。ただ、ひとえに自社株買いといっても、その取得規模は企業によってさまざまであり、それに伴って株価の反応も異なると考えられる。そこで自己株式取得予定株数の上限が発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合と株価の関係についても確認した。

図表4は2022年4月1日から5月20日までの間に自社株買いを設定した企業について発行済株式総数に対する割合を集計したものである。自社株買い設定件数全体のうち約8割は、発行済株式総数に対する割合が5%以下であったが、10%を超える設定も5件あった。
図表4 発行済株式総数に対する割合の分布
図表5は、横軸に発行済株式総数に対する割合、縦軸に決議日翌日の対TOPIX超過収益率をとった分布である。ただし、ヤマダホールディングスの自社株買いは発行済株式総数に対する割合が23.9%と極端に高く分布に与える影響が大きかったため、ヤマダホールディングスを含んだグラフ(左)と除外したグラフ(右)を作成したうえで、検証した。
図表5 発行済株式総数に対する割合と翌日の対TOPIX超過収益率
自社株買い決議の翌営業日にTOPIXを上回った企業は全体の65%もあり、全体の平均超過リターンは+2%であった。また、発行済株式総数に対する自社株買いの割合が大きいほど、株価騰落率が大きくなる傾向が見られた。

ほとんどの企業は決算発表日に自社株買いの設定も発表するため、同時に発表される業績や業績予想に左右される面もある。それでもこの結果から判断すると、自社株買いの設定によるアナウンスメント効果が今年度においてもあり、発行済株式総数に対する割合が高い企業ほど投資家から好感されたと言うことができる。
 
このように、自社株買い設定企業については、業績への自信や自社の株価が割安であるとのアナウンスメント効果から、従来通り市場からはおおむねポジティブに評価されていることが確認できた。また、発行済株式総数に対する割合が高い企業はポジティブサプライズとして翌営業日の株価が大きく上昇しており、投資家から資本効率の向上や株主還元の姿勢が評価されたと考えられる。ただし、自社株買いといった資本政策だけでは、市場の注目や株価の上昇は一時的なもので終わってしまう可能性もある。本来は資本政策よりも、主要事業における中長期的な成長戦略や新規事業が重要であり、それに向けての具体的なステップを投資家に示すことが各企業に求められているのではないだろうか。中長期的な株価への影響も含めて企業の各種発表に引き続き注目していきたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2022年05月27日「基礎研レター」)

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