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官民連携の新たな仕組み「ソーシャルインパクトボンド」とは

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志
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1――官民連携の新たな仕組み「ソーシャルインパクトボンド」
SIBは、2010年に英国で導入されて以来、米国、豪州をはじめ多くの国で「就労支援」、「医療・健康」、「再犯防止」、「生活困窮者支援」といった分野での社会課題の改善に活用されている。日本でも、2015年に複数のパイロットプロジェクトが行われて以来、自治体での活用が広がっている。本稿では、SIBの概要について説明したい。
SIBの一般的な流れは(1)行政と中間支援組織が取り組み対象とする社会課題を選定し、事業の評価指標や資金提供者への支払の条件を策定、(2)中間支援組織が民間などからの資金提供を募集、(3)調達した資金を用いてサービス提供者がサービスを実施、(4)第三者評価機関が(1)の評価指標などに基づいてサービスを評価、(5)(1)の条件に基づいて資金提供者にリターンが支払われる(図表1)。なお、SIBは、一般的な債券が持つ「元本保証」や「市場での流動性」はなく、債券とは異なる官民連携の仕組みである。SIBでは、民間の評価や知見を公共事業に導入することで効率化、公共支出を削減することが促される(図表2)。
2――SIBの特徴と課題
これに対して、SIBでは民間の資金提供者が事業リスク(成果目標未達リスク)を負担する。このため、SIBはPFSと比較してサービス提供者の経済的リスクが小さく、参入可能な事業者も多くなる。ただし、SIBの資金提供者は事業リスクを負うため、資金提供にあたって事業のリスクやサービス提供者の能力や信用力、成果目標達成の見通しを厳しく評価することが必要となる。
このような仕組みによってSIBでは、民間の資金提供者が公共事業の評価や効率化に寄与することが促される。
3――国内でのSIBの推進の取り組み
こうしたSIBの普及に向けた取り組みが推進される中、自治体においてもSIBを活用した様々な取り組みが実施されている(図表4) 。
4――SIBの今後の課題
国内でもSIBの認知度は向上しつつあるものの、具体的に各自治体が抱えるどのような課題に適用できるのかイメージできない場合も多い。また、SIBに適した課題を見つけた場合でも事業インパクトの評価指標の設定など具体的なスキームの構築にはSIBに関する知見が必要となる。このことから、自治体が単独でSIBを実施することは難しく、共通的ガイドラインの作成など政府による支援の充実が求められる。
また、SIBの実施にはスキームの組成や事業インパクトの評価などに事務負担やコストが生じる。このことからSIBの活用には、こうしたコストに見合う規模の契約金額や事業インパクトがあることが望ましい。しかし、現状では国内での活用事例において、その契約金額は比較的小規模にとどまっているものが多く、より大きなインパクトを得られる規模での実施が求められる。こうした課題を解決し、社会や環境の改善に向けたSIBの活用の進展を期待したい。
【参考文献】
G8インパクト投資タスクフォース国内諮問委員会、「日本における社会的インパクト投資の現状2016」、2016年9月29日
塚本一郎/金子郁容編著「ソーシャルインパクト・ボンドとは何か」、2016年11月30日
内閣府、「経済財政運営と改革の基本方針2021」、2021年6月18日
内閣府、「PFSの推進に関するアクションプラン」、2020年3月27日
内閣府、「成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト PFS事業事例集」
https://www8.cao.go.jp/pfs/jirei.html
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年05月25日「基礎研レター」)

03-3512-1860
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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