2022年05月13日

東京オフィス市場は賃料下落が継続。住宅価格はさらに上昇-不動産クォータリー・レビュー2022年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、住居タイプによって違いがみられるものの、全体では弱含みで推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2021年第4四半期は前年比でシングルタイプが▲1.6%、コンパクトタイプが▲1.9%、ファミリータイプが+2.4%となった(図表-11)。住宅系REITの運用実績をみても、稼働率の低下に対応してシングルタイプの募集賃料を調整した結果、テナント入れ替え時の賃料変動率は2020年下期をピークに鈍化し、一部のREITではマイナスに転じている(図表-12)。
図表-11 東京23区のマンション賃料
図表-12 主要住宅系REIT(5社)のテナント入れ替え時における賃料変動率
一方、総務省によると、東京23区の転入超過数(2022年1-3月累計)は+26,336人となり、2021年対比で1.7倍、2020年対比で7割の水準まで回復した(図表-13)。昨年は長引くコロナ禍のもと転出超過(▲14,828人)に転じたが、転入超過の傾向が定着するか注目される。
図表-13 東京23区の転入超過数(各年の月次累計値、2019年1月~2022年3月)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、前期に続いて持ち直しの動きとなっている。商業動態統計などによると、2022年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+6.2%、スーパーが▲0.1%、コンビニエンスストアが+1.1%となった(図表-14)。今後についても消費回復が期待されるものの、長期的には、コロナ禍で生じた消費行動の変容のほか、少子高齢化の進行やEコマース市場の拡大、可処分所得の増減の影響を注視する必要がある6
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテル市場は、昨年12月に日本人の宿泊需要が2019年水準を回復したが、年明け以降、コロナ第6波の影響により再び苦戦を強いられている。宿泊旅行統計調査によると、2022年1-3月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲38.1%減少し、このうち外国人が▲97.3%、日本人が▲22.9%となった(図表-15)。また、STR社によると、3月のホテルRevPARは2019年対比で全国が▲52%(21年3月▲68%)、東京が▲64%(同▲79%)、大阪が▲60%(同▲74%)と低迷している。
図表-15 延べ宿泊者数の推移(2019年同月対比、2020年1月~2022年3月)
物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに新規供給の影響を受けて空室率が上昇した。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2022年3月末)は前期比+2.1%上昇し4.4%となった(図表-16)。今期は新規供給が四半期ベースで過去最大の26万坪であったのに対して、需要が過去3年平均並みの15万坪にとどまった。今後については、空室率は一旦下がると見込まれるが、引き続きの大量供給により需給緩和の基調に変わりはないとのことである。近畿圏についても空室率は2.1%(前期比+0.9%)に上昇した。しかし、既存物件(築1年以上)の空室率は0.7%と低く、需給環境はタイトである。

また、一五不動産情報サービスによると、2022年1月の東京圏の募集賃料は4,620円/月坪(前期比+0.9%)となり、緩やかな上昇が続いている7
図表-16 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
6 佐久間誠『商業施設売上高の長期予測(2)~少子高齢化・EC市場拡大・コロナ禍による消費行動の変容が商業施設売上高に及ぼす影響』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年4月22日)
7 J-REITが所有する物流施設も賃料の増額改定が続いている。GLP投資法人(2022年2月期)の賃料上昇率(改定対象面積全体)は+5.3%、日本プロロジスリート投資法人(2021年11月期)の改定賃料変動率は+2.6%であった。

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2022年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、昨年末比▲3.1%下落した。セクター別では、オフィスが▲0.5%、住宅が▲5.2%、商業・物流等が▲5.0%下落した(図表-17)。コロナ第6波や米国金利上昇、ロシアによるウクライナ侵攻など外部環境の悪化を受けて一時大きく下落したものの、期末にかけて下落幅を縮小した。3月末時点のバリュエーションは、純資産11.2兆円に保有物件の含み益4.4兆円を加えた15.6兆円に対して時価総額は16.6兆円でNAV倍率8は1.06倍、分配金利回りは3.7%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.5%となっている。
図表-17 東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
Jリートによる第1四半期の物件取得額は3,602億円(前年同期比▲19%)となった(図表-18)。アセットタイプ別では、オフィス(42%)・物流施設(34%)・住宅(18%)・商業施設(3%)・底地ほか(3%)、ホテル(0%)の順に多く、引き続き、オフィスは物件入れ替えに伴う取得、物流施設はスポンサーからの取得が目立っている。
図表-18 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
J-REIT市場は急激な外部環境の悪化により下落したものの、海外からの資金流入が下値を支えている。東京証券取引所のデータによると、外国人の買い越し額は1-3月累計で950億円となった。こうした外国人買いの要因の1つに、J-REIT市場の厚いイールドスプレッドが挙げられる。例えば、米国REIT市場をみると、FRBの利上げにより10年金利が2.3%に上昇するなか、3月末時点のイールドスプレッドは昨年末の1.2%から0.7%に縮小した(図表19)。これに対して、J-REIT市場のイールドスプレッドは3.5%と高い水準を維持している。この結果、両市場のイールドスプレッドの格差は2.8%に拡大し、J-REIT市場の相対的な魅力度が増している。海外投資家は、日本の低金利を背景とした分厚いイールドスプレッドを評価し、J-REITだけではなく現物不動産への投資も積極化しており、不動産価格の上昇を牽引していると言えそうだ。
図表-19 日米のREIT利回り、10年金利、イールドスプレッド(3月末時点)
 
8 NAV倍率は、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2022年05月13日「不動産投資レポート」)

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