2022年05月11日

ロシア経済悪化の他国・地域への影響 

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.302]

経済研究部 准主任研究員   高山 武士

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1―はじめに

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、西側諸国が経済・金融制裁を課したことでロシア経済の悪化が想定される。また、その反作用として西側諸国自身が受ける影響もあると見られる。

本稿では、国際産業連関表を用いてロシアとその他の国々の経済的なつながりを把握することで、世界の各国・地域におけるロシア経済低迷の反作用がどの程度ありそうかを定量的に把握する。

なお、分析はOECDの公表する2018年の産業連関構造を前提としているが、実際には経済・金融制裁によってサプライチェーンが再構築され、産業連関構造は大幅に変化すると見られる。また需給バランスの崩れからインフレを通じて各国の産業に幅広い影響が及ぶことも想定される。そのため、本稿の分析結果がそのまま影響度の違いとして顕在化するとは言えないものの、経済への影響を見る上でのヒントになるものと考えている。

2―付加価値でみた地域間の取引

本稿では国際産業連関表を用いて以下の2種類の構造を調査する。

ひとつは、「(1)ロシアで供給されるモノ・サービスがどの国・地域で使われているか」、次が「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」である。

(1)はロシアからの輸入、(2)はロシアへの輸出に類似した概念だが、本稿では付加価値(最終需要)に着目しており、端的には、付加価値ベースで見た際の「ロシア産商品の消費地((1))」と「ロシアで消費される商品の原産地((2))」のようなものである。
1|ロシアの付加価値の供給先(川下への影響)
(1)については図表1のような関係にある。ロシアが生み出す付加価値1兆5920億ドルのうち、3710億ドル(23.2%)が海外で消費や投資に使われている。さらにそのうちの41.6%にあたる1540億ドルがユーロ圏を中心とする欧州の最終需要であり、欧州との結びつきが深いことが分かる。それ以外では中国が670億ドルと大きい。また、ロシアではエネルギーに関する付加価値を多く供給している点も特徴である。
[図表1]ロシアの付加価値の供給先
ロシアの供給が滞るとユーロ圏を中心にその分の需要ができなくなる。図表1では金額ベースでの大まかな影響が把握できる。また、各国・地域の経済規模(最終需要)と比較してどの程度の影響度合いかをみたものが図表2となる。

この図表からは、経済規模対比でチェコやトルコ(本稿では欧州として分類)といった国への影響が大きいことが分かる。次いでイタリアやドイツといったユーロ圏の国々や韓国が影響度では上位に位置する。一方、米国やオーストラリアの影響度は主要国のなかでもかなり小さいと言える。なお、図表2ではロシアの産業別の付加価値を示している。ロシアが世界でも主要なエネルギー供給先ということもあり、鉱業による付加価値が多く輸出されていることも読み取れる。
[図表2]ロシアの供給減による各国・地域への影響度(ロシアのモノ・サービスがどこで需要されているか)
2|ロシアの最終需要の付加価値構造(川上への影響)
次に、(2)については図表3のような関係にある。ロシアの最終需要1兆4290億ドルのうち、3010億ドル(21.1%)が海外の付加価値で構成されている。さらにそのうちの42.8%にあたる1290億ドルがユーロ圏を中心とする欧州の付加価値であり、こちらもデータからも欧州との結びつきが深いことが分かる。中国が470億ドルと大きいことも同じである。なお、米国については若干ではあるが、(1)の結びつきより(2)の結びつきの方が大きい。これは米国が生産のための原材料をあまりロシアに依存していない一方、ロシア向けのモノ・サービスを多く提供していることを示唆している。例えば、ロシアで販売されるアップルのスマートフォンやパソコン、あるいはロシアで利用できるビザやマスターカードといった決済サービスの付加価値の一部が米国産であることなどはイメージしやすい。そして、これらの企業はいずれも、ロシアのウクライナ侵攻を受けてモノ・サービスのロシアでの提供を停止している。
[図表3]ロシアの最終需要の付加価値構造
また、各国・地域の経済規模(付加価値)比でみた影響度合いは図表4のようになる。経済規模比でみた影響度合いの大きさは、(1)でみた図表2で見た影響度合いと類似していることが分かる。
[図表4]ロシアの需要減による各国・地域への影響度(ロシアのモノ・サービスはどこで生産されているか)

3―影響度合いの評価

前節で見たように、(1)も(2)も特に欧州との結びつきが強いことが分かった。

ここで改めて、図表2の数値の意味を考えて見る。これは「ロシアからの供給が完全にとまった際、各国・地域でのどれだけのモノ・サービスが利用できなくなるか(最終需要がどれだけ減るか)を示している」と解釈できる。例えば、ユーロ圏では経済規模対比で0.71%の最終需要が減ることになる。今回の経済・金融制裁でロシアの供給が完全にとまることは考えにくいが、仮にロシアの全産業で一律に10%の供給が止まったとすると、ロシアからの供給量が10分の1に減るため、例えばユーロ圏では経済対比0.071%の最終需要が減る、と解釈できることになる。

ただし、「反作用」の定量評価としては過小評価である可能性が高い点に留意する必要がある。

例えば、マクロ経済理論では負の供給ショックは物価上昇と生産量の減少をもたらすとされるが、今回はそうした影響を分析したわけではなく、2018年の経済構造(各国間の産業のつながり)を調べているにすぎない。金融取引(国際与信、対外直接投資など)が減少することによる影響も加味されていない。

他にも、コロナショックで明らかになったように、電線(ワイヤーハーネス)や半導体などの部品不足が自動車などの川下の最終財生産を止めてしまうことがある。自動車の価格(付加価値)から見れば不足部品の価格(付加価値)はごくわずかだが、途中の生産工程が止まり最終需要は急減しうる。つまり、供給不足の影響は川上の影響より川下の影響が大きくなっている可能性が指摘できる。

なお、最後の影響については、例えば供給網の上流に位置するほど下流の最終消費への影響度が増すとして、ウエイトを付けて計算してみることができる[図表5]。ウエイトの付け方を変えれば影響度合いも変わるが、いずれにせよ欧州経済への影響は他国・地域よりも大きいことが示唆される。
[図表5]ロシアの供給減による各国・地域への影響度(上流度を加味した試算)
以上、ロシア経済の鈍化による他国・地域への影響を見てきた。図表5からは影響度は欧州や韓国、中国で大きいことが分かる。端的にはこれらの国がロシアからエネルギー供給を大きく受けていることを反映していると言える。

ただし、冒頭で触れた通り、経済・金融制裁によって産業連関構造が大きく変化し、例えば制裁国である西側諸国とのつながりは縮小する一方で、それ以外の地域、例えば中国などとのつながりはむしろ拡大する(ロシアからの供給が増える)といった変化が想定される点には留意する必要があるだろう。
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経済研究部   准主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2022年05月11日「基礎研マンスリー」)

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【ロシア経済悪化の他国・地域への影響 】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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