コラム
2022年04月22日

モビリティと脱炭素

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   坊 美生子

デジタルトランスフォーメーション(DX) 高齢化問題(全般) などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

国内外の大手自動車メーカーが、EV市場への投資を拡大している。異業種からの参入も相次ぐ。世界的な脱炭素の流れに対応する動きだが、都心を除いてすっかり自動車社会となった日本で、ガソリン車がEVに姿を変えれば、自動車由来の脱炭素が進むのかというと、そうではない。日本では、発電電力量の8割近くを、CO2排出量が多い火力発電が担っている1,2。EVシフトと同時並行して、再生可能エネルギーの導入を増やし、自動車の製造から処分までのライフサイクル全体で省エネを進めること等が必要とされている。それと同時に、従来のガソリン車についても、ユーザーには省エネに努めることが期待されている。燃費に気を配ることは勿論だが、オーナーが事業者の場合は、使い方をより効率化することによって、CO2排出量を抑制することができる。
 
ガソリン車の使用を効率化してCO2排出量を抑制するためには、どんな方法があるだろうか。オーナーが個人であれば、最もオーソドックスな方法は、従来から多くの市町村が呼びかけているように、「自家用車ではなく公共交通手段を利用すること」であろう。政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」に合わせて、「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」表明した東京都や横浜市、京都市などの計画を見ても、その方法として、漏れなく公共交通の利用促進が掲げられている。しかし実際には、新型コロナウイルスの感染拡大以降、他人との相乗りへの不安から、電車やバスの利用は減少し、寧ろ自家用車の利用が増え続けている3。個人のライフスタイルを変えることによって省エネを進めようとするのは、簡単ではない。
 
しかし、オーナーが事業者の場合には、見直しの余地がまだ残されているだろう。実は、介護業界において、移送の効率化を目指すユニークな取組が始まっている。群馬県高崎市を中心に、デイサービス施設を11か所運営する「株式会社エムダブルエス日高」の事例である。要支援や要介護の高齢者が通うデイサービス施設は、専用のワゴン車などで利用者の送迎をしているところが多いが、同社は規模が大きいため、所有車両は180台に上るという。

朝になると、それぞれの事業所から送迎車両が出動し、市内を細かく走り回る。交差点の信号待ちで会い、運転者同士、目が合って挨拶する。見ると、互いの車両のシートに空きがある。「もっと送迎業務を統合していった方が良いのでは」という意見が社内でまとまったことから、配車計画をデジタル化し、利用者が予約すると、あらかじめ割り振られた車両ではなく、その時、最も近くを走っている車両が迎えに行くオンデマンド送迎のシステム「福祉Mover」を開発した4
 
同社の場合は、移送の効率化を起点に、様々な業務改善効果が現れた。送迎車両の配車計画の作成は、業務が煩雑なため、それまでは作業が属人化して長時間残業のもとになっていたが、デジタル化によって所要時間は激減した。また、システムに走行ナビゲーション機能を組み込み、タブレット端末を車両に備え付けたことにより、担当スタッフが急に休んでも、替わりのスタッフがスムーズに利用者の自宅に迎えに行けるようになった。利用者ごとに異なる介助の情報を予め入力しておくことにより、送迎業務自体を外部委託できる態勢が整った。さらに、オンデマンド送迎の仕組みを活用して、利用者が施設に通所しない日にも、希望があれば、通院や買物にも送迎できる仕組みを構築した。まさに、移送の省エネから、事業全般のコスト削減、地域貢献へとつなげている例である。
 
1法人のみの取組では、CO2排出量の削減効果は小さいと思われるかもしれない。しかし、このような課題と解決方法自体は、他の法人や、他の業態にも共通するのではないだろうか。

厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、デイサービス施設は全国に約2万5,000箇所ある。同じ地域で複数のデイサービス施設が開所し、朝になると様々な送迎車両が走り回っているというところも多いだろう。事業者が独自に送迎を行うためには、それぞれが駐車場や車両を所有、管理しなければならず、維持コストもかかる。更に人手不足であっても、送迎に人員を割かなければならない。また、筆者が介護業界の関係者と話をしていると、介護職員の中には運転が不得意な人もいると聞く。同じ地域で介護事業所同士が協力し、送迎業務を統合すれば、コストや人手を省ける上に、環境負荷も減るはずだ。
 
このような話は、介護業界に限らない。学習塾やスポーツ施設、観光・宿泊施設など、自前で送迎サービスを行っている業態は案外多い。送迎の仕組みや事業所の配置等によっては、送迎業務を統合できるところもあるかもしれない。さらに、エムダブルエス日高のように、地域の子どもや高齢者を同乗させることができれば、移動支援という方法で大きな地域貢献ができるだろう。
 
実は、輸送の統合自体は、運輸業界では既に行われている。運輸部門は、国内のCO2排出量に占める割合が全体の約2割に上り、加えてドライバー不足も深刻化しているためである5。特に先行しているのが、貨物である。2016年施行の改正物流総合効率化法は、環境負荷低減や労働力確保を目的に、2社以上で輸送等を行い、効率化することを促進している。これにより、例えば貨物大手のヤマト運輸と佐川急便が、環境規制の厳しい長野県松本市安曇上高地で共同配送を行っている例がある6。また、異業種同士が連携して共同配送に取り組む例も出てきている7
 
旅客運送でも、輸送の統合が始まっている。2020年に公布された独占禁止法の特例法は、複数の乗合バス事業者に共同経営を認めるものである。施行後、各地で、競合していたバス会社同士が共同運行する取組が始まっている。こちらは、バス事業者の経営基盤強化が主目的であるが、輸送を束ねて非効率な運行を減らすという意味では、改正物流総合効率化法の延長線上にあり、結果的にCO2排出量削減につながるものである。
 
今後、さらに輸送を束ねる余地があるとすれば、人とモノを一緒に運ぶ「貨客混載」を拡充することではないだろうか。コロナ禍で公共交通は乗客が減ったため、コスト削減のために貨客混載を始める例が増えた8。現在は、貨客混載が認められているのは過疎地だけだが、脱炭素化を進めるためにも、今後はもう一歩、緩和が期待される。
 
このように、モビリティの領域で、脱炭素に向けた取組をさらに前進させる鍵は、「垣根を越える」ことにあると言える。法人の垣根、業種の垣根、貨物と旅客の垣根などである。

特に非運送業の企業にとっては、客の送迎や商品の配達は「必然的に発生する業務」と捉えられ、業務改善の盲点となってきたケースもあるかもしれない。脱炭素の流れを機に、自社でそれらを見直したり、他社と連携したりすることによって、業務改善にもつながり、次のステップに発展する可能性もある。移動の効率化を起点に、脱炭素を目指す取組が、深刻化する人手不足を改善し、将来的には環境面以外でも地域貢献につながっていくことを期待したい。
 
1 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(2020年度)」によると、電源構成は再生エネルギー19.8%、原子力3.9%、火力(バイオマスを除く)76.3%である。
2 同「エネルギー白書2021」によると、電源別のCO2排出量(燃料の燃焼と設備・運用を含むライフサイクル全体)は、石炭火力は太陽光(住宅用)の25倍、石油火力は19倍に上る。
3 坊美生子(2022)「コロナ禍からの『移動』の再生について考える~不特定多数の大量輸送から、特定少数の移動サービスへ~」(基礎研レポート、2022年3月31日)
4 開発と運用は、株式会社エムダブルエス日高と同じグループの一般社団法人ソーシャルアクション機構(群馬県高崎市)が行っている。
5 環境省によると、2020年度の部門別のCO2排出量(電気・熱配分前、速報値)は、エネルギー転換部門40.4%、産業部門24.1%、運輸部門17%、業務その他部門5.8%、家庭部門5.3%など。
6 ヤマト運輸株式会社、佐川急便株式会社プレスリリース「ヤマト運輸と佐川急便が4月16日から上高地地域で共同配送をスタート~長野県初の物流総合効率化法認定事業に~」(2020年4月10日)
7 「グリーン物流パートナーシップ」ホームページによると、例えばNEXT Logistics Japan株式会社やアサヒグループジャパン株式会社など、業種の異なる荷主や物流事業者16社が輸送を統合し、輸送効率向上につなげた事例などがある。
8 JR各社と佐川急便が連携し、新幹線の余剰スペースで生鮮食品や荷物を輸送する取組などが行われている。
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
ジェロントロジー、交通政策・移動サービス、労働

(2022年04月22日「研究員の眼」)

アクセスランキング

レポート紹介

【モビリティと脱炭素】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

モビリティと脱炭素のレポート Topへ