2022年04月04日

商業施設売上高の長期予測(1)-コロナ禍で進んだ「コト消費からモノ消費へのシフト」と「ECシフトの加速」

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1――コロナ禍による消費行動の変容は続く

新型コロナウイルス感染拡大により、日本の小売業販売額は大きく落ち込んだが、足もとではコロナ以前の水準を回復しつつある。コロナ禍における小売業販売額(2018年同月比)1を確認すると、緊急事態宣言が初めて発令された2020年4月に▲13.7%、5月に▲10.5%となり、2ケタの大幅減少を記録した(図表1)。その後は、新規陽性者数の増減や政府の感染拡大防止策にあわせて、多少の振れ幅が見られるものの、▲2.0%前後の減少率で推移した。そして、2022年1月には2018年対比で+0.0%となり、コロナ禍の落ち着きにより一時的にプラスとなった2021年3月(+0.1%)以来の水準を回復した。
図表1:小売業販売額(2018年同月比)と新規陽性者数の推移
このように、コロナ禍から2年が経過し小売販売額は以前の水準に戻りつつあるが、コロナ禍を契機とした消費行動の変容は続いている。具体的には、消費構造の変化として「コト消費からモノ消費へのシフト」、消費チャネルの変化として「EC(電子商取引)シフトの加速」を指摘することができる。そして、これらの変化は、アフターコロナにおいて、元に戻るものと、元には戻らない不可逆的なものが含まれており、今後の商業施設の売上高に大きな影響を及ぼすことが予想される。

そこで以下では、まず、コロナ禍における「コト消費からモノ消費へのシフト」、並びに「ECシフトの加速」について確認する。続いて、次稿では、本稿の考察をベースに今後の商業施設売上高をシミュレーションしたい。
 
1 2019年は消費税増税による駆け込み需要と反動減の影響があるため、2018年同月比とした。

2――消費構造の変化

2――消費構造の変化:コト消費からモノ消費へのシフトが進む

コロナ禍における消費構造の変化の1つに、「コト消費からモノ消費へのシフト」が挙げられる。総務省の「家計調査」によると、消費支出に占める財消費の割合は2019年の57.6%から2020年の61.3%へ+3.7%ポイント上昇した(図表2)2,3。2021年は60.3%(前年比▲1.0%ポイント)に低下したものの、コロナ以前と比べて高い水準である。
図表2:消費支出に占める財消費の割合
 
2 消費支出はこづかい、交際費、仕送り金を除く。
3 二人以上の世帯。また、本稿では特段の断りがない限り、二人以上を対象とする。
1|品目別にみた消費支出額: 一部のモノ消費では反動減
「コト消費からモノ消費へのシフト」は多くの品目で続いているが、一部のモノ消費では反動減も見られる。消費支出額を品目別に確認すると、コト消費は「旅行関連サービス」が2020年に前年比▲64.9%、2021年に▲9.6%、「外食」が2020年に▲24.7%、2021年に▲2.2%と、低迷が続く(図表3)。一方、「外食」の代替先としてモノ消費の「食料」が増加し、2020年に+6.9%、2021年に▲0.7%となった。また、在宅勤務の普及などにより自宅での滞在時間が増加したことで支出額を伸ばした「家電」は2020年に+11.7%、2021年に▲3.9%、「家具・寝具」は2020年に+7.7%、2021年に▲9.6%となった。こうした在宅環境改善のための耐久財消費への支出は2020年で概ね一巡したと言える。
図表3:品目別のモノ・コト消費額変化率(前年比)
|年齢別にみた消費支出額: コト消費への回帰の動きも
2021年に入っても、高年層では「コト消費からモノ消費へのシフト」が続いているものの、若年層と中年層ではモノ消費からコト消費へ回帰する動きがみられる。年齢別にモノ消費割合の推移を確認すると、「65~69歳」が2019年の63.3%から2020年に69.3%に上昇し、2021年でも69.2%と高水準を維持するなど、65歳以上の高年層では、2020年に上昇した後も高止まりしている(図表4)4,5。これに対して、「34歳以下」のモノ消費割合は2019年に63.8%、2020年に69.5%と上昇したものの、2021年に67.7%とやや低下するなど、64歳以下の若年層・中年層では、2020年に上昇したモノ消費割合が2021年には低下している。
図表4:年齢別にみたモノ消費割合の推移(2019年~2021年)
このように、コロナ禍では「コト消費からモノ消費へのシフト」が進展したが、その変化の内容は全ての年齢層で一律ではない。2020年のコト消費とモノ消費の増減率をみると、「34歳以下」ではコト消費が▲13.9%、モノ消費が+11.3%となったように、若年層・中年層はコト消費をモノ消費で代替したことが分かる(図表5)。一方、「85歳以上」(コト消費▲23.7%、モノ消費▲3.2%)はいずれの消費も減少しているように、高年層はコト消費の大幅減少が結果的にモノ消費割合の上昇をもたらした。
図表5:年齢別にみたモノ消費とコト消費の増減率(2020年、前年比)
また、2021年に入り、若年層・中年層では、「コト消費からモノ消費へのシフト」を巻き戻す動きがみられる。例えば、「34歳以下」(コト消費+6.1%、モノ消費▲2.3%)や「35~39歳」(コト消費+3.4%、モノ消費▲3.8%)では、モノ消費からコト消費への回帰が進んでいる(図表6)。これに対して、65歳以上の高年層では、「80~84歳」を除いて、モノ消費とコト消費をともに減らす動きが続いている。
図表6:年齢別にみたモノ消費とコト消費の増減率(2021年、前年比)
 
4 モノ消費割合は、消費支出を品目ごとにモノ消費とコト消費に分類することで計算した。
5 世帯主の年齢。また、本稿では特段の断りがない限り、「年齢別」は世帯主の年齢別を指す。

(2022年04月04日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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