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- 「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2022年)
2022年03月30日
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3. 大阪オフィス市場の見通し
以下では、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI4」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した(図表-13)。その後、回復と悪化を繰り返しながら、2021年第4四半期に「+8.4」まで回復したが、2022年第1四半期は「▲5.1」と再び悪化した。また、「非製造業の従業員数判断BSI5」(近畿地方)は、「+25.8」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下したものの、足もとでは「+13.7」まで回復している(図表-14)。しかし、「全国平均」の動きと比較した場合、近畿地方のコロナ禍からの回復ペースは鈍い傾向にある。
大阪市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、大阪府の就業者数は8年ぶりに減少に転じた。また、近畿地方の「企業の経営環境」は本格的な回復には至っておらず、コロナ禍が「雇用環境」に与えたダメージは全国平均と比べて大きいと言える。以上のことを鑑みると、大阪市のオフィスワーカー数の拡大は力強さに欠けることが予想される。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI4」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した(図表-13)。その後、回復と悪化を繰り返しながら、2021年第4四半期に「+8.4」まで回復したが、2022年第1四半期は「▲5.1」と再び悪化した。また、「非製造業の従業員数判断BSI5」(近畿地方)は、「+25.8」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下したものの、足もとでは「+13.7」まで回復している(図表-14)。しかし、「全国平均」の動きと比較した場合、近畿地方のコロナ禍からの回復ペースは鈍い傾向にある。
大阪市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、大阪府の就業者数は8年ぶりに減少に転じた。また、近畿地方の「企業の経営環境」は本格的な回復には至っておらず、コロナ禍が「雇用環境」に与えたダメージは全国平均と比べて大きいと言える。以上のことを鑑みると、大阪市のオフィスワーカー数の拡大は力強さに欠けることが予想される。
3 転入超過数=転入人口-転出人口
4 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
5 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2) 在宅勤務の進展に伴うワークプレイスの見直し
パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、大阪府におけるテレワーク実施率(2021年8月調査)は28%となった。1回目の緊急事態宣言直後(2020年4月調査)に大きく上昇した後、概ね横ばいで推移している(図表-15)。大阪府のテレワーク実施率は東京都を下回るものの愛知県より高い状況にあり、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着しているようだ。
また、大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症に関する府内企業の実態調査」(2021年7月調査)によれば、大阪府のテレワーク(在宅勤務)導入率は41%で、業種別にみると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」で95%、「金融業、保険業」で68%、「学術研究、専門・技術サービス業」で66%となっている(図表-16)。
パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、大阪府におけるテレワーク実施率(2021年8月調査)は28%となった。1回目の緊急事態宣言直後(2020年4月調査)に大きく上昇した後、概ね横ばいで推移している(図表-15)。大阪府のテレワーク実施率は東京都を下回るものの愛知県より高い状況にあり、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着しているようだ。
また、大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症に関する府内企業の実態調査」(2021年7月調査)によれば、大阪府のテレワーク(在宅勤務)導入率は41%で、業種別にみると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」で95%、「金融業、保険業」で68%、「学術研究、専門・技術サービス業」で66%となっている(図表-16)。
(3) 大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待
2025 年開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きい。日刊工業新聞社が2022年に実施した「関西の有力企業アンケート」によれば、大阪万博に「関心がある」と答えた企業は92%に達した。「関心がある」と回答した企業のうち、「自社技術や製品・サービスを会場で披露する」と回答した企業は47%であり、万博をビジネス拡大の機会と捉える企業は多い6。
また、万博では、新技術・サービスの導入も計画されている。会場内と周辺地域を結ぶ交通手段として、「空飛ぶクルマ」の導入を目指しており、国土交通省は2022年3月に「空飛ぶクルマ」の試験飛行に関するガイドライン7を公表した。1時間20便程度の運行を目指すとしており、会場である夢洲と、(1)大阪市内、(2)大阪湾岸部、(3)伊丹空港、(4)神戸空港、(5)関西国際空港、(6)神戸市内、(7)淡路島、(8)京都・伊勢志摩等をそれぞれ結ぶ8ルートが、候補となっている8。
経済産業省によれば、万博の経済波及効果は2 兆円(建設費約0.4兆円 運営費約0.5兆円 消費支出約1.1兆円)と試算されており、オフィス需要にもプラスの効果が期待できそうだ。
一方で、当初、万博開催前の開業を計画していた「カジノを含む統合型リゾート(IR)」は、開業時期が「2029年の秋から冬頃」へと後ろ倒しとなった9。また、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、海外からのパビリオン誘致が目標を大幅に下回っているとの報道もあり10、上記の経済波及効果が未達となる懸念もある11。
6 日刊工業新聞「「大阪万博に関心」92%、本社が関西企業調査 IRは「負の側面」懸念」2022/3/18
7 国土交通省「「空飛ぶクルマ」の試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン」
8 日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪万博で8路線・1時間20便 初の実用化」2022/3/17
9 日本経済新聞「大阪IR、29年秋にも開業 市は環境対策に約790億円」2021/12/21
10 150カ国25国際機関の目標に対し、これまで出展を表明したのは72カ国6機関。
11 産経新聞「万博効果2兆円に2つの懸念 誘致遅れと資材高騰」2022/1/18
2025 年開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きい。日刊工業新聞社が2022年に実施した「関西の有力企業アンケート」によれば、大阪万博に「関心がある」と答えた企業は92%に達した。「関心がある」と回答した企業のうち、「自社技術や製品・サービスを会場で披露する」と回答した企業は47%であり、万博をビジネス拡大の機会と捉える企業は多い6。
また、万博では、新技術・サービスの導入も計画されている。会場内と周辺地域を結ぶ交通手段として、「空飛ぶクルマ」の導入を目指しており、国土交通省は2022年3月に「空飛ぶクルマ」の試験飛行に関するガイドライン7を公表した。1時間20便程度の運行を目指すとしており、会場である夢洲と、(1)大阪市内、(2)大阪湾岸部、(3)伊丹空港、(4)神戸空港、(5)関西国際空港、(6)神戸市内、(7)淡路島、(8)京都・伊勢志摩等をそれぞれ結ぶ8ルートが、候補となっている8。
経済産業省によれば、万博の経済波及効果は2 兆円(建設費約0.4兆円 運営費約0.5兆円 消費支出約1.1兆円)と試算されており、オフィス需要にもプラスの効果が期待できそうだ。
一方で、当初、万博開催前の開業を計画していた「カジノを含む統合型リゾート(IR)」は、開業時期が「2029年の秋から冬頃」へと後ろ倒しとなった9。また、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、海外からのパビリオン誘致が目標を大幅に下回っているとの報道もあり10、上記の経済波及効果が未達となる懸念もある11。
6 日刊工業新聞「「大阪万博に関心」92%、本社が関西企業調査 IRは「負の側面」懸念」2022/3/18
7 国土交通省「「空飛ぶクルマ」の試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン」
8 日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪万博で8路線・1時間20便 初の実用化」2022/3/17
9 日本経済新聞「大阪IR、29年秋にも開業 市は環境対策に約790億円」2021/12/21
10 150カ国25国際機関の目標に対し、これまで出展を表明したのは72カ国6機関。
11 産経新聞「万博効果2兆円に2つの懸念 誘致遅れと資材高騰」2022/1/18
3-3. 賃料見通し
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測12、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2026年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-19)。
大阪市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、大阪府の就業者数は8年ぶりに減少した。近畿地方の「企業の経営環境」や「雇用環境」についても、コロナ禍からの回復ペースは全国平均と比べて鈍く、オフィスワーカー数の拡大は力強さを欠くことが予想される。また、「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着し、ワークプレイスの見直しが進んでいる。景気への波及効果が期待される大阪・関西万博についても、コロナ禍の影響に留意する必要がある。以上を鑑みると、大阪のオフィス需要は当面弱含みで推移する見通しである。
一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年には2009年に次ぐ大量供給を迎える予定であり、今後、大阪の空室率は緩やかな上昇が継続すると予想する。
このため、大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。「2021年の賃料を100とした場合、2022年の賃料は「99」、2026年は「91」に下落する」と予想する。ただし、ピーク(2021年)対比で▲9%下落するものの、2018 年の賃料水準(85)を上回り、リーマンショック後にみられた大幅な賃料下落には至らない見通しである。>
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測12、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2026年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-19)。
大阪市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、大阪府の就業者数は8年ぶりに減少した。近畿地方の「企業の経営環境」や「雇用環境」についても、コロナ禍からの回復ペースは全国平均と比べて鈍く、オフィスワーカー数の拡大は力強さを欠くことが予想される。また、「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着し、ワークプレイスの見直しが進んでいる。景気への波及効果が期待される大阪・関西万博についても、コロナ禍の影響に留意する必要がある。以上を鑑みると、大阪のオフィス需要は当面弱含みで推移する見通しである。
一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年には2009年に次ぐ大量供給を迎える予定であり、今後、大阪の空室率は緩やかな上昇が継続すると予想する。
このため、大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。「2021年の賃料を100とした場合、2022年の賃料は「99」、2026年は「91」に下落する」と予想する。ただし、ピーク(2021年)対比で▲9%下落するものの、2018 年の賃料水準(85)を上回り、リーマンショック後にみられた大幅な賃料下落には至らない見通しである。>
12 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2021~2031年度)」(2021.10.13)、などを基に設定。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年03月30日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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