2021年11月09日

中期経済見通し(2021~2031年度)

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.296]

山下 大輔

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1―コロナ禍からの復興を目指す世界経済

2020年に世界経済は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて急停止を余儀なくされた。大規模な金融緩和と財政出動で経済を下支えしつつも、医療崩壊リスクの高まりで厳しい外出制限や営業活動制限を導入せざるを得ない国が多かった。その後、多くの国が医療・公衆衛生体制を強化し、医療崩壊リスクが拡大しない範囲で経済活動の緩和が進められた。また、ワクチン開発と普及は、重症者や死亡者の抑制に寄与し、経済回復を後押しする大きな材料となった。
 
中期経済見通しのメインシナリオを作成するにあたって、今後も新型コロナウイルスとの共生が続くことを前提にした。ワクチンの開発と普及が急速に進んだことは、感染拡大防止に大きく貢献したと考えられるが、短期間での新型コロナウイルス収束には至らない。他方で、既存ワクチンの有効性を著しく低下させるような変異株の出現やウイルスの強毒化により、厳しい活動制限を再び強いられることもないと想定している。
 
その結果、新型コロナウイルスとの共存が続くものの、ワクチンや治療薬の普及によって段階的に新型コロナウイルスに対する適応がなされ、次第に、新型コロナウイルスのリスクを過度に意識することなく生活できるようになっていく、というシナリオを前提にしている。ただし、コロナ禍前のような人の往来がなされるまでには時間を要し、対面型サービス消費の回復は緩やかなペースになるだろう。また、新型コロナウイルスに適応し経済復興を進めるとともに、コロナ禍により大規模に出動してきた金融・財政政策の正常化にも取り組むことになるが、金融・財政による支援の縮小は経済に抑制的に働くだろう。
 
世界経済は、コロナ禍の影響を受け、2020年に▲3.3%と急減速したが、2021年はワクチン接種の進展などを背景とした世界的な経済活動の回復により、5.7%の高成長となると予想される。その後は、コロナ禍からの反動もあり、やや高めの水準での推移がしばらく続くものの、予測期間にわたって成長率は鈍化傾向をたどり、予測期間末には2%台半ばまで低下することが見込まれる。[図表1]
世界の実質経済成長率
先行きの成長率を先進国と新興国に分けてみると、新興国は先進国の成長率を一貫して上回るとみられる。しかし、新興国では新型コロナウイルスへの適応に比較的時間がかかり、経済への恒久的被害が大きいこと、少子高齢化に伴い潜在成長率の低下が進むことなどを背景に、成長率は予測期間後半には3%台前半まで低下すると予想している。

2―日本経済の見通し

1|コロナ前の実質GDP水準に回復するのは2022年度 
日本では、2019年度末に新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化し、その後、緊急事態宣言が繰り返し発出されるなど、経済活動に大きな影響を与えている。実質GDP成長率は2020年度に▲4.4%と過去最大のマイナス成長を記録した。引き続きコロナ禍にはあるものの、ウィズコロナの生活様式の普及などに伴い、経済は回復に向かっている。今後もある程度の感染拡大が生じる可能性は否めないが、2022年度には、コロナ前(2019年度)の実質GDPの水準を回復するだろう。[図表2]
実質GDP
需要項目別には、輸出は、全体の約8割(2020年度実績)を占める財輸出が海外経済の回復を背景に堅調に推移することが見込まれ、2021年度には2019年度の水準を上回るだろう。設備投資は、企業収益の好調さやソフトウェア投資の好調さなどから、2022年度にはコロナ前に回復する。
 
他方、民間消費について、財消費は、耐久財がけん引する形で、コロナ前の水準を既に超えているが、サービス消費は行動制限や自粛要請といった経済活動の制限の影響を強く受けており、緊急事態宣言が解除されていた時期でもコロナ前の9割程度までしか回復しなかった[図表3]。
コロナ禍での消費の推移
サービス消費の回復は今後も緩やかなものとなると見込まれ、民間消費がコロナ前の水準まで回復するのは2023年度まで遅れると見込まれる。なお、2019年度は消費税率引き上げが実施されており、消費水準が下がっていた時期に当たる。民間消費がその前年(2018年度)の水準を超えるのは2024年度まで待たなければならないだろう。
 
2|今後10年間の実質GDP成長率は平均1.1% 
中長期的な成長率を考える上で一つの指針となりうるのは潜在成長率である。潜在成長率とは、労働や資本の平均的な稼働率で生産可能と考えられる生産額(潜在GDP)の成長率であり、経済の供給能力ともいえる。景気変動の影響を除いた中長期的な状況を想定すれば、実現可能な供給能力を超えた生産を継続することは難しく、実際に観測される実質GDPは潜在GDPに近づくと考えられ、結果として、実質GDP成長率は潜在成長率に近づくはずだ。
 
潜在成長率は推計により求められる数字であり、推計方法に依存する部分が大きいため、幅を持って捉える必要があるが、日本の潜在成長率は、コロナ前から1%を下回る水準にある。新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みからの回復過程では、その落ち込みの反動で、高い実質GDP成長率が続くと期待されるが、成長余力を高めるためには、潜在成長率を引き上げる必要がある。
 
潜在成長率を引き上げるためには、労働参加の更なる促進や、生産性向上のための設備・人材面での投資が求められる。潜在成長率は2012年度から上昇に転じたが、この要因として、女性や高齢者の労働参加が増加したことなどで、少子高齢化を伴う人口減少の中でも就業者数が増加したことが挙げられる[図表4]。
就業者数の推移
少子高齢化を伴う人口減少の加速が見込まれることを踏まえると、就業者数の減少が潜在成長率を引き下げる要因となることは避けられそうにないが、コロナ禍で普及したテレワークの活用などを含む働き方の多様化は就業者数の減少を抑制する効果をもつと期待される[図表5]。
企業のテレワーク導入状況
また、就業者数が減少する中で成長を続けるには、一人ひとりの就業者が生み出す付加価値を増やす取組みも求められるだろう。とりわけ、コロナ禍で浮き彫りになったことの1つはデジタル化の遅れであり、これを契機として、今後の日本のデジタル関連の投資は加速することになるだろう。デジタル化を含めた技術革新に迅速に対応し、新規技術が経済活動の中でより幅広く活用されることが可能になれば、経済の生産性を引き上げることにつながるだろう。
 
先行きの潜在成長率は、上述の労働参加の更なる促進や、新規技術の活用を含む生産性向上のための設備・人材面での投資の実施で、2020年代半ばには1%程度まで回復すると見込んだ。ただし、2020年代後半は人口減少、少子高齢化の更なる進展により、潜在成長率は若干低下するだろう。[図表6]
潜在成長率の寄与度分解
この結果、実質GDP成長率は予測期間(2022~2031年度)の平均で1.1%になると予想する。[図表7]
実質GDP成長率の推移
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山下 大輔

研究・専門分野

(2021年11月09日「基礎研マンスリー」)

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