2021年10月07日

2021・2022年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.295]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2四半期ぶりのプラス成長

2021年4-6月期の実質GDPは、前期比0.5%(年率1.9%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。外需寄与度が前期比▲0.3%と2四半期連続のマイナスとなったが、緊急事態宣言下でも民間消費(前期比0.9%)、住宅投資(同2.1%)、設備投資(同2.3%)の国内民間需要がいずれも増加し、外需の落ち込みをカバーした。政府消費が前期比1.3%の増加となったことも成長率を押し上げた。

2021年4-6月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、1-3月期の落ち込み(前期比▲1.1%、年率▲4.2%)を取り戻していない。日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、緊急事態宣言が再発令された2021年入り後は停滞が続いている。

2―拡大する日米の成長率格差

2021年4-6月期の実質GDPは、米国が前期比年率6.6%の高成長となる一方、日本は同1.9%にとどまった。実質GDPの水準をコロナ前(2019年10-12月期)と比較すると、米国が0.8%上回る一方、日本は▲1.4%下回っている[図表1]。2020年前半の実質GDPの落ち込みはロックダウンが実施された米国のほうが大きく、2020年後半はほぼ同じペースで急回復した。2020年10-12月期時点では、コロナ前と比較した実質GDPの水準は日本が米国を若干上回っていた。しかし、2021年に入ると、米国がワクチン接種の進捗に伴う行動制限の緩和によって高成長を続けているのに対し、日本は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置によって経済活動が再び停滞し、日米の成長率格差は急拡大した。
[図表1]日米の実質GDPの比較
コロナ前と比較した2021年4-6月期の実質GDPを需要項目別にみると、米国は純輸出が実質GDPを▲2.1%押し下げている一方、個人消費がコロナ前の水準を3.1%上回り実質GDPを2.1%押し上げている。また、民間投資(住宅投資、設備投資)もコロナ前の水準を上回っている。

一方、日本は新型コロナ対応の経済対策などから政府支出が実質GDPを0.9%押し上げているものの、個人消費がコロナ前の水準よりも▲2.4%低く、実質GDPを▲1.3%押し下げている。また、民間投資は2021年4-6月期こそ高い伸びとなったが、依然としてコロナ前の水準は下回っている[図表2]。
[図表2]コロナ前と比較した実質GDPの水準(需要項目別寄与度)
このように、個人消費の動きが大きく異なることが日米の成長率格差の主因となっている。財・サービス別には、財消費は2020年4-6月期までは日米でほとんど差がなかったが、2020年7-9月期以降の伸びは米国が日本を大きく上回っている。この背景としては、米国のほうがオンラインショッピングの割合が高いこと、家計への給付金の規模が大きく可処分所得の伸びが日本を大きく上回っていることが挙げられる。

サービス消費は、2021年に入ってから米国がワクチン接種の進捗に伴うソーシャルディスタンシングの緩和を受けて回復を続ける一方、日本は行動制限を再び強化したため、低迷が続いている。

3―輸出、設備投資が景気を下支え

緊急事態宣言の影響で民間消費の低迷は長期化する可能性が高いが、2020年春頃とは異なり、民間消費以外の需要項目は緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている。

輸出は海外のロックダウンの影響で2020年前半に急速に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開を受けて2020年後半には急回復し、2021年入り後も堅調を維持している。財別には、半導体不足の影響などから自動車関連は低迷しているが、デジタル関連需要の拡大や世界的な設備投資の回復を背景に情報関連、資本財が好調を維持している。輸出はすでにコロナ前の水準を回復していることもあり増勢ペースは鈍化しているが、先行きについても世界経済の回復を背景として堅調を維持することが予想される。

設備投資は、新型コロナウイルス感染症の影響で企業収益が大きく落ち込んだことから2020年度には前年比▲6.8%の大幅減少となったが、2021年4-6月期は緊急事態宣言下でも前期比2.3%の増加となった。

日銀短観2021年6月調査では、2020年度の設備投資(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が前年度比▲9.7%と10年ぶりの減少となる一方、2021年度の設備投資計画は前年度比10.2%の高い伸びとなった。

製造業を中心に企業収益が大きく改善する中、テレワーク拡大やデジタル化に向けたソフトウェア投資、製造業の生産活動の好調を受けた機械投資を中心に設備投資は持ち直している。先行きについては、対面型サービス業の建設投資が引き続き下押し要因となるものの、設備投資全体としては回復の動きが継続することが予想される。

4―実質GDP成長率の見通し

日本は2021年に入ってからほとんどの期間で緊急事態宣言かまん延防止等重点措置が実施されている。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域のGDPが日本全体に占める割合は、2021年1-3月期の40%、4-6月期の55%から7-9月期は70%(いずれも期間中の平均)まで上昇した[図表3]。コロナ慣れや自粛疲れの影響などから緊急事態宣言による人流抑制効果は従来に比べると弱くなっているものの、今夏の人出は昨年を下回っている。
[図表3]「緊急事態宣言+まん延防止等重点措置」対象地域のGDP割合
2021年7-9月期は、旅行、外食などの対面型サービス消費の低迷を主因として民間消費が前期比▲0.3%の減少となるだろう。一方、海外経済の回復を背景に輸出が堅調を維持すること、緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている住宅投資、設備投資が増加することから、実質GDPは前期比年率0.8%のプラス成長を予想する。経済活動の水準が低いことを踏まえれば持ち直しのペースは鈍く、欧米との成長率格差は一段と鮮明となるだろう。

2021年10-12月期は緊急事態宣言の解除を前提として前期比年率5.3%の高成長になると予想する。行動制限が緩和されることにより対面型サービス消費が持ち直し、民間消費が前期比1.7%の高い伸びとなることが高成長の主因となる。ただし、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が断続的に発令され、消費が下振れるリスクは否定できない。

先行きについては、ワクチン接種の進捗が感染抑制に一定程度寄与することが見込まれる。しかし、感染者数がゼロになることは考えにくく、様々な要因によって感染の波が起こることは避けられない。実際、諸外国の例をみると、新型コロナウイルスの新規感染者数は、ワクチン接種が進んだ国でも変異株の出現などによって増減を繰り返している。感染者が増加するたびに、休業要請や外出自粛などの感染抑制策が講じられれば、経済の停滞は長期化するだろう。

実質GDP成長率は、2021年度が3.1%、2022年度が2.0%と予想する。この予測に基づけば、実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2021年10-12月期、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年1-3月期となる[図表4]。

しかし、新型コロナウイルス感染症に対する政策対応がこれまでと変わらなければ、経済の正常化はさらに遅れるリスクが高まる。逆に、医療体制の拡充や医療資源の適正な配分を行い、感染者数が一定程度増えても経済活動を大きく制限する必要がないような環境を整備すれば、消費を中心に景気が大きく上振れる可能性があるだろう。
[図表4]実質GDPが元の水準に戻る時期
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年10月07日「基礎研マンスリー」)

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