- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 欧州経済 >
- ECB政策理事会-インフレ期待は固定されたと評価、資産購入策の縮小を決定
2022年03月11日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(質疑応答(趣旨))
- インフレ率は2月に5.8%となり、1月の5.1%から上昇した
- 我々は短期的にはさらなる上昇を予想している
- エネルギー価格は2月に31.7%上昇し、引き続き高インフレの主因となっており、また他の多くの部門の物価を押し上げている
- 食料品価格もまた上昇しており、季節的要因や、輸送費の上昇、肥料価格の上昇の影響を受けている
- ウクライナでの戦争により、エネルギー価格はここ数週間でさらに上昇しており、食料品や商品価格の上昇圧力もある
- 物価上昇はより広範囲にわたっている
- インフレ基調の多くの指標はここ数か月2%を超えている
- しかしながら、コロナ禍に関連する一時的な要因や、エネルギー価格の高騰による間接的な影響に鑑みると、これらの上昇がどの程度持続的なのかは不透明である
- 市場観測の指標では、エネルギー価格は依然に予想されていたよりも長期間高止まりするものの、見通し期間にわたっては緩やかになると示唆している
- 世界的な供給網の混乱(bottlenecks)からの物価上昇圧力も解消されていくだろう
- 労働環境は改善が続いており、失業率は1月に6.8%まで低下した
- 労働力不足はより広範な部門に広がっているものの、総じて賃金上昇率は引き続き反応が鈍い
- 時間が経過し、経済が完全な稼働率に戻ることが、賃金上昇をいくぶん加速させる支えになるだろう
- 金融市場やサーベイ調査による長期のインフレ期待の多くの指標は、2%付近にある
- これらの要因はまたインフレ基調やヘッドラインインフレ率を2%目標に固定することに貢献するだろう
(リスク評価)
- 経済見通しに関するリスクは、ロシアのウクライナ侵攻により大きく上昇し、また下方に傾いている
- コロナ禍に関するリスクは低下している一方で、ウクライナの戦争は経済の景況感に大きく影響し、また供給制約を再び悪化させる可能性がある
- エネルギー価格の高止まりと信頼感の低迷は予想以上の需要停滞と消費・投資の制約になる可能性がある
- これらの要因はインフレ率見通しのリスクでもあり、短期的には上方にある
- ウクライナの戦争は特にエネルギー価格にとって大きな上方リスクである
- 仮に価格上昇圧力が予想以上の賃金上昇につながる、あるいは供給制約の長期化によりインフレ率は中期的により高くなる可能性がある
- しかしながら、中期的な需要が低迷すれば価格上昇圧力も抑制されるだろう
(金融・通貨環境)
- ロシアのウクライナ侵攻は金融市場に大きな変動(volatility)をもたらした
- 戦争開始後、無リスク市場の金利は2月の会合以降の上昇を部分的に打ち消し、株価は下落した
- 一部ロシア銀行のSWIFTからの排除を含む、ロシアに対する金融制裁は現在のところ、ユーロ圏の金融システムにおいて短期金融市場の大きな制約や流動性不足を引き起こしていない
- 総じて、銀行の財務諸表は、資本の厚さと不良債権の少なさのために引き続き健全である
- 銀行は今やコロナ禍前程度の収益性がある
- 企業への銀行貸出金利はいくぶん上昇する一方、家計への住宅ローン金利は歴史的に低い水準で維持されている
- 企業への貸出は21年10-12月期に大きく上昇した後、減少している
- 家計への貸出は特に住宅購入のために維持されている
(結論)
- 要約すれば、ロシアのウクライナへの侵攻は、ユーロ圏経済に負の影響を及ぼし、不確実性を大きく上昇させた
- 仮にスタッフ見通しのベースラインが実現すれば、コロナ禍の影響低下と、堅調な域内需要と強い労働市場の見通しの恩恵を受けて経済は回復を続けるだろう
- EUレベルを含む財政政策もまた経済を保護する助けになるだろう
- 新しいインフレ見通しの評価と不確実な環境を考慮し、我々は先々数か月の純資産購入のスケジュールを修正し、その他の政策手段を承認した
- 我々は取り巻く不確実性を非常に注視している
- 我々の政策手段の調整は、引き続き、データに依存(data dependent)し、見通しの評価を反映したものとなる
- 我々は中期的な2%目標へのインフレ率安定を確実にするために、すべての手段を調整する準備がある
(質疑応答(趣旨))
- 正常化のペースを加速させることについて理事会ではどの程度の合意があったのか
- 理事会では、様々な見解が俎上にあがった
- しかし、議論ののち、まとめられた提案について、すべての理事会メンバーによる決定があった
- 新しいガイダンスの金利調整が純資産購入のしばらく後というのは、今年の利上げをしないという意味か、それは示されたかなり高いインフレ見通しと整合的なのか
- 直前(shortly before)に変わるしばらく後(some time after)は、期間に関して固定されてなく(open)、データ次第であるということを意味している
- ほとんどのウォッチャーが不確実性のために現状維持と考えていたので今日の発表は驚きだった。APPの縮小についての理事会の見解を少し詳しく教えて欲しい、なぜもう1か月待たなかったのか
- (明確な回答なし)
- 「しばらく後(some time after)」について、今年、現時点での支配的なシナリオに沿って推移した場合に、利上げはありうるのか
- 支配的なシナリオが分からないため、回答することが難しい
- 「しばらく後」には、純資産購入の後に、利上げをするかどうか決定するという順序が反映されている
- 「しばらく後」の期間は無限定で、1週間後でも数か月後でもよく、時間軸については最重要事項ではないと言いたい
- 理事会はユーロ圏の金融安定についてどの程度心配しているか
- 侵攻開始以来、金融市場は変動(volatility)し、厳格化(tensions)し、ストレスに見舞われた
- しかし、状況は2年前とは異なっている
- 流動性は消えていない
- EUの制裁がロシア中銀を目標にしたことで、中央銀行デジタル通貨に注目が集まっている。これはECBのデジタルユーロの取り組みを加速させることになるか
- 取り組みは前進すると確信しているが、それは理事会により決定される事項である
- 私としては、我々の取り組みが加速できることを望んでいる
- ECBが景気刺激策を縮小するなかで、ロシアのウクライナ侵攻の衝撃を緩和させるための財政支援をする必要があると考えるか
- (明確な回答なし)
- 我々は加速について話しているのではなく、引き締めについて話しているのではない
- 現在の状況を認識した上で、正常化については話している
- ウクライナ中央銀行がECBとのスワップ協定を要求してきたら、どう応えるか
- 実際に、特に欧州委員会など他の欧州当局とウクライナの人々および当局を支援するための手段について検討している
- スワップ協定、レポ協定といったすでにある枠組みに限らず、どのような支援が構築できるか見ている
- 理事会の議論をもう少し詳しく教えて欲しい。終了日を明示しないことを提案した人はいるか、あるいは他の選択肢を提案した人はいるか
- この不透明な状況下では何もすべきではない、という人もいた(some members)
- 不透明な状況ではあるが、条件を付けず前進すべきという人もいた(other members)
- これはパッケージで最大限の機敏性(agility)と柔軟性(flexibility)を持っている
- インフレについて、戦後が戦前の状況にはらないことは明らかにみえる。政府はより防衛費に支出し、商品価格は以前よりも高くなりそうで、気候変動対応は加速している。理事会ではこれらの要因について何か議論したか、また見通しではどのように考慮されているのか
- 明らかに短期的なリスクは上方にある
- しかし、中期的なリスクとしては上方にもなるが下方になる可能性もある
- EUの指導者たちがベルサイユで会合を開くが、財政面で、特にEUに何を期待するか。再び共同調達を見たいと思うか
- 声明においても明確に財政支援を続けることが非常に重要であると述べている
- 大きなショック、戦争やエネルギー価格に直面しているなかで、我々が提唱してきた財政の枠組みは、欧州をより統合した基盤に移行するためにもとても有用であると信じている
- 今回のエネルギーショックがどの程度長期化すると考えているか
- シナリオの前提では、エネルギー価格は一般的に安定に向かうが明らかに短期的ではない
- しかし賃金上昇圧力は強くなく、賃金上昇圧力がどこから来るかの情報収集と理解に努めている
- ロシアへのエネルギー依存度を減らすという計画は、インフレ見通しでどの程度考慮されているか
- エネルギー依存度を減らすという計画は、欧州当局と加盟国指導者とで決定されたものとしては認識していない
- どこのエネルギーであろうと、大幅な価格上昇としては織り込まれている
- 「しばらく後」は、利上げの「直前」までAPPを行う、よりも長い待ち時間を意味するのか
- 「直前(shortly before)」を「直後(shortly after)」で書き換えることもできたが、それだと意思決定の時間的制約が生まれる
- 「しばらく後」という言葉を使えば、データを確認し、その頑健性を判断し、不確実性を明らかにして我々が決断するという十分な期間をとることができる
- デギンドス副総裁への質問。あなたがスペイン経済相で、サレブ(Sareb、不良債権買取機関)を創設した際、ソラヤ・サエンス・デ・サンタマリーア副首相は納税者への負担はかけないと記者会見で言った。あなたは納税者への影響を最小限にすると言った。現在、サレブは350億ユーロの公的債務があるが、スペイン人をだましたのか
- サレブは欧州委員会、ECB、IMFと合意されたスペインの金融機関の救済パッケージのひとつだった
- サレブはスペインの銀行の財務諸表を健全化するための最も強力な手段であると考えている
- 350億ユーロの負債はあるが310-320億ユーロを超える資産もある
- 我々は、現在改善しているスペインの不動産市場の回復という利点のために時間を稼ぐことと、サレブの負債水準を極力減らすことに努めるべきだと考えている
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年03月11日「経済・金融フラッシュ」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
高山 武士のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/01 | ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/23 | IMF世界経済見通し-トランプ関税で世界成長率は3%割れに | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/18 | ECB政策理事会-トランプ関税を受け6会合連続の利下げ決定 | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/16 | 英国雇用関連統計(25年3月)-緩やかながらも賃金上昇率の減速傾向が継続 | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【ECB政策理事会-インフレ期待は固定されたと評価、資産購入策の縮小を決定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ECB政策理事会-インフレ期待は固定されたと評価、資産購入策の縮小を決定のレポート Topへ