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- 英国金融政策(2月MPC)-追加利上げと保有資産の縮小を決定
1.結果の概要:追加利上げと保有資産の縮小を決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.50%に引き上げ(0.25%ポイントの利上げ)
・国債の保有残高の縮小を開始し、償還再投資を停止する(新規に決定)
・社債の保有残高の縮小を開始し、償還再投資の停止および売却を行う(新規に決定)
【議事要旨(趣旨)】
・GDP成長率見通しは、22年3.75%、23年1.25%、24年1%(22-23年を下方修正)
・CPI上昇率は22年5.75%、23年2.5%、24年1.75%(10-12月期の前年比、22-23年を上方修正、24年は下方修正)
・MPCは見通し通りの動向ならば、今後数か月間でさらなる緩やかな引き締めが適切と判断
・交渉による妥結賃金は22年で平均5%近くに達し、様々な規模、部門の企業で広く上昇
2.金融政策の評価:さらに緩やかな引き締めが適切と判断
今回は、会合にあわせて2月のMPR(金融政策報告書)も公表されている。そこではCPIインフレ率が11月の報告書および12月の会合での見通しよりも短期的にかなり引き上げられている。この中央見通しについては、11月と同様に前提(政策金利は市場金利、卸売エネルギー価格は6か月先まで先物価格であとは横ばい)の不確実性が大きいことが強調されており、今回のMPRでは、政策金利が0.5%で横ばいのケースや卸売りエネルギー価格が6か月先以降も先物価格に沿って低下するというケースについても示されている。
MPRの見通しでは、政策金利を1.5%近くまで引き上げる中央見通しでは予測期間の終わりにはインフレ率が目標を下回る一方で、政策金利が0.5%で横ばいのケースでは予測期間の終わりでも2%をやや上回っている。エネルギー価格がMPRの前提通りであれば、政策金利は0.5%より引き上げる方が望ましいが、1.5%は引き上げ過ぎと解釈できる。
また、先物価格では、将来のエネルギー価格の下落が見込まれており、今後、価格下落が続くとすれば、予測期間の終わりのインフレ率はさらに低くなるとされている。
今回の利上げの決定については、5対4で、4人は0.50%ポイントの利上げを主張しており(0.25→0.75%)、際どい決定であった。議事要旨からは4人が賃金インフレや企業の価格転嫁姿勢を含む上方リスクを大きく見ているのに対して、5人は、こうしたエネルギー価格が落ち着くことによるインフレ圧力の低下という下方リスクにも注意を払っていることが読み取れる。
なお、これまでは声明で「金融政策の変更がインフレ率に影響するまでに時間を要することも考慮し、適切な金融政策スタンスを判断するにあたっては、MPCは一時的な要因ではなく、常に中期的なインフレ期待を含む、中期的なインフレ見通しに焦点をあてる」と一過性のインフレかを見極める記載となっていたが、今回は(エネルギー価格など輸入インフレのショックは)「金融政策では防ぐことができない」が、「金融政策の役割は、実体経済の調整が発生した際に、生産量の望ましくない変動を最小限に抑え、2%目標の中期的な持続を達成するよう一貫した行動をすることである」とした記載に変更されている。
ベイリー総裁の「金融政策では、供給問題を解決することはできない」が「中期のインフレ期待を支えるには、政策金利の引き上げが求められる」とした発言と通じるもので、MPCの「2月の報告書の中央見通しに概ね沿った経済動向となるのであれば、今後数か月間のうちに、さらに緩やかな引き締めが適切だろう」との判断通り、当面は高インフレの高止まりに対して政策金利の引き上げが続くだろう。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を0.50%に引き上げる(5対4で決定1、0.25%ポイントの引き上げ)、反対した委員は0.75%への引き上げを主張した
- 国債の保有残高の縮小を開始し、償還再投資を停止することにより行う(全会一致で新規に決定)
- 投資適格級の非金融機関社債の保有残高の縮小を開始し、償還再投資の停止および保有社債の売却により行い、保有社債の完全売却の完了は23年末を予定する(no earlier than towards the end of 2023)(全会一致で新規に決定)
- 委員会の更新した中央見通しを2月のMPR(金融政策報告書)で公表した
- 見通しは市場の政策金利予測に基づき、23年半ばまでに1.5%程度まで上昇することを前提としている
- 卸売エネルギー価格は6か月先までは先物価格に連動して、それ以降は横ばいとしており、先物価格の今後数年にわたって低下する動きとは異なっている
- これらの前提には大きな不確実性がある
- 世界および英国の経済活動は昨年末にコロナ禍前の水準まで回復した
- オミクロン株の出現は12月および1月の活動を落ち込ませる見込みである
- しかし、経済活動への影響は短期的かつ限定的であると見られ、英国のGDPは2月および3月には回復、1-3月期の生産は再びコロナ禍前の水準を上回る見込みである
- 労働力調査の失業率は11月までの3か月で4.1%まで低下し、短期的には22年1-3月期には3.8%まで低下する見込みである
- 短期より先を見ると、英国のGDP成長率は減速する見込みである
- 主な理由としては、世界的なエネルギー価格と貿易財の高騰が英国全体の実質所得と支出に負の影響を及ぼすためである
- その結果、見通し期間の終わりまでに失業率は5%まで上昇し、供給超過は1%程度まで増えると見られる
- CPI前年比上昇率は11月の5.1%から12月には5.4%まで上昇し、11月の報告書で予想されていたよりも概ね1%ポイント高い
- インフレ率は今後数か月でさらに上昇し、2月と3月には6%近く、4月のピークにはおよそ7.25%になると予想する
- このピークは11月の報告書の予想より2%ポイント高い
- さらなるエネルギー価格の上昇は、ガス電力市場監督局(Ofgem)が公共料金の上限を22年4月の改定で大幅に引き上げると見込んでいることを意味する
- CPIコア財のインフレ率もまた、世界的な貿易財の供給制約の影響を受けて上昇すると予想している
- 2月の報告書の中央見通しでは、CPIインフレ率の上昇圧力は、世界的なエネルギー価格が今後6か月以降に横ばいになり、供給制約が緩和し貿易財価格がやや低下することで、時間とともに解消すると予想する
- 賃金伸び率の基調は、労働市場が次第に緩みインフレ率が低下するにつれて、23年以降に緩和すると予想している
- 市場予測の政策金利とMPCによるエネルギー価格の前提のもと、CPIインフレ率は、2年後に2%を若干上回る伸び率に戻り、3年後には目標を大きく下回る
- 2月の報告書では、予測期間全体にわたって将来のエネルギー価格が先物価格に連動するとの前提を置いた代替シナリオも公表しており、そこでは供給超過が中央見通しより0.5%ポイント低く、CPIインフレ率が2年後、3年後には2%目標を0.75%ポイント程度下回る
- MPCの責務は、英国の金融政策枠踏みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 最近の前例のない状況下で、経済は大きなショックを繰り返し経験してきた
- 特に、最近の世界的なエネルギー価格と貿易財価格の急かつ持続的な上昇は、純輸入国である英国全体の実質所得と支出の重しになるだろう
- これは金融政策では防ぐことができない
- 金融政策の役割は、実体経済の調整が発生した際に、生産量の望ましくない変動を最小限に抑え、2%目標の中期的な持続を達成するよう一貫した行動をすることである
- 現在の労働市場のひっ迫と、国内の費用や価格上昇圧力が持続する兆しが続いているため、委員会は今回の会合で政策金利を0.25%ポイント引き上げることが必要であると判断した
- 21年8月の報告書で公表したガイダンスに沿って、委員会は今回の会合で国債購入策により保有している英国債について将来の償還分の再投資を停止することを決定した
- これは、英国債保有の削減をゆるやかかつ予想可能な方法で実施するという、MPCの意図を反映している
- 加えて、委員会は投資適格級の非金融機関社債の購入策により保有している社債についても将来の償還分の再投資を停止すること、および保有社債の売却を開始し、保有社債の完全売却の完了は23年末を予定する(no earlier than towards the end of 2023)ことに合意した
- 社債売却計画の開始を決定したことは、社債市場とそれへのMPCの関与について固有の性質を反映したものであり、将来の英国債売却計画についての開始、規模、期間に関するシグナルと捉えるべきではない
- 委員会は、英国債の売却について、少なくとも政策金利が1%を超えたのち、その時の経済状況を踏まえて検討を開始することを再確認した
- 委員会は、多くの状況下で金融政策姿勢の調整としては政策金利を積極的な政策手段として優先して用いることもまた再確認した
- 金融政策の更なる引き締めは中期的なインフレ見通しに依存する
- MPCは2月の報告書の中央見通しに概ね沿った経済動向となるのであれば、今後数か月間のうちに、さらに緩やかな引き締めが適切だろうと判断した
- 委員会は中期のインフレ率をとりまくリスクについては上下双方あり、主に賃金動向が上方、エネルギーと貿易財価格が下方、と判断している
- 委員会は中期のインフレ率にかかるリスクのバランスについて、今後に明らかになる関連データに照らして評価を更新していく
1 今回の反対票は、ハスケル委員、マン委員、ソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)の4名。前回の反対票はテンレイロ委員で政策金利の0.10%の維持を主張した。
(2022年02月07日「経済・金融フラッシュ」)
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2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
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