2022年02月08日

2022年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.299]

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2022年初の株価は堅調にスタートした後、米国のインフレ懸念に伴う利上げ加速観測と日本国内でのコロナ感染急拡大を受けて下落に転じている。ドル円は米利上げ加速観測を受けて一旦円安ドル高に 振れた後、株安を受けてリスク回避の円高に転じている。内外情勢を巡る様々な思惑が交錯するなか、今年の市場のテーマと動向を展望したい。

1―2021年は日本経済の出遅れを反映

まず、昨年の市場の動きを振り返ると[図表1]、日本株(日経平均株価)は年初27000円台前半でスタートした後一進一退となり、年末時点で28000円台後半と小幅な上昇に留まった。日本株との連動性の高い米国株が同国での経済活動再開や大規模経済対策を受けた景気回復を反映する形で2割近く上昇し、日本株の追い風になったものの、日本国内ではコロナ感染拡大に伴う行動制限が長引き、景気の低迷が続いたことが株価の重荷になった。また、年後半に岸田政権が発足し、自民党が衆議院選で絶対安定多数を維持したが、政治への期待は大して盛り上がらなかった。ETFを通じて日本株の最大の買い手となってきた日銀が一転して買い控えるようになったことも低迷の一因となった。
[図表1]株価とドル円相場(2021年~)
一方、ドル円レートは年初103円台でスタートした後に円安基調に転じ、年末には115円台に達した。何より米国で景気回復と物価上昇が進んだことで米金融政策の正常化期待が高まり、米長期金利が上昇、低位に留まる日本の長期金利との金利差が拡大したことが背景にある。また、原油価格が急騰し、ほぼ全量を輸入に頼る日本の貿易赤字が拡大したこと、世界的に株高となりリスク回避通貨とされる円が売られたことも円安に寄与した。

つまり、昨年に米株が大きく上昇するなかで小幅な上昇に留まった日本株と、大幅に進んだ円安は、主にコロナ禍からの回復にあたっての「日本経済の出遅れを反映したもの」と言える。

2―2022年はどんな年?

それでは、2022年はどのような年になるだろうか?内外の注目材料を点検してみる[図表2]。
[図表2]2022年の主なスケジュール(見込み)
(1)世界共通材料:コロナ禍の行方
まず、世界共通かつ最重要のテーマは引き続き「コロナ禍の行方」だ。現在、内外で急拡大しているオミクロン株の性質については未だ全容が解明されたわけではないものの、感染力が極めて高い一方で重症化率は低いとの見方が強まっている。実際、先んじて感染が急拡大している欧米でも入院・重症患者の増加は限定的に留まり[図表3]、医療崩壊が回避されていることから、都市封鎖といった強い行動制限を導入する動きはあまり広がっていない。
[図表3]米国のコロナ新規感染・入院患者数
今後についても医療崩壊を回避し続けられれば、強い行動制限を敷くことなく、経済活動の再開を進めることが可能になる。ワクチン効果を高めるための追加接種の拡大や、在宅治療を可能とする経口薬の普及、医療体制の拡充などはこのシナリオの実現性向上に寄与するだろう。

一方、重症化率が低くとも、感染が爆発的に拡大すれば、入院・重症患者の急増や医療従事者の欠勤を通じて医療崩壊を招く恐れがある。その際には政府が強い行動規制を敷かざるを得なくなり、内外景気の強い逆風になる。また、変異は感染の繰り返しの中で発生するため、世界中で感染が抑制されない限り、新たな強力な変異株が生まれるリスクも残る。
(2)海外材料
次にコロナ以外に目を転じよう。

1) 米利上げ・資産縮小の行方
まず注目されるのは世界経済・金融市場に多大な影響を及ぼすFRBの動き、具体的には利上げと資産縮小の行方だ。FRBは雇用最大化と物価安定を使命とするが、直近にかけて米国の雇用は順調に回復する一方で物価上昇率は前年比7%と約40年ぶりの伸びに達しており、インフレが景気のリスクとなっている。既にパウエル議長を始めとする高官からは利上げの早期開始やその先の資産縮小開始が示唆されているが、そのタイミングとペース、ならびに背後にあるインフレの動向が注目される。

FRBが利上げや資産縮小を進めることは、基本的には米金利上昇を通じて円安ドル高要因になる。一方、日本株にとっては米金利上昇が米株の逆風となることで、株価の抑制に働く可能性が高い。

2) 米中間選挙の行方
次に注目されるのが米国で11月に実施される中間選挙の行方だ。従来、中間選挙は大統領への批判票が集まりやすいとされ、上院か下院で大統領と異なる政党が過半数を占める「ねじれ」が多く発生してきた。近年でも新大統領が就任する際にはねじれが一旦解消したが、その2年後の中間選挙でねじれが発生してきた。従って、今回の中間選挙では民主党が不利ということになる。さらに、現在はバイデン政権に対する支持率が低下し、民主党に対する逆風が強まっている。1月の政権発足時には5割台半ばであったものが、直近では4割強となっている。

今回の中間選挙において、ねじれが発生した場合、バイデン政権の運営は厳しさを増す。予算が絡む政策は共和党の反対で実現が困難になるうえ、上院を落とした場合には人事や条約の承認も難しくなり、政策の実行力が低下する。大統領が自身の権限の強い外交・安全保障領域での成果を焦れば、米中間など対外摩擦が激化するリスクが高まる。また、政権が指導力を失うことで2024年の次期大統領選の行方が見通せなくなり、米国の政治・経済の不透明感も強まるだろう。
(3)国内材料:参議院選挙の行方
国内では、参議院選挙の行方が注目される。7月に実施される見込みで、議席の半数が改選対象になる。ここで、仮に自公の与党が過半数を割り込んで「ねじれ」が発生する場合には、米国同様、政権運営に様々な支障が出ることになる。現在与党が過半を占めている衆議院の優越規定が適用されるのは予算と条約の承認・首相指名のみであるうえ、衆議院で2/3以上の議席を有していない与党は、参議院で否決された法案の再可決もできない。こうした事態は日本経済にとっても重荷になる。

また、仮に与党が過半数を維持したととしても、政権基盤を固めた岸田政権が金融所得課税や自社株買い規制の実現に舵を切れば、株安を招きかねない。

3―メインシナリオと下振れリスク

以上、今年の注目材料を取り上げてきたが、最も重要な材料は世界経済の行方を大きく左右する「コロナ禍の行方」だ。

足元で感染が急拡大しているオミクロン株はまだ不明な点が多く予断を許さないが、ワクチンの追加接種や昨年末に実用化された経口薬の効果が期待される。また、無防備だったコロナ拡大初期と比べれば、各国のコロナへの対応力は上がっていると考えられる。従って、現段階のメインシナリオとしては、米国や国内においてコロナの医療崩壊は避けられ、強い行動制限の導入は回避される(もしくは短期的に導入されることはあっても長期化はしない)と想定している。

この場合、米国では雇用の回復基調が続くことで、FRBはインフレ抑制に注力するだろう。量的緩和終了後の3月に利上げを開始し、年内に追加で2回の利上げを実施するほか、年後半には資産縮小にも踏み切ると見ている。一方、米中間選挙では民主党が上院・下院のいずれか若しくは両方で過半数を維持できず、ねじれが発生する可能性が高い。

日本株については、内外の景気回復が追い風になる。日本株の割高感はPERが示すように既に解消しているため、景気の回復と企業業績改善が株価の上昇に繋がると見ている。ただし、FRBによる利上げや資産縮小開始、米中間選挙でのねじれ発生が上値の抑制要因になる。現時点では、年末時点の日経平均の着地は30000円台と予想している。

ドル円では、基本的にFRBの段階的な利上げや資産縮小が円安ドル高圧力になる。しかし、金利先物市場の織り込む今年の利上げ回数は既に4回(1回当たり0.25%換算)に達しているうえ、投機筋の通貨先物ポジションもドル買いに大きく傾いているなど、今年の米金融政策正常化は既に市場で相当織り込みが進んでいるテーマと考えられる。また、米金融政策正常化は株価の圧迫や新興国の資金流出懸念を通じてたびたびリスク回避的な円買いを誘発するうえ、米中間選挙でのねじれ発生もドルの上値を押さえると見込まれる。従って、年末時点の水準は昨年末よりやや円安ドル高の1ドル116~117円台と予想している。

以上がメインシナリオだが、先々の不確実性が高いだけに、メインシナリオから乖離するリスクも高い点は否めない。新たな変異株の発生リスクも含め、コロナ禍の終息は未だ見通せない。日米などで強い行動制限が導入されれば、株価は下落する可能性が高い。

その際には、ドル円はリスク回避の円買いによって円高に振れる可能性が高い。また、米国で供給制約などから物価上昇率が想定より高止まる場合も、米金融政策正常化の加速が織り込まれることで、株価は下落するだろう。その際のドル円は米金利上昇によるドル高圧力と株安による円高圧力が交差し、不安定化すると見込まれる。
 
(執筆時点:1 月19 日)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2022年02月08日「基礎研マンスリー」)

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