2022年01月26日

2021年4~12月の自社株買い動向~設定額はコロナ禍前の2019年の水準まで回復、アナウンスメント効果も引き続き有効

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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■コロナ禍以前の水準まで回復

2021年4~12月の東証1部上場企業の自社株買い設定額は約6兆円と、金額ベースで過去最高を記録した2019年度の同期間の水準まで回復した。2020年度の自社株買いが、設定額、件数ともに低調だった理由として、年初から新型コロナウイルス感染拡大による先行き不透明感や業績悪化懸念が強まり、年度末まで手元資金を温存した企業が多かったことが推測される。さらに、2020年4~12月の設定額約3兆円のうち2兆円はソフトバンクグループ1社によるものであったため、その他の企業の自社株買い設定額はかなり低かったと言える。それが、2021年4~12月は設定金額だけではなく、設定件数も前年同期比1.6倍増加しており、株主還元や資本効率を意識した動きが上場企業に戻りつつあると推測される。
図表1 自社株買いはコロナ禍前の水準まで回復

■株価はポジティブな反応

■株価はポジティブな反応

自社株買いには、企業が自社株買いの設定を発表すると、株価がポジティブに反応するという「アナウンスメント効果」があると言われている。企業の経営陣は、自社株買いの実施を発表することで、自社の株価が割安な水準にあることや自社の成長性に自信を持っていることを投資家にアピールすることになり、株式市場でも好意的に受け止められることが多いためである。

実際に2021年4~12月に設定された自社株買いについて、「アナウンスメント効果」が有効であったのか確認した。図表2は過去3年間の4~12月に自社株買いの実施を設定した企業の株価推移をまとめたものである。自社株買い設定日を基準日(0日)として、自社株買い設定企業の対TOPIX累積超過収益率を年ごとに単純平均している。
図表2 株価の反応はポジティブ
2021年4~12月の自社株買い設定企業の株価は、設定日の翌営業日に平均して約2%上昇し、その後は上昇した水準でほぼ横ばいに推移した。2020年と2021年は2019年と比較すると設定後の株価の反応は若干低いものの、コロナ禍においても「アナウンスメント効果」は引き続き有効であることがうかがえる。

■自社株買いの季節性

■自社株買いの季節性

自社株買いの設定時期には季節性があり、5月、11月のほかに、2月も自社株買いの設定が増加する傾向がある。

図表3は、2016年度~2020年度の月別の自社株買い設定額を平均したものである。自社株買いの設定額が最も多いのは本決算の発表が集中する5月、次に中間決算の発表時期である11月、そして2月である。2月の自社株買い設定額が比較的多い理由は、第3四半期決算発表に合わせて、自社株買いの設定が多いからである。
図表3 2月は自社株買いの設定が増える傾向
新型コロナウイルスの収束時期はいまだ不確実な状況が続いている。しかし、自社株買いの推移を見る限り、中長期かつ持続的な企業価値向上を目指すうえで、経営戦略の一つとして自社株買いの設定を決断する企業は増えているようだ。株価の動向を見極める上でも、引き続き自社株買いの動向に注目していきたい。
 
 

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森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

(2022年01月26日「基礎研レター」)

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