2022年01月11日

EIOPAによる2021年保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-

保険研究部 研究理事   中村 亮一

欧州 欧米保険事情 などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

8|データ品質保証
提出されたストレステストの結果に対して、EIOPAは、これまでの演習で得られた経験を基に、受け取った情報を検証するために、以下の3段階のアプローチを採用している。

(1)第1段階:ストレス後のポジションを計算する際に参加者が取るアプローチ、適用される簡素化と近似、制約付き貸借対照表アプローチで想定されるリアクティブ経営行動に焦点を当てた事前検証

(2)第2段階:ローカル検証:各NCAによって、管轄区域内の参加グループによる所定のショックの適切な適用について行われる。この評価は、各国監督当局が参加グループと緊密に連絡を取り、十分な知識を持っていることから、有益となる。

(3)第3段階:中央検証、プロセスは、EIOPA職員及び関連するNCAsから選ばれた専門家によって評価された完全なサンプルデータベースを含む段階があり、国レベルで行われた評価を補完する。
9|今回の報告書の構成
今回の報告書は、エグゼクティブサマリー(Executive Summary)に続いて、以下の5章から構成されている。

第1章 導入(リスクの見通しと方法論についての説明等)
第2章 参加グループ・会社の特徴
第3章 主な調査結果
第4章 結論と次のステップ
第5章 付録

このうちの第3章については、資本コンポーネントと流動性コンポーネントの2つに分けて、資本コンポーネントでは、(1)ソルベンシー比率、(2)ソルベンシー資本要件、(3)自己資本、(4)負債超過資産額の状況、(5)リアクティブな経営行動と潜在的なマクロプルデンシャルへの影響、流動性では、(1)サステナビリチィ、(2)フロー、についてベースラインからストレス後の条件への関連指標の変化について報告している。前者はソルベンシーIIの枠組みの指標とツールに依存しているのに対して、後者は技術仕様書やEIOPA関連の出版物で提案されている指標について述べている。

3―今回の報告書の結果の概要

3―今回の報告書の結果の概要

この章では、主として、プレス・リリース資料及び報告書のエグゼクティブサマリー(Executive Summary)等に基づいて、今回の報告書の結果の概要を説明する。
1|前提と全体概要
欧州の保険セクターは、パンデミック危機の間、十分な回復力を示し、パンデミックの大流行による強い経済的影響があったにもかかわらず、2020年末に報告されたソルベンシー比率217.9%に反映された高い資本水準で、この演習に取り組んだが、この強固なソルベンシー比率が、セクターにとって厳しい試練であることが判明した不利なダブルヒットシナリオの影響を参加者が適切に吸収するために必要なバッファーであったことが確認されている。
2|資本コンポーネントへの影響
資本コンポーネントへの影響
(1)固定貸借対照表(アプローチ)
ストレス後のソルベンシー比率は217.9%から125.7%へと92.1pp(パーセントポイント)低下する。これは、ソルベンシー資本要件が7.1%上昇したのに対して、適格自己資本が38.2%減少したことによる。9社が規制上の臨界値の100%未満の値を報告したが、いずれの参加者も100%を下回る資産負債比率を報告していない。これにより、厳しいシナリオの下でも、保険契約者への約束を果たすことができることが示されている。

(2)制約付き貸借対照表(アプローチ)
19社が、利益の留保、資産配分のリスク軽減、資本の増加といった一連のリアクティブな経営行動を適用することを選択した。これらの措置は、主に貸借対照表の状況よりもソルベンシーの状況に影響を与えた。

少数の参加者のみがリアクティブな経営行動を適用しているにもかかわらず、ソルベンシー比率は、固定貸借対照表の計算と比較して、全体として(125.7%から139.3%へ)13.6pp改善している。固定貸借対照表の下でストレス後のソルベンシー比率が100%を下回っていると報告している9社のうち7社が、リアクティブな管理措置を適用することで、規制上の臨界値を上回るソルベンシー比率を報告している。

(3)長期保障措置や移行措置の影響
この演習は、ベースライン・シナリオと不利なシナリオの両方において、長期保証と移行措置の継続的な関連性を証明している。
長期保障措置や移行措置の影響
長期保証と移行措置の影響を除去すると、合計ソルベンシー率は、ベースラインの173.3%から固定貸借対照表で47.2%、制約付き貸借対照表で55.1%に低下する。固定貸借対照表では31の会社が、制約付き貸借対照表では27の会社が100%未満のソルベンシー比率を報告している。また、固定貸借対照表では8社、制約付き貸借対照表では7社が100%未満の資産負債比率を報告している。

長期保証措置は、ソルベンシーIIの恒久的な要素であるが、移行措置はソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行を円滑化するために暫定的に導入されており、その効果は2032年までに段階的に廃止されることになっている。

移行措置のみを除くと、ソルベンシー比率はベースラインの204.6%から、固定貸借対照表では111.0%、制約付き貸借対照表では123.8%に低下し、それぞれで15社と10社が100%未満の値を報告している。2社が、固定及び制約付きの両方で、100%未満の資産負債比率を報告している。

(4)まとめ
全体的に見て、資本コンポーネントは、主な脆弱性が市場ショック、特にリスクフリーレートとリスクプレミアムのデカップリングの影響から生じていることが確認されている。また、欧州の保険業界は、限られたケースを除いて、このような市場の厳しい進展に対応できることが、リアクティブな経営活動を通じて証明されている。しかし、演習の資本コンポーネントは、市場の一部が依然として(2032年までに段階的に廃止される)移行措置に依存していることも示している。
3|流動性コンポーネント
全体として、流動性ポジションは、ストレス後の状況における資本やソルベンシーのポジションよりも、保険セクターにとって重要な懸念材料ではない。それにもかかわらず、シナリオに規定されている大量解約ショックは、全体として保有現金のみではカバーできない重大な流出を生じさせる(101億ユーロの負の正味流動性ポジション)。しかし、単独会社が保有する多額の流動資産は、報告された流出を補うことができる。マイナスのネット流動性ポジションの80%以上が、制約付き貸借対照表の下で、ポジティブなネット流動性ポジション(114億ユーロ)を回復するために、リアクティブな経営行動を適用した15の単独会社に集中している。
流動性コンポーネント
流動性コンポーネントに適用されるリアクティブな経営行動は、主に流動資産の売却からなる。販売戦略は、ベースラインと比較して流動性コンポーネントの資産配分を変更しない傾向がある。
4|マクロプルーデンスの側面
演習のマクロプルーデンスの側面の焦点は、リアクティブな経営行動の適用によって引き起こされる保険会社の資産の総再配分のような潜在的な集団行動を特定することにある。

資本支出においては、資産配分においてリスク削減戦略を適用しているグループの数は8社と限られているが、社債(▲474億ユーロ)、株式(▲47億ユーロ)から国債(+566億ユーロ)へのシフトが見られる。これらの金額は合計では限定的であるが、社債ポートフォリオでは▲15.1%、株式ポートフォリオでは▲16.8%、ソブリン債ポートフォリオでは+13.9%という固定・制約付き貸借対照表アプローチの間の有意な相対的変化がある。より多くの保険会社が同じ行動を資産の再配分に適用する場合、債券市場のフットプリントが潜在的に顕在化する可能性がある。
5|EIOPA会長のコメント
EIOPAのPetra Hielkema会長は、「ストレステストは、欧州の保険会社が過酷な経済状況の中で彼らの財務の健全性を維持できることを示している。保険契約者に対する保険会社のコミットメントが危うくなるようなストレス後の資産ポジションを参加者が報告しなかったことを嬉しく思う。ただし、これらの肯定的な結果の表面下には、2032年までに段階的に廃止される移行措置への依存度がしばしば高いことがある。今後数か月のうちに、演習で明らかにされた脆弱性に注目することになるだろう。また、個々の結果の開示が法的要件になることを検討するよう議員に呼びかけるつもりである。」と述べた。
6|次のステップ
2021年の保険ストレステストの演習は、監督当局に、厳しいがもっともらしいシナリオの下での欧州の保険会社の資本及び流動性ポジションに関する貴重な洞察を与えている。また、明らかになった脆弱性に対処するために、グループの監督者と参加者の間のフォローアップ対話の有用な基盤を提供する。

EIOPAと各国監督当局は、セクターのリスクと脆弱性をより深く理解するために、結果をさらに分析する。EIOPAはまた、演習で特定された関連する懸念事項に関する推奨事項を発行する必要性を評価する。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAによる2021年保険ストレステストとそれに関する今回の報告書の概要について報告してきた。

今回のストレステストは、COVID-19の危機を踏まえての必要な調整等をシナリオに反映したものとなっている。結果として、基本的には大きな問題は指摘されていないが、いくつかの課題も示された形になっている。

次回以降のレポートでは、今回の報告書の第3章に記載されているストレステストの結果の詳細等について報告する。
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2022年01月11日「保険・年金フォーカス」)

アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAによる2021年保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAによる2021年保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-のレポート Topへ