2021年12月28日

オンライン診療の特例恒久化に向けた動向と論点-初診対面原則の是非が争点、曖昧な「かかりつけ医」をどうするか

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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1――はじめに~どうなる?オンライン診療の特例恒久化~

パソコンやスマートフォンの画面越しに医師とやり取りする「オンライン診療」に関する特例の恒久化論議の方向性が固まった。この論議では新型コロナウイルスの拡大を受けて、初診からオンライン診療を利用できる特例が2020年4月から導入されており、厚生労働省の有識者検討会は特例の恒久化に向けた方策を議論し、2021年11月末までに内容を固めた。

具体的には、日頃から直接の対面診療を重ねているなど患者と直接的な関係を持つ「かかりつけの医師」がオンライン診療を実施することをベースとしつつも、「かかりつけの医師」並みに患者の情報を多く持っているケースに関しては、「かかりつけの医師」ではない医師でも初診からオンライン診療が認められる方向となった。新たな方針は新型コロナウイルスの特例が終わった後、適用されることになっており、近く正式決定される見通しだ。

本稿ではオンラン診療を巡る経緯を整理した上で、「かかりつけ医」の機能が曖昧な点を含めて、オンライン診療に関する論点や課題を明らかにする。

2――オンライン診療を巡る経緯

2――オンライン診療を巡る経緯

1|争点化した初診対面原則の特例
まず、オンライン診療を巡る経緯を簡単に整理する1と、オンライン診療が本格的に保険診療の対象となったのは2018年度である。それまでは離島など限定的にしか認められていなかったが、厚生労働省は2018年度診療報酬改定で、「オンライン診療科」などの項目を創設するとともに、実施に関する留意点などを定めた「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、指針)を2018年3月に策定した。その際には、初診を対面で診察した患者に対象を限定する「初診対面原則」の考え方が採用されたほか、対象疾患などについても様々な要件が定められた。

その後、オンライン診療を実施する医療機関が広がらないとして、2020年度診療報酬改定で対象疾患が追加されるなど、制度を少しずつ変えていたが、新型コロナウイルス対策の一環として、安倍晋三首相(肩書は全て発言当時、以下同じ)が「最前線で活躍されている医師・看護師の皆様を院内感染リスクから守るためにも、オンライン診療を活用していくことが重要」と表明2。経済財政諮問会議や規制改革推進会議を中心とした議論の結果、新型コロナウイルス対策の時限的な特例として、初診対面原則を事実上、2020年4月から撤廃された。
 
1 オンライン診療を巡る制度化の経緯については、拙稿2020年6月5日「オンライン診療を巡る議論を問い直す」、同年4月24日「2020年度診療報酬改定を読み解く」を参照。
2 2020年3月31日経済財政諮問会議議事録を参照。
2菅政権の特例恒久化方針と、その後の議論
さらに、2020年9月に就任した菅義偉首相がデジタル化を一つの主要施策に位置付けるとともに、同年10月の所信表明演説では「デジタル化による利便性の向上」を図るため、「オンライン診療の恒久化を推進します」と表明した。

これを受けて、田村憲久厚生労働相、平井卓也デジタル改革担当相、河野太郎行政改革担当相は2020年10月、特例の恒久化で合意3。具体的な内容は厚生労働省に設置されている「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)に委ねられた。

検討会は元々、2019年1月に設置された後、技術の発展やデータなどの収集結果に基づき、指針を定期的に見直す目的で設置されていたが、上記のような菅政権の方針を踏まえ、検討会は2020年11月から議論を再開した。

その際には規制改革推進会議の議論にも加わる民間企業の経営者、現場の中堅医師、保険者の代表、学識者、患者がメンバーとして新しく追加され、初診対面原則を撤廃する際の方策などを模索。2021年11月の検討会で、新たな指針案が取りまとめられた。
 
3 2020年10月9日『朝日新聞』『毎日新聞』を参照。

3――改定される指針案の概要

3――改定される指針案の概要

1|新設された「かかりつけの医師」の定義
指針案を見ると、オンライン診療の基本理念として、(1)得られる情報が視覚及び聴覚に限られる中で、可能な限り、疾病の見落としや誤診を防ぐ必要がある、(2)医師が、患者から心身の状態に関する適切な情報を得るために、日頃より直接の対面診療を重ねるなど、医師―患者間で信頼関係を築いておく必要がある――という考え方を残しつつ、「原則直接の対面」という文言が削除された。これが「初診対面原則」の特例撤廃の恒久化に関わる部分になる。

その代わりに、指針案では「『かかりつけの医師』に限って利用されることが基本」「原則として初診は対面診療で行い、その後も同一の医師による対面診療を適切に組み合わせて行うことが求められる」という文言が付け加えられた。

ここで言う「かかりつけの医師」とは、「日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師」と指針案で定義されており、新しく加えられた概念と言葉である。つまり、直接的な関係を持っている患者と医師のケースを原則に、オンライン診療を認める方針に変更は加えられなかった。

一方、「かかりつけの医師」以外が初診からオンライン診療を実施できるケースも認められた。具体的には、過去の受診記録や健康診断の結果などを通じて、既往歴や服薬情報といった医学情報を「十分に把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合」には、「かかりつけの医師」以外の医師でもオンライン診療を初診から実施できると定められている。分かりやすく言うと、「かかりつけの医師」以外の医師でも、患者の情報を十分に把握できれば、初診からオンライン診療が認められることになるわけだ。
2|新設された「診療前相談」の考え方
さらに「診療前相談」というオンライン受診勧奨の考え方が指針案に追加された。これは「かかりつけの医師」以外の医師がオンライン診療を実施できるか判断できない場合、オンラインにおける映像を用いたリアルタイムのやりとりを通じて、患者の症状や医学的な情報を確認する行為を指す。

これを通じて医師が患者の適切な情報を把握でき、患者と医師の双方が合意した場合、オンライン診療の実施が可能と定められた。ただし、指針案では診療前相談は受診勧奨であり、診断、処方その他の診療行為は含まないと位置付けられている。
3|その他の内容
このほか、指針案では「かかりつけの医師」を持っていない患者に関しては、オンライン診療を実施した医師が「対面診療を行うことが望ましい」としつつも、「患者の近隣の対面診療が可能な医療機関に紹介することも想定される」という文言が盛り込まれた。

オンライン診療で処方される薬剤については、日本医学会連合などが作成したガイドラインに沿って設定するとし、初診からの処方に関しては、安全確保の観点に立ち、▽麻薬や向精神薬などは対象外、▽基礎疾患などが十分に把握できていない患者には8日分以上の処方はしない――といった制限を設ける考えが盛り込まれた。
4|指針案の評価
以上のような内容を踏まえると、初診対面原則が撤廃されたことは事実であり、かかりつけ医以外の医師でも患者に関する医療情報を十分に持っていれば、初診からのオンラン診療が可能となった。さらに受診勧奨である「診療前相談」についても、診断や処方は認められていないが、これを積み重ねればオンライン診療が可能であり、患者のアクセスが改善される可能性がある。

一方、「かかりつけの医師」など日頃の対面診療を通じて患者―医師の信頼関係が存在するようなケースを中心に据えている点で、初診対面原則が大幅に見直されたと言えるかどうか微妙である。

では、こういった結論がなぜ下されたのだろうか。そもそもの問題として、「初めて会う患者に対してオンライン診療を認めるか否か」を論じているのに、「日頃より直接の対面診療を重ねている『かかりつけの医師』に限ってOK」という結論には分かりにくさが残る。こうした決着になった背景を探るため、検討会の議論や争点を簡単に考察する。

4――検討会における議論と争点

4――検討会における議論と争点

医療機関へのアクセスが制限されている場合の対面診療の補完――。日本医師会(日医)は2021年7月の記者会見で、オンライン診療に関して、こうした主張を展開した4。さらに会見では「安全性と信頼性を担保する上では、身近な地域のかかりつけ医とすることが大原則」「かかりつけ医をもたない初対面の患者さんにオンライン診療を行うことはリスクがあり、まずは対面診療を実施すべき」と述べた。つまり、「オンライン診療は対面の補完であり、かかりつけ医を中心に位置付けることが大原則」と主張したわけだ。

実は、こうした日医の考え方は以前から変わっておらず、オンライン診療を初めて保険診療に組み込んだ2018年度診療報酬改定でも、「顔色も息遣いも雰囲気も表情も、その時の状況も全て対面」「どんなにICTが発達しても、(筆者注:対面診療の)補完。医療の本質は変わらない」と述べていた5。このため、今回の指針案は日医の主張に沿っていると言える。

では、こうした日医の主張をどう考えたらいいだろうか。筆者自身の意見を簡単に言うと、医療では「規制は少ないほど良い」という市場的な解決策は取りにくいと考えており、日医の主張に首肯できる面は大いにある。その一方、「対面の補完」と限定的に考えるスタンスには疑問を持っているほか、曖昧な「かかりつけの医師」の機能を明確にする必要があると考えている。

なお、オンライン診療の拡大策に関しては、いくつかの論点がある。例えば、実施可能な医療機関が全体で15%程度にとどまっている一因として、対面よりも低いオンライン診療の診療報酬を挙げる指摘があり、実際に検討会でも「診療報酬との見直しの一体化をして進めるという視点がいい」という議論が出た6。規制改革推進会議が2021年12月に公表した「当面の規制改革の実施事項」でも、診療報酬の問題が言及されている。

さらに、「かかりつけの医師」以外が患者の情報に幅広くアクセスできれば、オンライン診療を拡大できる余地があり、そのためには情報基盤の整備も考える必要がある7。しかし、今回は患者―医師の関係に着目しつつ、オンライン診療を巡る論点を抽出する。
 
4 2021年7月5日『日医ニュース』における松本吉郎常任理事の発言を参照。
5 日医の中川俊男副会長による発言。2017年1月11日の中央社会保険医療協議会総会議事録を参照。
6 例えば、2021年12月23日『日本経済新聞』、同年11月19日『読売新聞』。引用部分については、2021年6月30日の第16回検討会における一橋大学経済学研究科・政策大学院教授の佐藤主光構成員による発言。
7 例えば、電子カルテの共有や医療情報の集約化を図る観点に立ち、患者の情報を電子的に記録するPHR(Personal Health Record)や医療施設を超えて情報を共有するEHR (Electronic Health Record)の普及も欠かせない。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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