2021年12月20日

‘9・9公益日’-中国最大のチャリティーキャンペーンと共同富裕

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1――テンセントによる年に1回の大規模チャリティーキャンペーン、2021年の寄付総額は過去最大の35.2億元(560億円)。

中国で最大規模のチャリティーキャンペーン、‘9・9公益日’。2021年のネット募金の参加者は最多のおよそ6,800万人、募金・寄付の総額は過去最多の35.2億元(約560億円)となった(図表1)1。これまで7回開催された9・9公益日の募金・寄付の総額は100億元を超え、126億元に達した。

9・9公益日は、テンセント・ホールディングスによる騰訊公益慈善基金会(以下、騰訊基金会)を中心に、企業、NPO、著名人、メディアなどが連携して開催している。2015年の第1回以降、期間は9月9日までの3日間であったが、2021年は9月1日から10日間に拡大した。また、今回は、政府が2016年に定めた9月5日の「中華慈善の日」に、共同富裕の実現を目的としたキャンペーンも実施している。寄付額の増加は、期間の延長もあろうが、政府の共同富裕の提唱や強化が透けて見えてくる。
図表1 9・9公益日におけるネットを通じた募金・寄付、企業・組織による寄付額の推移
テンセント・ホールディングスといえば、2021年4月に発表した500億元の持続可能社会・価値イノベーション戦略プロジェクト、8月に発表した同じく500億元規模の共同富裕特別計画が思い浮かぶかもしれない。

しかし、テンセントは早くも2007年に慈善事業を行う騰訊基金会を設立し、以降、慈善活動の範囲や規模を拡大している。設立翌年の2008年に発生した汶川地震では、騰訊基金会による寄付プラットフォームを通じ、わずか8日間で2,000万元を超える寄付を集めた。汶川地震は奇しくもネットを通じた寄付や慈善活動のプレゼンスを向上させたとも言えよう。2016年に中国慈善法が施行されると、寄付プラットフォームである「騰訊公益」の認可も取得している。
 
1 中華人民共和国民政部”99公益日”共建可持続公益新生態6800万人次参与筹集35.2億元善款、2021年9月10日
http://www.mca.gov.cn/article/xw/mtbd/202109/20210900036547.shtml  2021年12月8日アクセス

2――三次分配の優等生

2――三次分配の優等生―テンセントによる政府お墨付きのチャリティーイベント

2016年には中国慈善法が施行され、9月5日を「中華慈善の日」と定めた。これは、2012年12月に国連総会で制定された「国際チャリティー・デー」(International Day of Charity)に合わせて定められたものである。テンセントは政府とも連携し、「中華慈善の日」にも対応することで、1年に1回の大規模チャリティー・キャンペーン(9・9公益日)を展開している。慈善事業の主務官庁である民政部は、9・9公益日を社会的な影響が最も大きいチャリティーイベントとし、インターネット上の公益事業のあり方について、テンセントの手法を「テンセントモデル」として評価している2
 
中国慈善法の施行は、中国における慈善活動や事業の1つの転換点ともいえよう。政府は、寄付・慈善活動など公益活動の促進を目指し、法律で慈善活動の範囲を定め、慈善組織(日本の公益法人に相当)を認定、税制上の優遇を設けた。慈善組織の認定や監督などは民政部が担っている。

例えば、民政部は2016年当初、寄付プラットフォームの運営について、上掲のテンセントに加えて、タオバオ、百度、京東、アント・フィナンシャルなど13社に許可を与えている。以降、2社が取り下げを行う中、2018年には美団、滴滴など9社が加わり、20社まで増加している。民政部によると、この20社による寄付プラットフォームや慈善組織による慈善事業を通じた寄付額は急増しており、2020年、20社に寄せられた募金・寄付の総額は、前年比52%増の82億元となった3。民政部は、2021年11月、更に、バイトダンス、小米など10社に寄付プラットフォームの許可を与えている。こういった認可の増加は、ネット上の募金・寄付活動に更なる広がりを見せている。
 
2 中華人民共和国民政部「向久久公益邁進-互聯網公益慈善的“騰訊様本”、2019年9月11日
http://www.mca.gov.cn/article/xw/mtbd/201909/20190900019605.shtml、 2021年12月8日アクセス
3 中華人民共和国民政部「2021中国互聯網公益峰会在渝挙行民政部副部長王愛文在線上成峰会致辞」、2021年5月21日
http://mzzt.mca.gov.cn/article/zt_zxxd2021/gzbs/202105/20210500034147.shtml、 2021年12月10日アクセス

3――2020年の支出先の4割は新型コロナ関連(騰訊基金会)

3――2020年の支出先の4割は新型コロナ関連(騰訊基金会)

寄付プラットフォームである騰訊公益では、案件ごとに募金に至る経緯や説明がされ、目標金額に達した後は使途やその後の概況なども確認できる。案件の規模としては、例えば2021年12月9日時点で、募金募集中の案件が1.5万件、執行中の案件が8.1万件、すでに終了した案件が1.4万件となっている。募金者は、疾病救助、自然災害、教育、自然保護、その他などに分類された1.5万件の中から、自身の募金先を選択してネット決済で募金することになる。
 
一方、騰訊基金会に寄せられた寄付について、特に新型コロナウイルス禍のあった2020年は20.6億元と前年の2.5倍に急増した(図表2)。騰訊基金会が直接取り扱う貧困救済、自然災害(新型コロナ関連含む)、農村対策、NPO向けなど8分類別の支出先をみると、2020年は自然災害が全体の4割を占め、最も多かった(図表3)。その支出はすべて新型コロナウイルス関連となっており、西湖大学の新型コロナウイルスの研究プロジェクト、電子カルテ及びAIによる診療補助に関する研究プロジェクト、新型コロナウイルス関連のボランティア参加者で新型コロナに罹患した重度の患者、遺族への補償金支払いに充てられている。なお、2020年は科学技術発展分野も全体の3割を占めたが、これは2019年より設けている科学探索賞に関連した支出で、参加者急増による支出増となった。
図表2 寄付額の推移(騰訊基金会)/図表3 分野別の支出先(騰訊基金会)

4――アリババ公益、京東公益、百度公益など横の連携強化も

4――アリババ公益、京東公益、百度公益など横の連携強化も

先に豊かになった人が取り残された人を支え、共に豊かになることを提唱する共同富裕。特に、急成長をとげた企業や高所得の個人に対して、その資産や富を提供し、社会に還元するよう求める三次分配の動きが加速している。苦境にあるITプラットフォーマーが、政府の示す共同富裕策に素早く反応し、大型プロジェクトを次々に発表するといった状況も見受けられる。

そもそも三次分配は対象者や事業、地域を限定し、ピンポイントでの支援が可能で、政府の手の届かない対象や分野に対しても細やかなフォローが可能という利点がある。事業の範囲は既存の貧困救済、農村振興、環境保護、文化保全などに加えて、新型コロナウイルス関連の研究や技術開発、突発的に発生する災害時の疾病保障や死亡保障といった新たな分野にも裾野を広げつつある。また、単独の公益プラットフォームのみではなく、アリババ公益、京東公益、軽松筹公益といった複数の公益プラットフォームが連携し、活動を展開するなど、そのうねりは政治的な部分を飲み込みながら大きくなりつつある。

(2021年12月20日「基礎研レター」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019~2020年度・2023年度~)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員教授(2024年度~)
     ・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

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