- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 医療・介護・健康・ヘルスケア >
- 医療 >
- なぜ世界一の病床大国で医療が逼迫するのか-提供体制の構造的な要因を考える
なぜ世界一の病床大国で医療が逼迫するのか-提供体制の構造的な要因を考える
基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.297]

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1―はじめに
ただ、医療資源は有限であり、無尽蔵に増やせるわけではない。しかも、人口比で見た日本のベッド数は世界一であり、世界一の病床大国で医療が逼迫する構造的な要因を探る必要がある。
本稿では、(1)医療資源の集中が不徹底、(2)医療機関の役割分担が不明確――という2つの構造的な要因を挙げ、今後の方向性を模索する。
2―医療資源の集中が不徹底
具体的には、各医療機関が各都道府県に対して現状を報告する「病床機能報告」に基づき、奈良県が2016年時点の病床を集計したところ、急性期は6,977床だった。ただ、これは医療機関の報告ベースであり、実態を伴っているとは限らない。そこで、奈良県は独自の判断に基づき、「50床当たり手術と救急入院が1日2件以上かどうか」という目安で急性期の実態を可視化し、クリアしている病床保険・年金フォーカスを「重症急性期」、目安に達していない病床を「軽症急性期」という形で整理した。その結果、重症急性期は4,300床にとどまり、2,697床は目安をクリアしていなかった。こうした病床がコロナ禍でどういう役割を果たしているのか、実態は必ずしも明らかになっていないが、急性期が薄く広く存在している分、医療必要度の高いコロナ患者の受け入れが難しくなっている可能性がある。
さらに、規模が小さい医療機関が林立している点も見逃せない。2021年1月時点における厚生労働省の集計によると、「急性期病棟を有している」と報告している医療機関のうち、自治体が運営する公立、日赤などの公的等は7~8割で「受け入れ可能」と答えたのに対し、民間は約2割にとどまっていた。
ただ、これは止むを得ない事情もある。新型コロナウイルスへの対応では、密度の濃い医療を提供する必要があるほか、陽性者と非陽性者を分けるゾーニングが求められるため、一定規模以上の病床が必要となる。
そこで、先に触れた厚生労働省の資料を基に、「急性期病棟を有している」と国に報告している医療機関の規模を開設者別に整理すると、200床未満の病院では公立で48.9%、公的等で17.8%だが、民間は82.6%に上り、小規模な医療機関の林立が病床逼迫を生み出す一因となっている。
3―医療機関の役割分担が不明確
ただ、日本の医療機関の役割分担は不明確であり、医療機関同士の不十分な連携が新型コロナウイルス対応で目詰まりを起こす一因になっている。
4―おわりに~平時モードの改革を~
例えば、(1)では急性期病床の統廃合・再編が意識されていたし、(2)でも治癒した急性期の患者を回復期に転院させ、さらに在宅に移行させる医療機関同士の連携が課題となっている。
つまり、新型コロナウイルスは日本の医療提供体制の構造的な問題を浮き彫りにしたと言える。その一方、新興感染症への脆弱性も課題として顕在化した。このため、今後は有事に対応できるバッファーとなる病床、人員を確保しつつ、平時モードの改革である地域医療構想も進める必要がある。
※本稿は2021年10月26日の拙稿を再構成した。紙幅の都合で地域医療構想との詳細な対比、医療機関連携の好事例、長期療養を前提とした病床の存在などを省略しており、詳細は下記を参照。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69174?site=nli
(2021年12月07日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
三原 岳のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/10 | 異例ずくめの高額療養費の見直し論議を検証する-少数与党の下で二転三転、少子化対策の財源確保は今後も課題 | 三原 岳 | 基礎研レポート |
2025/04/08 | 政策形成の「L」と「R」で高額療養費の見直しを再考する-意思決定過程を検証し、問題の真の原因を探る | 三原 岳 | 基礎研マンスリー |
2025/03/19 | 孤独・孤立対策の推進で必要な手立ては?-自治体は既存の資源や仕組みの活用を、多様な場づくりに向けて民間の役割も重要に | 三原 岳 | 研究員の眼 |
2025/02/17 | 政策形成の「L」と「R」で高額療養費の見直しを再考する-意思決定過程を詳しく検討し、問題の真の原因を探る | 三原 岳 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【なぜ世界一の病床大国で医療が逼迫するのか-提供体制の構造的な要因を考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
なぜ世界一の病床大国で医療が逼迫するのか-提供体制の構造的な要因を考えるのレポート Topへ