2021年11月26日

ワクチン接種証明による行動制限緩和についての考え方-肯定層は約6割、より安心安全な環境を求める高齢層ほど前向き

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2属性別の状況~重篤化リスク・感染不安の違いから男性より女性、高年齢層ほど慎重
属性別に見ると、性別では男女とも全体と同様に上位に「病床がひっ迫していないこと」など感染拡大の状況にないことに関する項目があがる(図表7)。

男女を比べると、「特に条件はない」(男性が女性より+4.1%pt)や「接種率が国民の7割を超える」(+3.4%pt)などを除けば、おおむね女性が男性を上回る。特に「新規陽性者数がおさえられていること」(女性が男性より+12.9%pt)など感染拡大の状況にないことに関する項目では、いずれも女性が男性を10%pt以上上回る。また、「接種義務化や差別の助長につながらないこと」(+8.1%pt)や「陰性証明の取得にかかる費用負担が軽減されること」(+5.5%pt)「行動制限の緩和を停止する場合の条件を明確にすること」(+5.2%pt)など運用面に関する項目でも女性が男性を上回る。
図表7 属性別に見たワクチン接種証明等を活用して行動制限を緩和していくことにおける条件(9月、複数選択)
つまり、女性の方が男性より接種証明等を活用して行動制限を緩和していくための条件について慎重に捉えている。この背景には、女性の方が感染に関わる不安が強いことがあげられる。感染に関わる不安について見ると、不安のある割合はいずれも女性が男性を10%pt以上上回り、特に「感染しても適切な治療が受けられない」(女性71.2%、男性50.5%で女性が男性より+20.7%pt)や「感染による世間からの偏見や中傷」(62.0%、43.3%、+18.7%pt)では女性が男性を20%pt前後上回る(図表8)。
図表8 性年代別に見た感染に関わる不安(「非常に不安」+「やや不安」の選択割合)
年代別に見ると、いずれも全体と同様に上位に「病床がひっ迫していないこと」など感染拡大の状況にないことに関する項目があがる。「特に条件はない」や「どのような条件であれ賛成できない」を除けば、いずれも高年齢層ほど選択割合が高まる傾向があり、20歳代と70~74歳を比べると感染拡大の状況にないことに関する項目では約3割の差が、運用面に関する項目では約1割の差がひらく。

つまり、重篤化リスクの高い高年齢層ほど行動制限緩和の条件について慎重に捉えているが、やはり、背景には感染不安の違いがあるようだ。感染に関わる不安について見ると、不安のある割合は、高年齢層ほど高まる傾向があり、特に「感染しても適切な治療が受けられない」(70~74歳73.1%、20歳代46.5%で70~74歳が20歳代より+26.6%pt)で20%pt以上の差がひらく。

なお、若い年代では「特に条件はない」の選択割合が高い一方、「どのような条件であれ賛成できない」という相反するような項目の選択割合も高い傾向があるが、20歳代及び30歳代で「どのような条件であれ賛成できない」を選択した者のうち約7割はワクチン接種に対して前向きではない層である。よって、若い年代は、全体としては重篤化リスクの低さから行動制限緩和の条件について比較的寛容な態度を取る傾向が強い一方で、少数派だがワクチン接種に消極的で行動制限の緩和を許容しない層も存在する(約1割)。

4――具体的な利用方法に対する賛否

4――具体的な利用方法に対する賛否

1全体の状況~日常生活や普段の消費行動に関わりのある利用方法で受容性高い
9月の調査では接種証明等の具体的な利用方法についての賛否を尋ねたところ、「賛成」と「どちらかといえば賛成」をあわせた賛成層が最も多いのは「飲食店の営業時間の制限緩和」(56.0%)であり、次いで「介護施設や医療機関での面会制限の緩和」(51.4%)が半数を超えて続く(図表9)。

以下、「飲食代金や施設の利用料の割引、ポイントの割り増し」(48.8%)、「飲食店での酒類提供の解禁」(46.6%)、「緊急事態宣言等発出中の移動制限の緩和」(45.7%)、「提示者限定のイベントの開催」(42.4%)、「提示者限定の国内旅行ツアーの開催」(42.2%)、「飲食店での会食人数の制限緩和」(42.0%)、「イベント会場や施設等入場時の専用・優先レーンの開設」(41.9%)、「企業等における出社制限や入所制限の緩和」(41.0%)」が4割台の僅差で続く。
図表9 ワクチン接種証明等の具体的な利用方法についての賛否(9月、n=2,579)
一方、「反対」と「どちらかといえば反対」をあわせた反対層は「海外からの入国・帰国時の隔離措置の免除」(38.5%)で最も多く、賛成層(26.1%)を上回る(+12.4%pt)。また、反対層は「医療体制が脆弱な地域やひっ迫している地域への移動」(27.1%)でも比較的多い。

つまり、多くの消費者にとって日常生活や普段の消費行動に関わりのある利用方法については受容性が高い一方、多くの消費者にとって日常的ではなく感染拡大を想起させるような利用方法については受容性が低い傾向がある。

なお、「企業等における出社制限や入所制限の緩和」では、どちらともいえない(44.2%)が4割を超えて比較的多いが、これは、業種によって対面での応対が必要な業務、あるいはテレワークが可能な業務のバランスなど異なるためだろう。
2属性別の状況~高齢層は緩和条件には慎重だが具体的な利用には前向き
具体的な利用方法についての賛成層の割合を属性別に見ると、性別では男女とも全体と同様の順位だが、男女を比べると、男性が女性を上回る項目が多く、特に、「医療体制が脆弱な地域やひっ迫している地域への移動」(男性が女性より+7.3%pt)や「海外からの入国・帰国時の隔離措置の免除」(+5.8%pt)では男性が女性を5%pt以上上回る(図表10)。そのほか、「飲食店での会食人数の制限緩和」(+4.3%pt)や「緊急事態宣言等発出中の移動制限の緩和」(+4.1%pt)などでも男性が女性をやや上回る。一方、「介護施設や医療機関での面会制限の緩和」(女性が男性より+4.0%pt)では女性が男性をやや上回る。

前項で見たように、男性は接種証明等の活用による行動制限緩和の条件に対して比較的寛容であり、具体的な利用方法についても比較的受容性が高い。また、男性は海外を含めた移動や会食といった仕事に関わる利用方法について、女性は家庭生活に関わる利用方法について賛成層が多い傾向があるが、当調査における男性の就業率は79.8%、女性は52.8%である。
図表10 属性別に見たワクチン接種証明等の具体的な利用方法についての賛成層の割合(9月)
年代別に見ると、いずれも全体とおおむね同様の順位であり、上位に「飲食店の営業時間の制限緩和」があがるが、若い年代ほど「飲食代金や施設の利用料の割引、ポイントの割り増し」が、高年齢ほど「介護施設や医療機関での面会制限の緩和」が上位に上がる傾向がある。

また、全体的に高年齢層ほど賛成層が多い傾向があり、特に、「企業等における出社制限や入所制限の緩和」(70~74歳は全体より+12.7%pt、60歳代は+5.5%pt)や「提示者限定のイベントの開催」(+12.2%pt、+5.1%pt)、「飲食店の営業時間の制限緩和」(+11.7%pt、+5.2%pt)、「提示者限定の国内旅行ツアーの開催」(+9.7%pt、+5.1%pt)、「飲食店での酒類提供の解禁」(+9.0%pt、+5.3%pt)、「介護施設や医療機関での面会制限の緩和」(+6.0%pt、+5.7%pt)で60歳以上は全体を5%pt以上上回る。なお、全体で賛成層が最も少ない「海外からの入国・帰国時の隔離措置の免除」についても60歳以上では全体をわずかに上回る。

よって、高齢層では女性と同様に行動制限緩和の条件については慎重に捉えているものの、個別の利用方法については全体的に賛成層が多く、前向きに捉えている。なお、「感染しても適切な治療が受けられない」不安のある割合は70~74歳が女性をわずかに上回る(70~74歳73.1%、女性71.2%で70~74歳が女性より+1.9%pt)。つまり、高齢層では、重篤化リスクの高さから感染不安は強いものの、コロナ禍で自粛傾向が強いことなどの影響から、安心安全な環境で消費行動が再開できることをより強く求めている様子がうかがえる。

5――おわりに

5――おわりに~GoToトラベル開始前にブースター接種や接種証明等の有効期限の議論を

政府は来年2月頃からGoToトラベルの再開を検討しており、消費者の強い期待が寄せられている。一方で来年2月は、今年の夏頃までにワクチン接種を完了した層で接種してから半年が経過する頃であり、予防効果の低下が懸念される。行動制限を緩和していく大前提として、感染拡大につながらない安心安全な環境が担保されていることがある。ワクチン接種が先行した諸外国で感染が再拡大している状況などを踏まえれば、日本国内で人の流れが大きく動き出す前に、3回目接種(ブースター接種)とあわせてワクチンの有効期限についての議論を進めるべきだ。また、政府は10月から全国各地で開始された実証実験の成果や改善点等についても速やかに国民と共有し、新たな感染拡大の波を食い止めながら、感染対策と経済再開の両立を図る方策を探るべきだ。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2021年11月26日「基礎研レポート」)

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