2021年11月17日

海底火山噴火の軽石漂着被害-こんな被害が起きると想定されていたか?~災害・防災、ときどき保険(17)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――わが国の最近の火山活動

日本には約440の火山1があるとされており、うち111が活火山とされている。

活火山とは「概ね1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」である。(以前は、さらに、歴史時代に活動記録があるかどうかで、あるものを休火山、ないものを死火山という分類もあったが、火山の活動の長さは、人間のそうした尺度で計れるようなものではないことがわかってきて、現在ではこうした分類はされていない。)これらの中で、特に防災のために監視・観測体制の充実が必要な50火山を、火山噴火予知連絡会が選定し、気象庁が24時間体制で観測・監視を行っている。

さらにそのうち48火山(2021.4現在)2では、「噴火警戒レベル」を適用・公開する運用がなされている。

そうした噴火警戒レベルの有無に加えて、海底火山であるかどうかにもより、以下のような噴火警報等が出されることになっている。
【噴火警戒レベルの適用される火山】(2021.4現在48)
例えば、阿蘇山は10月20日以来、レベル3(入山規制)が続いている。

桜島、諏訪之瀬島もレベル3(入山規制)。
【噴火警戒レベルの適用されない火山】
西之島は、レベルが適用されないものに分類されており、噴火警報(火口周辺)・入山危険、である。
【海底火山】
2021年8月13日に、福徳岡の場(活火山番号77)という海底火山が噴火した。11月8日現在でも、噴火警報(周辺海域)となっている。

ここは有史以来たびたび噴火しており、明治以来に限っても噴火が7回、島の誕生が3回あったとされるが、いずれも波浪の浸食で海没しているらしい。西之島のように安定しないのは、溶岩ではなく軽石が積もってできているためであるという4

さて、この軽石の被害が、今回の問題である。

2――軽石漂着被害の状況

2――軽石漂着被害の状況

1被害の様相
火山から噴出される固形物には、溶岩、火山灰、火山礫、軽石、スコリア、火山弾など様々なものがあって、厳密な分類は難しい点もあるらしいが、軽石は、中に含まれていた水などの発泡により小さな穴が無数にあいており、脆く壊れやすい性質があるものである。

この軽石が、黒潮に乗るなどして、遠く1,000㎞以上離れた大東諸島、沖縄諸島、奄美諸島などの沿岸に漂着して、各種被害がもたらされている。具体的には、今後見ていく必要があることも含めて、以下のようなものが挙げられている。

・いけすの魚が死んだ、など魚がエサと誤って軽石を食べて死ぬ被害
・サンゴなどの生態系への影響
・観光への影響、リゾートホテルのプライベートビーチの白い砂浜に軽石が漂着したこと。
・船の吸水口に軽石が詰まると、エンジンなどが故障する恐れがある。それを避けるため、漁船が漁にでられなくなったり、一部のフェリーが運休したりした。
・その結果、郵便などに遅れを生じた。
・海水を冷却水に利用する発電所、製鉄所等への障害。特に原子力発電所への影響の懸念
2被害への対応と今後の見通し
まずは港湾内にたまった軽石を重機ですくい上げて運び出す作業が行われた。あるいはフェンスを設置して、軽石が港に入るのを防ぐなどの対応が行われてきた。

政府では、軽石の回収、船舶の安全確認を行っている。また漁業被害への支援として、災害復旧事業の補助制度を使って財政面での支援を行うという。
 
福徳岡の場の噴火そのものは8月以降はないようだが、今後、黒潮に乗って本州に近づくという予測シミュレーションがあり、実際、高知県沖あるいは伊豆諸島などでも、軽石の漂着が観測されている(11月15日現在)。さらにこの状況が拡大するようなら、本州の船舶関係者、漁業関係者、そして海水を冷却水に使う原子力発電所も注意が必要となってくる。

ただし、軽石はもろく波風にさらされて砕け、あるいは水を吸って、いずれは海底に沈むとみられるので、全てを回収するよりも、港湾など重点的な撤去処理が必要とされている。
3今回の被害に何を学ぶのか
これは一種の噴火災害であろうが、この事態を想定した事前の備えというのは、あまりお目にかからない。火山噴火時の被害の種類や程度の予想と、それに対する備えは、内閣府の防災会議などで検討されているが、今回のような「軽石漂着被害」というのは、明示的には見かけられないようである。

実際には、住民が多い地域に近い火山での対策が急務であり、被害も大きく、大がかりな対策が必要なことには違いない。それでも、今回実際に深刻な被害を受けている方々はおり、今まであまり想定していなかったことも含めて、火山噴火が起きたらという想像力を高め、対応策を追加・見直しを行っていくことになると思われる。

3――おわりに~民間の保険は何かの役にたつか

3――おわりに~民間の保険は何かの役にたつか

ところで、この軽石被害に対しては、民間の保険は何かの補償がなされるのだろうか。一般には通常の火災保険などでは「地震・噴火」については補償の対象外だということであり、その補償のためには別途地震保険あるいは地震特約に加入していなければならない。という事情がある。しかしこの軽石漂着の被害が火山噴火のひとつとして、あらかじめ想定されていたとは思えないし、損害保険会社の対応なども、個々の被害者には保険契約の内容の確認などが行われているのだろうが、外部の公表された見解などは見当たらないように思われる。また、事業における損害を何らか補償する契約では、地震とか噴火に関わらず、保険金を受け取れる事象が定められているかもしれないし、それは損害保険会社の補償内容や個々の事業者との契約によるのだろう。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年11月17日「基礎研レター」)

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