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火山噴火にはどう対処できるか-めったに起きない大規模災害のひとつ
保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
8月末、政府より南海トラフ地震による被害想定が公表され、最悪のケースで死者32万人とされている。東日本大震災の強烈な経験が生々しいという現状下、この想定は深刻にかつ実感をもって受け止められているようだ。わが国はさまざまな自然災害の脅威にさらされており、地震・津波のほか、台風・水害、そして雪害は毎年のように繰り返される。
こうした中、全国ニュースレベルでは最近比較的静かになっている自然災害が火山噴火である。思い出せば、東日本大震災の直前にニュースを賑わしていた自然災害は南九州の新燃岳の噴火だった。まだ記憶にあるところでは雲仙普賢岳の火砕流被害(1992年)もあった。だから忘れられているものではなく、政府においても8月に「広域的な火山防災対策に係る検討会」が開始され、年度末までに大規模火山災害に備えた具体的対策の提言に至る予定とのことである。もちろんこれは被害を少なくするための事前準備、緊急措置、事後対応などの課題の検討であるが、その後の経済面の影響などの観点から、保険に携わっている立場としても、リスク管理や、保険金支払(の対象になるかどうかも含めて)の面から理解しておく必要があるかも知れない事象であろうと考える。
この検討会の中での「大規模火山災害」というのは、大まかには江戸時代以降に日本で起こった事例のある一定程度大きな(かつ、大きすぎない)噴火が現実的なものとして想定されているようだ。例えば、新燃岳(2011年)、三宅島(2000年)などの規模の噴火は災害としては念頭に置きつつ「大規模噴火」とまではされていない。富士山(1707年)、桜島(1914年、大正大噴火)などの規模が中心であるが、映像もなく実感がない。海外の例で映像にあるものでいえば1991年フィリピン・ピナツボの噴火、そういった規模を想定していると考えればよいのかも知れない。
火山災害をもたらす現象には、噴火によるものとして溶岩の噴出、火砕流、火山灰・火山礫の噴出、火山ガスの噴出などがあり、またそれに伴うものとして火山泥流、山体崩壊、津波、地震、空振などがあるという(内閣府防災情報のページより)。噴火が大規模でも人の活動範囲と重なっていなければ災害としては小さいのだが、検討会ではいくつかの火山噴火の例を挙げて噴火規模や災害の状況を列挙している。発生当時に比べ人口が増加し居住圏が広がり、また通信設備、交通網など多くの生命線を抱えるようにもなっている現代では、火山噴火自体は同じような規模だとしても人間側がこうむる被害は相当大きなものになるだろう。また海外の最近の事例では2010年アイスランドの火山噴火は地元への直接の被害は小さかったものの、大量の火山灰によりヨーロッパ全域、ひいては世界全体の航空路に影響を与えている。精密機械への影響や関連する経済的損失の範囲が拡大していることは過去の被害との大きな違いであろう。
ところで、「大規模噴火」をはるかに超える「巨大噴火」というものもかつてあって、将来的にも周期的に必ず起きるとされているが、政府の検討範囲からは一旦はずれている。日本では阿蘇(9万年前)、姶良カルデラ(28,000年前)、鬼界カルデラ(7,300年前)、などがある。姶良カルデラの場合、鹿児島・宮崎・熊本3県の範囲が火砕流で埋没したとされ、その痕跡がシラス台地として知られている。鬼界カルデラは南九州の縄文文化を壊滅させたとされている。これらは九州地方の火山噴火だが、その火山灰は、各地の地層の分析によれば東北地方でさえ数センチ降り積もったと推定されているため、おそらく日本列島ほぼ全域で降灰による火山泥流などが発生したことであろう。当時は「災害」は小さかったかもしれないが、現代に起こればどういうことになるか。
なお、政府の検討会ではそこまで言及されていないようだが、さらに広域でかつ長期間の影響として、噴煙が成層圏まで達すると微細な火山灰粒子が長期に亘り滞留して日光をさえぎり、地球規模での低温化など異常気象を引き起こすとされる。このことは例えば食料危機を引き起こし、その後治安・国際問題に発展し直接間接に影響を受ける地域・人口ははかりしれない、ということも言われている。
実際に歴史時代になってからもいくつかのケースがあり、例えば5~6世紀頃に起こった巨大噴火(インドネシアのクラカタウとの説がある。)が、当時はそうとは知られないまま、地球規模での異常気象をもたらし、飢饉・伝染病、それに伴う民族の興亡などを通じて各地で歴史そのものを変えてしまったのだとの仮説もある。また、確認できる範囲で地球史上最も巨大な噴火だったとされる7万年前のトバ(インドネシア)噴火の場合、端的にいえばたったひとつの火山噴火で人類は滅亡しかけたとの説も発表されている。
ここまで大規模な火山噴火となると、近代的なものが始まってから200年あまりしか経っていない保険制度への影響またはリスク管理などということはあまりに小さい話で、数万年に一度の話には、コストも含めまじめに付き合っていられないというのが現実ではあろう。しかし最近のリスク管理の考え方では、「絶対おこらない」というのではなく、非常にまれにしか起きないことも一応取上げておくことも重要であると聞く。火山の大規模ないし巨大噴火はいつかは必ず起きる自然現象とのこと。頻度は小さくても、その場の状況を想像しどう対応できるかを、それぞれの分野で時には検討しておくのも悪くないだろう。なお一人一人のレベルでは、自分が生きている間に実際には出会うことのないように、と祈るしかないのだが。
(2012年09月14日「研究員の眼」)
03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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